LIFE STYLE | 2020/01/28

【1月30日時点】中国・新型コロナウイルス関連のデマと有用な情報ソースまとめ

関西国際空港を運営する、関西エアポートのツイート
中国を中心に感染が進む新型コロナウイルスによる肺炎。いまだ収束の兆し...

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関西国際空港を運営する、関西エアポートのツイート

中国を中心に感染が進む新型コロナウイルスによる肺炎。いまだ収束の兆しが見えず、次に何が起こるのかと恐ろしい気持ちになるが、それと同様に恐ろしくなるのは「デマ」の蔓延だ。

この記事では1月30日時点で「誤り」であることがはっきりしているデマと信憑性がかなり怪しい情報、そして我々が知るべき信頼に足る情報ソースをまとめ、お伝えする。

文:神保勇揮(FINDERS編集部)

デマその①「関空入りした患者が逃げ、USJと京都へ」は誤り

1月24日、中国版Twitterの「微博(weibo)」で「武漢から来た中国人観光客が関空で発熱・せきをしているのが見つかり、病院へ搬送されたものの逃げた。USJと京都に行きたいのが理由だったらしい」と書かれたつぶやきのスクリーンショットが日本のTwitterで出回った。まとめサイトや愛国保守系のインフルエンサーを中心に情報が拡散されたが、関西空港検疫所および関西空港の運営会社である関西エアポートが「このような事実はございません」とはっきり否定している。

関連記事:新型肺炎でデマ拡散「中国人が関空から病院に搬送、検査前に逃走した」は事実無根「USJと京都に向かった」と広がる(BuzzFeed News)
https://www.buzzfeed.com/jp/kotahatachi/unknown-cause-china

関連記事:デマがSNSで拡散「武漢から関空入りの新型肺炎患者が逃走」 モザイク入り微博画像から(毎日新聞)
https://mainichi.jp/articles/20200124/k00/00m/040/162000c

デマその②「中国人が日本の健康保険制度にタダ乗りして医療を受けようとやってくる」は誤り

2019年1月30日の第7回社会保障審議会年金部会で厚生労働省年金局が発表した「「医療保険制度の適正かつ効率的な運営を図るための健康保険法等の一部を改正する法律案(仮称)」における国民年金法の改正について」より、外国人の健康保険利用を厳格化する制度改正案(赤字が改正案部分)。なおこの改正案は同年5月に国会で可決し、2020年4月に施行される。

1月25日、武漢から日本に訪れた中国人観光客が、「私と家族の健康のために…すみません 日本に来ました」とネットニュース番組「AbemaPrime」の取材に答えた画像がTwitterに出回り、「日本の健康保険を“悪用”するために中国人が大挙してやってくる」と、これまたまとめサイトや愛国保守系のインフルエンサーを中心に情報が拡散されたが、日本の制度上不可能であり、誤りである。

関連記事:新型コロナウイルス「中国人が日本の健康保険を“悪乗り”するために押し寄せる」は不正確。まとめサイトが拡散(BuzzFeed News)
https://www.buzzfeed.com/jp/saoriibuki/corona-virus-health-insurance

現行の制度では、外国人に国民健康保険の加入・保険料の支払いが義務付けられているのは、仕事や留学など3カ月以上の滞在ビザを持っている人とその家族のみ。日本に治療のため訪れる「医療ビザ」も存在はするが、医療ビザで滞在する人は日本の健康保険に加入できず全額自己負担となる。

ちなみに、これに関連して「在日外国人の健康保険不正利用や医療費・保険料の未払いが問題になっている」という言説も増えている。しかし厚労省保健局が2019年6月に発表した「在留外国人の国保適用・給付に関する実態調査等について」によると、2017年では日本の全保険加入者2945万人に対して、外国人は99万人(全体の3.4%)、総医療費(2017年3月から18年2月の診療分)は全体が9兆6478億円のうち外国人は961億円(全体の0.99%)に過ぎない。

厚労省「在留外国人の国保適用・給付に関する実態調査等について」より

また、厚労省は2018年1月から5月にかけて、市町村に対して外国人が在留資格通り活動していない疑い(保険証の貸し借りをして身分を偽るなど)がある場合、入国管理局に通報するよう依頼していたが、通報があったのはわずか2件、そして実際に不正が認められ在留資格が取り消された事例は1件もなかったことも付け加えておきたい。

関連記事:【声明】外国籍者の医療保険加入をめぐる報道と調査についての抗議声明(NPO法人 移住者と連帯する全国ネットワーク)
https://migrants.jp/news/voice/20180803_2.html

厚労省「在留外国人の国保適用・給付に関する実態調査等について」より

なお、1月28日に政府は新型コロナウイルスによる肺炎を感染症法の「指定感染症」と検疫法の「検疫感染症」とすると閣議決定し、感染が認定され入院となった場合、健康保険に加入していない外国人も医療費が無料になる(世帯員の総所得税額によっては月2万円を上限に自己負担が生じる場合もある)。これをしてまたぞろ「中国人が大挙して訪れるのではないか」というSNS投稿が増えているが、①現在すでに感染源となった武漢市は封鎖され移動が制限されており、②かつ中国では団体旅行と旅行会社が航空券と宿泊をセットで手配する個人旅行が禁止されているうえ、③ビザ発給までには時間がかかることもあり、この報道の後に「感染が認定され入院となるような人」が「大挙してやってくる」かは疑わしい

デマその③「致死率が15%」は誤り

厚生労働省HPの「報道発表資料」ページ。毎日正午時点の最新情報が「中華人民共和国湖北省武漢市における新型コロナウイルス関連肺炎について」という記事内にまとまっている(画像は1月29日の発表より)。

1月26日、「コロナウイルスの致死率は15%、感染率は83%。人類史上最凶のウイルスだ」と書かれた台湾のニュースサイトの記事が日本のTwitterで出回り、またまたまとめサイトや愛国保守系のインフルエンサーを中心に拡散されたが、このデータは正確ではない。

このデータは、イギリスの医学雑誌「ランセット」のウェブ版に1月24日に掲載された論文が基となっているが、①2020年1月2日までに、②武漢の指定病院に入院した患者41名のうち、③6名(15%)が死亡した、という話でしかなく、全感染者の致死率とは異なる

感染者数・死亡者数が日に日に増えていくこともあり、恐ろしい気持ちになるのはわかるが、WHO(世界保健機関)によると致死率はおおむね3%程度で推移しているという。

また感染者数・死亡者数は厚生労働省のHPの「中華人民共和国湖北省武漢市における新型コロナウイルス関連肺炎について」という記事が毎日発表されデータが更新されているが、1月29日12時現在、中国では感染者5974名、死亡者132名で致死率は約2%だ。

なお、NHKの解説委員室ウェブ版に掲載された記事「新型コロナウイルス肺炎 ~SARS 新型インフルエンザなどから学ぶ~」における、岡部信彦さん(川崎市健康安全研究所 所長)の説明によると、この20年で猛威を奮ったSARSの致死率が約10%、MERSが約30%であり、これらの数値と比較すると低い。

もちろん、今後ウイルスが変異する可能性もゼロではないが、相対的には「扇情的に大騒ぎするレベルかどうか」は疑問が残る。

関連記事:「新型コロナウイルスは人類史上最凶、致死率15%」は誤り。ネットで拡散、実際は…(BuzzFeed News)
https://www.buzzfeed.com/jp/kotahatachi/unknown-cause-china-2

関連記事:孫尚文さんのコロナウイルスに関する情報についてデマと断言する感染症専門医と、それに対して素人なのに孫尚文を擁護して専門医に喧嘩を売りに行く人達のやりとり(togetter)
https://togetter.com/li/1461647

その他、信憑性がかなり怪しい情報

また、この他にも現在進行形で「武漢の病院で死者が出すぎて処理できない」「武漢では既に9万人以上が感染している」「武漢の医師が手術中に倒れた」「今回のウイルスは武漢にある中国科学院武漢病毒研究所で研究していた生物兵器が外部に漏れ出たため感染が広がった」といった情報がSNSを賑わせているが、そのほとんど全てが海外の信頼性がはっきりしないSNS投稿や、怪しげなタブロイド紙やウェブメディア(中には新興宗教系ニュースサイトも散見される)発だったり、専門家から「それは間違いではないか」とツッコミを受けている情報だったりする。

「正しく怖がる」ために必要な情報まとめ

厚労省「新型コロナウイルスに関するQ&A」より

「未確認だが」「デマかもしれないが」と前置きされた「ネットde真実」情報に一喜一憂するぐらいなら、同じ時間を使って専門家が発信する知識を身に着けた方が有用だろう。どんな脅威も「正しく怖がる」ことが何よりも重要なのだ。

本稿でもネットで確認できる有用な情報ソースをいくつか紹介する。厚労省Q&Aや何人もの医師が指摘している通り、必要なのは手洗いおよび、咳をする際に①マスクをする、②ティッシュ・ハンカチなどで口を覆う、③上着の内側や袖で覆うといった「咳エチケット」の徹底などといった、風邪・インフルエンザ予防と同じ取り組みである。

新型コロナウイルスに関するQ&A(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/dengue_fever_qa_00001.html

新型コロナウイルスに関するQ&A(企業の方向け)(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/dengue_fever_qa_00007.html

新型コロナウイルス特設サイト(ファクトチェック・イニシアティブ)
https://fij.info/coronavirus-feature

特設サイト 新型ウイルス肺炎(NHK NEWS WEB)
https://www3.nhk.or.jp/news/special/coronavirus/?utm_int=news_contents_news-closeup_001

テンセントが開設したデマ検証サイト(中国語)
https://vp.fact.qq.com/home

新型コロナウイルス どれぐらい警戒したらいいの? 感染症のスペシャリストに聞きました(BuzzFeed News)
https://www.buzzfeed.com/jp/naokoiwanaga/ncov2019-okabe

新型コロナウイルスについて知っておきたい20のこと(随時更新)(日経ビジネス電子版)
https://business.nikkei.com/atcl/seminar/19/00030/012900076/

【新型コロナウイルス】感染症専門医師が教える、新型肺炎について今知っておくべきこと(ハフポスト日本版)
https://www.huffingtonpost.jp/entry/story_jp_5e2a8d53c5b6779e9c30527b

忽那賢志さん(国立国際医療研究センター 国際感染症センターに勤務する感染症専門医)のYahoo!ニュース 個人の記事
https://news.yahoo.co.jp/byline/kutsunasatoshi/

藤田康介さん(上海東和クリニックで中国伝統医学医師。上海甘霖健康相談所董事長の医師)のツイート
https://twitter.com/mdfujita

なお、もし具体的な不安を感じる人がいれば、下記のホットラインで相談してみてほしい。この他にも各地の自治体や政府機関が電話相談窓口を設置しており、外国語に対応した窓口もある。

厚生労働省(9時から21時まで、土日祝日も対応)
※感染が疑われる人を対象に、医師資格を持つ職員が対応
03-3595-2285

東京都(9時から21時まで、土日祝日も対応)
※感染予防や心配な症状があらわれた時の相談を、医師や保健師などが対応
03-5320-4509

日本政府観光局(JNTO)
※24時間・英語、中国語、韓国語、日本語で対応可能
050-3816-2787

関連記事:外国人観光客が新型コロナウイルスに感染したら?多言語の相談窓口がこちらです(BuzzFeed News)
https://www.buzzfeed.com/jp/sumirekotomita/coronavirus-tagengo-soudan

デマを流す人たちは、それが完全に誤りであったと発覚しても「中国政府は本当の情報を隠蔽している(これは一部確かにそうであるという報道が出始めてはいるものの…)」「日本政府・日本人は平和ボケしすぎている」「本当かもと思わせるようなことばかりする中国政府・中国人が悪いのだ」「日本国民の命を守りたいと思っての行動だ」などと言い放って自身の誤りを認めないことが多い。

すでに指摘している人も多いが、1923年の関東大震災に乗じて「朝鮮人が井戸に毒を入れた」というデマが流れ、多数の人が殺害されるという悲劇が起こった。ハリウッドのパニック映画さながらの扇情的な見出しが踊る、怪しげなウェブメディアの記事やYouTuberの動画、そしてSNS投稿を信じ、あまつさえ拡散することは、いくら「未確認だが」「デマかもしれないが」と前置きを置こうが、そうした行為が起きかねないムードづくりに加担しているのだという自覚を持ってほしいし、シェア・RTする前に一呼吸置いて「これは本当に信頼に足る情報なのか」を確認してほしい。