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アイデア創出の専門家に聞く、ブレストの極意|石井力重(アイデアプラント代表・早稲田大学非常勤講師)
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  • 2018.05.30
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アイデア創出の専門家に聞く、ブレストの極意|石井力重(アイデアプラント代表・早稲田大学非常勤講師)

写真:braster-play

会社で企画を立てなければならなくなった。しかし、なかなかアイデアが出てこない。チームを集めてブレインストーミング(ブレスト)をしても、会議がうまく回らない――。仕事をしていると、そういったケースによく遭遇する。

そんな「アイデアが出てこない」「ブレスト会議をうまくファシリテーションできない」という悩みを解決してくれるのが、アイデアの創出支援家・石井力重氏の講演・ワークショップである。石井氏は年間100日をホテルで過ごし、全国を飛び回ってアイデア創出支援の講演やワークショップ研修を行っている。1年間に出会う受講者は2,000人にも及ぶという。

石井氏は講演の傍ら、ブレスト会議を促進するツールを多数開発している。中には、ある県のものづくり大賞を受賞するなど、自治体からの評価の高いものもある。ツール自体も、商品開発に関わる組織人や中小企業の社長などを中心に、ニッチではあるがヒットしている。

そこで今回は、石井氏にブレストの技法および商品に込める思いなどを聞いた。

聞き手・文・写真:安齋慎平

Rikie Ishii(石井力重)

アイデア創出支援の専門家。アイデアプラント代表。

1973年千葉県生まれ。東北大学大学院・理学研究科修士課程卒業。新卒で商社に入るも、さらなる学びを求めて再び大学院へ入学。その後、NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)のフェローとして3年間、宮城のベンチャー企業に滞在。2009年にアイデアプラントを創業。ブレストの技法が身につくカードゲーム『ブレスター』でみやぎものづくり大賞優秀賞受賞。考えの表出化の補助道具『neko note(ねこのーと)』は、日本創造学会の発表賞受賞。このほか、早稲田大学、東北工業大学、奈良女子大学の非常勤講師を務める。著書に『アイデア・スイッチ 次々と発想を生み出す装置』(日本実業出版、2009年)

不毛なブレスト会議を意味のあるものにする2つの技法

石井力重氏

石井氏によると、なかなかブレストがうまくいかない時は、「二段階ブレスト」と「PPGブレスト」という2つの方法を取ると良いという。

まずは二段階ブレスト。アイデアを分解すると、「What(何をやるか)」と「How(どのように実現するか)」の2つに分かれる。若手は先入観がなく「What」は比較的思いつきやすいが、経験値がないので「How」は思いつきにくい。対してベテラン層は、知識や経験があるため「How」のほうが思いつきやすい。そこで、ブレスト会議を第一フェーズと第二フェーズの2段階に分ける。

二段階ブレスト(SlideShareより)

第一フェーズは「Whatブレスト」。このフェーズでは、こんなのがあったらいいなあという理想案だけ出す。たくさんアイデアが出たら、議長が最も魅力的だと思うものを1つ選ぶ。実現性が難しいものでも問題ない。1つ選んだら、第二フェーズである「Howブレスト」に入る。ここでは、そのアイデアを実現するのはどうすれば良いかのアイデアを出す。Howブレストを経てはじめて、WhatもHowもクリアした「スターアイデア(魅力的なアイデア)」が生まれるのである。ブレスト会議自体も二段階を経るので、若手とベテランを巻き込んだ全員参加型のブレストができる。

日本のブレストがうまくいかない理由は、いきなりWhatとHowを同時に求めてしまうから。何気なくブレストを始めてしまうと、ベテラン層が若手のアイデアを頭ごなしに否定してしまう可能性もあるため、なかなかブレストがうまく回らなくなってしまう。そのような事態に陥らないようにするためにも、二段階ブレストは有効だ。

実はこのブレスト技法は、もともとは石井氏がシリコンバレーのGoogleの本社に取材に行った際に出会ったという。この方法には名前が付いていなかったので、石井氏が「二段階ブレスト」と命名した。

もうひとつは「PPGブレスト」。これは昨年(2017年)、石井氏が日本創造学会で発表したブレスト方法だ。2つのPは「ペア」の頭文字、Gは「グループ」の頭文字である。例えば6人や8人でブレストする際、いきなりブレストを始めようと思っても、会議室全体が沈黙してしまうことがある。そういう時は、全員を2人ずつのペアに分けて6分間ブレストを実施する。いきなり良いアイデアは出なくても良い。アイデアの醸成時間だと思って、今のテーマに対してどんなアイデアがあるかお互いに言い合ってもらう。

PPGブレスト(Slideshareより)

6分間話し合ったら、今度は別のペアを作って6分間話し合ってみる。ここでは、さっき出し合ったアイデアを用いて話し合う。2人ペアだと、カジュアルに意見を言いやすく、コミュニケーションの深度が深まる。

ペアでのブレストを2回繰り返したら、最後は15分間、グループ(全員)で話し合う。このターンでは、アイデアがだんだんと収束に向かっていく。出たアイデアの中から目ぼしいアイデアが出てきて、2つないし3つの大きなアイデアにまとまるのである。これは、限られた時間の中で結論を出さなければならない時に有効だ。

しかし、新入社員や中途採用入社で社歴が浅い社員は、アイデアをすぐに否定されてしまったり、なかなか意見を受け取ってもらえなかったりすることもある。そういう時は、「PPCO」というブレスト手法を取ると良い。PはPlus(良い面)、PはPotential(潜在的な良い可能性)、CはConcern(懸念)、OはOvercome(克服)だ。

まずは「PPブレスト」を行う。ここでは、このアイデアが持っている良い面(P)やポテンシャル(P)を徹底的にブレストする。「このアイデアがあったらどんな良いことが起きるのか」といったポジティブな面を洗い出していく。

次は「Cブレスト」。このフェーズでは、もしこのアイデアを実現したら起こるだろうという懸念事項を徹底的に出す。これ自体もブレストとしてやるので、起きそうにない懸念事項、取るに足らない懸念事項も、思いついたら全部出す。また、他の人の出した懸念事項に便乗してさらに発展させていく。

Cを出し尽くしても、すぐに全部の解決策を考えようとしない。批判ブレストの中には、すぐには問題にならない優先度の低い懸念事項もあれば、クリティカルな懸念事項もある。ここで、「これはクリティカルだな」と思うものには「★」をつけていく。★が多かった懸念事項の上位3個までをピックアップする。

最後は「Oブレスト」。ここでは、懸念事項を打破するには(or無害化するには)どうすればいいか? の対策案を列挙する。★が一番多かった懸念事項の改善案をどんどん出し、それが終わったら2番目に★が多かったもの、3個目に★が多かったものの改善策を出していく。このようにして、アイデアの良いところ・悪いところを出し、上位1個ないし2個の懸念点をつぶしていく。

PPは必要ないのでは?と思うかもしれないが、実はかなり重要。はじめにPPをやらないと、批判から始まってしまうのでメンバーのモチベーションがどんどん下がっていく。すると「このアイデア、難しいから別のアイデアにしよう」と、アイデアを捨てようとしてしまう。これではいくら時間があっても先に進まない。しかし、はじめにPPをやっておくと、精神的な余裕が出るので遠慮することがなくなり、クリティカルな懸念事項が出やすくなる。クリティカルな意見が出ないままアイデアを採用しても、それは大抵失敗してしまうのだ。

創造的な話し合いや会議を促進するカードゲーム『ブレスター』

ブレストをよりゲーム感覚で行いたい場合には、『ブレスター』が有効だ。これはアイデア出しを促進するカードゲームで、石井氏がNEDOフェロー時代に発明した商品である。当時石井氏は中小企業に赴いてワークショップをしていたが、中小企業にとって毎回ファシリテーターを呼ぶのは時間とお金が掛かる。中小企業の社長たちからは、「遊びながらブレストの手法を学べるゲームのようなものが欲しい」という意見が出ていた。

そこで、石井氏は「創造工学のゲームボード」を作ろうと考えた。創造工学というのは、一言で説明すると「いろんなものの集合体」であり、アイデア・発想のメソッドや、クリエイティブシンキングなどの集まりを指す。創造工学のゲームボードは「発想テーマを作る」「発想する」「アイデアを収束させる」「アイデアをブラッシュアップさせる」という過程を内包したかなり壮大なものだったが、商品化には至らなかった。しかし、デザイナーなどの力を借り、エッセンスを切り出したところ、結果としてブレスターとして世に出た。この商品は、企業の商品開発部のメンバーや会社の社長を中心にヒット商品となり、みやぎものづくり大賞優秀賞を受賞した。

なぜシリコンバレーはアイデアの発想が豊かなのか

ブレストするツールが求められるということは、日本人の発想力が乏しいということなのだろうか?また、なぜAppleやGoogleの本社があるシリコンバレーの人たちは発想力が豊かなのか? 石井氏は、シリコンバレーの人たちと日本人では、アイデアの考え方に違いがあるという。

前者は「アウト・オブ・ボックス(箱の外で考える)」。簡単に言うと既存の枠組みの中で解決するのではなく「創造的に考える」「斬新に考える」という思考だ。これ対して後者は「イン・オブ・ボックス(箱の中で考える)」。箱の中をどんどん改良していく、小型化していく、便利にしていく、そういうことは日本人に向いている。シリコンバレーの人たちと日本人では、創造するやり方が違うだけなのである。

例えば、いま崖の前にいるとする。シリコンバレーの人たちの考え方は、崖の先に新しい土地を作るという発想だ。日本人は地面がないところに踏み出せないため、新しい土地がないなら、崖の前の土地に一生懸命ビルを建てようとする。これが箱の中の思考だと言える。

アメリカには「エンジェル」というベンチャーに投資してくれる人・企業がいるが、その存在も「新しい土地」を作る行動に向かわせる要因ではないかと石井氏は話す。日本は自腹で自分の事業に投資することが多いため、今ある土地でなんとかしようと思ってしまうのかもしれない。

ちなみに場所柄でいうと、シリコンバレーには先端人が高密度で集まっている。よって、新しいアイデアを考えた時に、そのアイデアが面白いかどうか多くの人に聞いて回れる環境にある。多くの先端人が「お、いいね」と言うならば、それはかなり良いアイデアなわけだ。でも「それは思いついたし、前やったよ」と言われるなら、それは捨てるか、どこかを変えるべきアイデアと言える。日本で良いものをつくってもなかなか広まらないのは、シリコンバレーのようなレベルの濃い場所がないからだろう。

石井氏の向かう先

最後に、石井氏にこれからの方向性を聞いた。すると返ってきた答えは「創造活動を補佐する道具をできるだけノンバーバルな形で生み出し、世界中に届けたい。そして、世界中の人々の創造的な営みをサポートすることに注力したい」というものだった。事実、製品の一部は海外版がリリースされている。これからもアイデアプラント製品は海外展開していくことだろう。

アイデアプラントの志は、「世界中から尊敬される企業が次々と生まれてくるような社会にしたい」というものである。尊敬される企業というのは、「その製品がなかったら本当に困っていた。その会社があって本当に助かった」と社会から求められ、感謝される会社を指す。今日も石井氏は、未来の生活に役立つものを生み出すきっかけをユーザーに渡すべく、製品開発を続けている。


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