EVENT | 2020/06/29

接触確認アプリ「COCOA」を巡る混乱、何が問題だったのか【連載】高須正和の「テクノロジーから見える社会の変化」(5)

新型コロナウィルスの一環として、厚生労働省から接触確認アプリ「COCOA」が6月19日にリリースされました。政府肝入りの...

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新型コロナウィルスの一環として、厚生労働省から接触確認アプリ「COCOA」が6月19日にリリースされました。政府肝入りのアプリなので注目が集まっていますが、注目が対策を進める方向には向いていないようです。

新型コロナウイルスは社会全体が当事者として解決すべき問題です。日々の生活では手洗いやマスクなどの個人的な衛生管理と、なるべく人との接触を避けることが必須です。社会全体としてはまず医療機関へのリソース追加が必要になります。加えて、接触を避けることと経済活動を保つことの中には、両立できない問題も多くあります。

日本はほとんどの地域で感染拡大を食い止め、今の状態を保ったまま経済を再開していくフェーズにあります。感染拡大期の社会が一丸となって抑制や自粛に向かっていた時期に比べると、考えることが増えて、経済活動と防疫で反対方向を向いている部分もあるので、難しい舵取りが求められる時期と言えます。

経済活動と防疫を両立させる対策として「感染者を限定して隔離することで、社会への影響を抑える」という方針があります。無症状での感染者もあるので完全に実行するのは難しいでしょうが、有効な考え方ではあります。

厚生労働省からリリースされたCOCOAはそうした対策の一つとして、多くの人のスマホにインストールすることで、プライバシーを保った状態で、陽性患者と濃厚接触していた人が接触していたことに気付けるアプリです。誰が接触したか、いつ接触したかなどを知らせる機能はありません。濃厚接触していたかどうかの判定はGoogleとAppleが連携して構築した接触確認APIを利用し、API以外のスマートフォンアプリとしての部分はCovid19-Raderというオープンソース・ソフトウェアのコミュニティが中心になって開発し、パーソルプロセス&テクノロジーという企業が厚生労働省から委託されプロジェクトの責任者になっています。

高須正和

Nico-Tech Shenzhen Co-Founder / スイッチサイエンス Global Business Development

テクノロジー愛好家を中心に中国広東省の深圳でNico-Tech Shenzhenコミュニティを立ち上げ(2014年)。以後、経済研究者・投資家・起業家、そして中国側のインキュベータなどが参加する、複数の専門性が共同して問題を解くコミュニティとして活動している。
早稲田ビジネススクール「深圳の産業集積とマスイノベーション」担当非常勤講師。
著書に「メイカーズのエコシステム」(2016年)訳書に「ハードウェアハッカー」(2018年)
共著に「東アジアのイノベーション」(2019年)など
Twitter:@tks

「オープンソースで開発する」とはどういうことか

COCOAの中核はCovid-19 Raderというオープンソース・ソフトウェアです。このプロジェクトはソフトウェアの共同開発を助けるプラットフォームであるGitHubでソフトウェアのソースコードが公開されています。GitHubにはIssue(改善要望受付)やPull Request(部分的な改善を行って、プロジェクト主に本体への取り込みを要請する)などの機能があり、誰でもソフトウェアの内容を確認し、要望や手元での改修要請を送ることができます。

Covid-19 RaderのGitHubで公開されている開発履歴(6月20~27日の間)

公開後1週間ほど経過した6月27日時点では、合計32人が何らかの形で開発に関わり、505回の修正が行われたことがGitHub上でわかります。公開前も含めた1カ月間の数字を見ると、関わった人数は50名に及びます。

スマホアプリの機能や動作に関する意見や改善は、誰でも表明できてプロジェクトに建設的に貢献していくことができます。要望であるIssueを見ると、エンジニア的でない要望も多く出ていて、それらにも対応が行われていることがわかります。こうしたオープンソース・ソフトウェアへの貢献は、エンジニアに限った話ではありません。

6月27日時点でのIssue。これまで200近い要望が上がり、136はClosed(対応済みか、検討の結果対応の必要がなくなったか)になっている

また、6月27日時点でのPull Reuqestを見ると、これまで92の改善が、合計30人によって本体にマージされたことがわかります。

6月27日時点でのPull Recuest

こうした多くの人を巻き込んだ検証や改善は素晴らしい取り組みです。プロジェクトとして納期や機能に関する責任は、厚生労働省から委託されたパーソルプロセス&テクノロジーにありますが、開発そのものはオープンソース・ソフトウェアのコミュニティが行う形はこれからも増えてくるでしょう。

こうしたテクノロジーを用いた社会貢献は「シビックテック」と呼ばれています。東京都の新型コロナウィルス対策サイトも同じくオープンソース・ソフトウェアとして開発され、短期間で様々な自治体にコピーされる成功例となりました。

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