(写真)自由が丘ワークプレイスでの打ち合わせ
倉貫義人
株式会社ソニックガーデン代表取締役
大手SIerにてプログラマやマネージャとして経験を積んだのち、2011年に自ら立ち上げた社内ベンチャーのMBOを行い、株式会社ソニックガーデンを設立。ソフトウェア受託開発で、月額定額&成果契約の顧問サービス提供する新しいビジネスモデル「納品のない受託開発」を展開。会社経営においても、全社員リモートワーク、本社オフィスの撤廃、管理のない会社経営など様々な先進的な取り組みを実践。著書に『「納品」をなくせばうまくいく』『リモートチームでうまくいく』など。「心はプログラマ、仕事は経営者」がモットー。ブログ http://kuranuki.sonicgarden.jp/
セルフマネジメントを推進する組織
前回は、内発的動機づけによって、自律的に働く人たちの生産性を最大化するという考え方を紹介しました。
内発的動機づけに必要な「なぜそれをするのか」という目的は、会社に必要なのはもちろんのこと、そこで働く個人にとっても大事なことです。
特にセルフマネジメントで働く人たちにとっては、会社のために働くというだけでなく、自分自身の人生のため、成長のためにも働くという意識も強く、そうであるからこそ管理されなくても働くのです。個人にとっての「働く理由」があるはずです。
なぜ働くのかという質問に対する答えが、しっかりと自分の中にある人はセルフマネジメントに向いています。ただ漫然と働く人は、やはり管理されないと働けないように思います。
「そんな風にセルフマネジメントができて、顧問として自分のお客様がいて自立できるのに、社員の人たちは会社を辞めたりしないんですか?」
そんな質問を受けることがあります。今のところ、7年会社をやってきましたが、修行中に辞めた人はいますが、一人前と呼ばれるキャリアになって辞めた人はいません。つまり、セルフマネジメントできる人ほど辞めていないのです。
セルフマネジメントができることと、会社で所属して働くことは、けっして相反することではないのです。
フリーランスになるだけでは得られない自由
組織に所属してサラリーマンで働くよりも、フリーランスになった方が圧倒的に自由でしょう。なにより、仕事をするもしないも、自分で選ぶことができるのですから。嫌な仕事は断ればいい、ただし、それで食っていけるかどうかは自己責任です。
フリーランスは基本的に一人で働くことになります。自由な反面、すべての作業を自分でこなさなければいけません。得意なことならば良いのですが、苦手な仕事であっても時間をかけてやることを受け入れるしかないのです。
プログラミングがとても好きで得意だったから、フリーランスとして独立したものの、次の仕事を見つけるために苦手だった人脈作りや営業をしなければ…なんて話も聞きます。
契約に伴う経理や手続き、仕事がなくなったときのために備えた資金繰りなど、本業以外の仕事はいくらでもあります。想像してたよりも本業にかける時間が取れないなんてこともありえます。
果たして、そのワークスタイルは望んでいたものなのでしょうか。
もちろん向いている人も沢山いると思いますが、フリーランスになったからといって、完全な自由が得られるわけではないということです。
会社とは何か、チームはなんのためにあるのか?
セルフマネジメントのチームについて話をすると、よく誤解されるのが、ソニックガーデンはフリーランスの集まりのような組織だというものです。
私たちソニックガーデンは、れっきとした会社組織です。会社ですから、仕事があってもなくても、全員にきちんと安定した給与が支払われます。利益さえ出れば賞与だってあります。安定した生活基盤の上で、助け合いをして、会社全体への貢献も行います。
それに、すぐに稼ぐことのできない新入社員の採用も行なっています。長期的な視点で育成に対する投資ができるのも、会社という組織だからこそでしょう。
私たちの会社には、もともとフリーランスだった人が社員として入社してくれるケースもあります。そんなセルフマネジメントができる人たちでも、あえてチームで働こうと思ってくれるのは、チームで働くことの良さがあるからです。
私たちの考える会社とはチームのことであり、チームとは何かと言えば、共通の目的のために協力し合える関係の集まりのことです。
もっと具体的に考えるなら、気兼ねなく助け合いをするために、出来高制や歩合制で働くのではなく給与制で働くこと、いつでも相談できるようにするために、日中のフルタイムで働くことが条件ではないでしょうか。私たちは、その条件を満たして働きます。
またチームで働くメリットは、自分の得意分野をより一層活かすことができるということです。どんな人にも得意不得意はあります。ある人にとっての不得意は、誰か別の人の得意ということもあります。そうした互いの不得意を得意で補うことができるのがチームです。
社員の全員が手を動かす、仕事は兼務する
私たちソニックガーデンは会社ではあるものの、会社の事業をまわして拡大していくための労働力として人を雇っているわけではありません。
あくまで、一緒に働くことが楽しいとか、会社と個人のビジョンが一致しているとか、そういった理由で採用して仲間になってもらっています。
この辺りが一般的な会社とは違うところになります。会社というよりも、互いに何かあったときのためにお金を出しあう互助会や、共通の価値観で集まったコミュニティのようなものが近いかもしれません。稼ぐ手段としてのビジネスモデルを備えたコミュニティです。
そう考えると管理職がいなくて、指示命令がないということがしっくりきます。雇用主と労働者といった関係ではないのです。株式会社という便宜上、私と副社長が株主になってはいますが、オーナーという感じではありません。
そんな組織の中には、顧問プログラマとして働くメンバーと、経営をするメンバーしかいません。私たちの組織における経営の仕事とは、プログラマがしない仕事のすべてを担うことです。経営とかっこよく言うものの、要は何でも屋であり、雑用係でしかありません。
そして、部署がなく役割も限定しないので、社員の誰もがいくつもの仕事を兼務して働いています。
「一人前」と呼ばれるメンバーは顧問プログラマとして働きながら、自社サービスの開発にも携わります。「弟子」と呼ばれる新卒で入社したメンバーは経営の仕事を手伝いながら、プログラミングの腕を磨ける仕事もします。
全員が何らかの形で手を動かして、価値を生み出す仕事をしているのです。管理だけしている人などいないのです。
得意を活かして自由でいるためにチームで働く
「雇用の創出」という言葉を掲げて、会社を大きくしようとする経営もあります。しかし、少子高齢化する現代において、そのスローガンは少し虚しく響きます。
時代の変化とともに会社のあり方も変わっていくのではないでしょうか。少なくとも、私たちはフラットな関係性で集まった仲間としての集団といった会社組織になっています。
雇用を作り出すために会社にしているわけではありません。私たちは、自分たちが大事にしているプログラマの文化があって、その文化を広げていきたいと願っています。そのための仲間でありチームです。
そのために、メンバーそれぞれが自分の得意な領域で貢献します。一人でなんでもできる必要はありませんが、他の人を助けられるような得意分野があることが望ましいでしょう。
得意なことで貢献できるなら、苦手なことは誰かに任せることができます。そうすると、より一層と得意なことに没頭することができるようになって、さらに得意になっていくでしょう。それは好循環だし、苦手なことからの自由を得ることができるのです。
会社で働くことで、不安定な生活からも自由になれます。一方で、セルフマネジメントで働くため、時間の使い方や働き方、仕事の進め方に対する裁量が非常に大きく、そこも自由度が高いと言えます。
完全フレックスで働く時間も自由、全員リモートワークで働く場所も自由。地域の活動や、個人的なビジネスなど副業だって自由です。
こんな風に、もしかするとフリーランスでいるよりも自由でいられる会社もあるのです。そこまで自由であれば、会社を辞める理由はほとんどありません。