CULTURE | 2020/07/31

「こんな時期でもホストはやりたい放題」は本当か。行政・保健所とも連携を始めた「夜の街」コロナ対策事情を手塚マキさんに訊く

手塚マキ氏(写真中央)とホストたち。写真は2019年にドイツのアパレルブランドと音楽家がコラボした「NOTON &tim...

SHARE

  • twitter
  • facebook
  • はてな
  • line

手塚マキ氏(写真中央)とホストたち。写真は2019年にドイツのアパレルブランドと音楽家がコラボした「NOTON × KOSTAS MURKUDIS」キャンペーンに参加した時のもの

新型コロナウイルスのクラスター発生源のひとつとしてネガティブに報じられることの多い「夜の街」。

しかし、ホストクラブにしろキャバクラにしろ、感染対策が業界内で全く行われていないと思っている人がいるならば、それは誤解だ。東京都と新宿区、警視庁、ホストクラブの事業者らは結託し、7月20日からは歌舞伎町のホストクラブなどの店舗を回り、感染対策の強化を呼びかけるキャンペーンも始まっている。

そこで、新宿・歌舞伎町でホストクラブ6店舗を経営するSmappa! Group会長の手塚マキ氏を直撃。手塚氏が新宿区や歌舞伎町の同業者らと手を結び、真剣に取り組むコロナ対策とは?

聞き手:神保勇揮 文・構成:庄司真美

手塚マキ

Smappa! Group会長

1977年埼玉県生まれ。埼玉県下の進学校、川越高校出身。大学在学中に新宿・歌舞伎町のホストになり、入店1年目でナンバーワンに。26歳で独立し、Smappa!Group創業。現在、ホストクラブやクラブ、BAR、飲食店、美容室など10数軒を経営。歌舞伎町商店街振興組合常任理事。JSA認定ソムリエ。ホストのボランティア団体「夜鳥の界」を仲間と立ち上げ、深夜の街頭清掃活動を行う一方、NPO法人グリーンバードでも理事を務める。2017年には歌舞伎町初の書店「歌舞伎町ブックセンター」をオープンし、話題に。2018年12月には接客業で培ったおもてなし精神を軸に介護事業もスタート。著書に、『裏・読書』『自分をあきらめるにはまだ早い 人生で大切なことはすべて歌舞伎町で学んだ』(ともにディスカヴァー)、共著に『ホスト万葉集 嘘の夢 嘘の関係 嘘の酒 こんな源氏名サヨナライツカ』(講談社)がある。

「区は“夜の街”の敵ではない」の一言が業界の不信感を払拭

新宿区が行う「繁華街新型コロナウイルス感染拡大防止キャンペーン」の一環として作成されたチェックリスト

―― Smappa! Groupが経営するホストクラブではどんなコロナ対策をしていますか? 

手塚:うちでは新宿区の感染症対策のガイドライン(接待を伴う飲食店・管理者版)に沿って対策しています。たとえば、スタッフのマスク着用や出勤前の検温はもちろん、よく触る場所はこまめに消毒する、料理やおつまみは各自個別に提供する、トイレは定期的に清掃するといったことすべてです。

ほかに、区のガイドラインにはないもので独自でやっている対策としては、入店前の靴底の消毒は徹底していますね。

誤解されているところがありますが、ホストたちのコロナに対する認識は社会全体とそう変わりません。一般的な会社や組織の中でも、コロナに対してかなりセンシティブな人、そこまでではない人がいますよね。そうした比率は同じようなものだと思っています。

―― 一部でルールを守らないホストクラブの報道が話題となりましたが、少なくとも手塚さんの店ではちゃんとコロナ対策をしているわけですね。手塚さんが新宿区や保健所と連携するようになったきっかけについて教えてください。

歌舞伎町界隈のホストクラブやバーなどの経営者が集まるコロナ対策の連絡会には、新宿区長の吉住健一氏(写真左から2番目)と行政の担当者が参加。

手塚: 新宿区長の吉住さんからは6月上旬に連絡をいただき、つながりができました。その翌日に会い、どうすれば2次感染を防げるかを真剣に相談されました。区としてはホストクラブをはじめとする夜の街がどんな状況なのか実態がつかめず、対策がとれずに困っていると。

「決して営業を取り締まりたいわけではなく、感染者が出ても店名公表はしません。今は2次感染をこれ以上作らないためのステージであり、とにかく区民の健康を守りたい」ともおっしゃってくれて、僕らとしても何か協力できることはないだろうかと考え始めました。

ただ、区のそうした思いには同意でしたが、僕を通じてホスト業界に呼びかけても届かないと思ったんです。

区長は、夜の街の関係者に対し、「いくら検査を受けてもらうように呼びかけても受け入れてもらえない」ということで困っていました。

でもこちらからすると、逆に3〜4月の時点では、保健所の事情がわからなかったので、いくらこちらからお願いしてもまったくPCR検査ができず、保健所に行っても門前払いされる人もいて、夜の街の関係者は区や行政に対して不信感があったのです。

だからこそ、「新宿区は“夜の街”の敵ではない」ということを区長の口から直接言った方がいいと思ったのです。そこで、新宿区に話し合いの場を設けていただき、そこに僕が連れて行けるだけの関係者を呼んで集まることになりました。

結果、その会合では新宿区と夜の街の関係者がかなり歩み寄った話し合いをすることができました。そこから夜の街でも区の取り組みに対して協力的になり、少しでも具合の悪い従業員がいればすぐに病院に行かせたり、PCR検査を受けたりした結果、潜在的な感染者が増えていった経緯があります。

次ページ:ホストクラブだけでなく、歌舞伎町のパブやバーも巻き込んだコロナ対策

next