CULTURE | 2019/11/05

「変態仮装行列」の中で何が起こっていたか。あれだけ批判されても「渋谷ハロウィン」に大勢が集まる理由【後編】

前編はこちら
取材・写真・文:神保勇揮
センター街に爆音で鳴り響く「蛍の光」。ただもう終電ないんですけど&helli...

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取材・写真・文:神保勇揮

センター街に爆音で鳴り響く「蛍の光」。ただもう終電ないんですけど…

この写真を撮影したのは深夜1時26分。もうJR渋谷駅のシャッターも閉まっているが、ものすごい数の人たちがセンター街や道玄坂へと繰り出していく

渋谷区は今年のハロウィンについて「できるだけ皆さんに終電で帰ってもらうようお願いしていく」という方針であるとする記事をどこかで見かけたが、その施策のひとつは「センター街で蛍の光を爆音で流すこと」だった。

深夜を過ぎ、体感としては半分から3分の2ぐらいの人が帰ったようにも感じたが、相変わらずスクランブル交差点からSHIBUYA109、東急百貨店にかけての歩行者天国状態は続いてはいるし、仕事終わりなどでこの時間から渋谷に繰り出す人たちも大勢見かけた。

どの路線も完全に運行を終えたであろう時間になっても「蛍の光・爆音バージョン」は変わらず鳴り響いており、仮にここにいる全員がホテルや漫画喫茶に泊まろうと思っても、すぐにキャパオーバーになってしまいそうなほど残っている群衆のざわめきにかき消されてしまう光景は、なかなかシュールだった。

池袋で飲んでから終電で渋谷に駆けつけたという20歳前後の男子5人組。ちなみに池袋では全然盛り上がりムードはなかったとのこと

そして宇田川町では即席DJパーティが始まった

車のトランク部分にBluetoothスピーカーを積み込み、スマホ片手の即席DJパーティの様子。車道の通行が妨げられている大迷惑な行為にもみえるが、この時間にここを通る車・バイクの大半は同じようなことをするためにグルグル周回しているだけだ

いろんな意味で日本屈指の大規模イベントである渋ハロには、当然ながら「目立ちたがり屋」も数多く引き寄せる。けたたましいエンジン音を鳴らし、爆音でEDM、ヒップホップなどを流すバイク集団・車野郎の集団が、東急ハンズやHMV record shop 渋谷付近の道路に駐車し集会を始める光景が渋ハロでの“恒例行事”のひとつになっているようだ。

しばらくすると警官が駆けつけ、蜘蛛の子を散らすように逃げていくいたちごっこが続く。皆さんお疲れ様です…

このエリアに集う集団は、センター街でコスプレを謳歌している集団とも少し違った属性のようにもみえるが、いかんせん暴走族っぽい、あるいはオラオラ系の風貌の人が多く、話しかけて殴られでもしたらどうしよう…と正直ビビっていたところ、通りがかる人全員に「一緒に踊ろう!」とフレンドリーに呼びかけまくる、The・陽キャとも言いたくなるような若者集団を発見。彼らも騒音を撒き散らしていることには変わりないのだが、周囲の人を笑顔にするようなピースフルな雰囲気が流れていたことも事実だ。その即席パーティの輪に入って、踊りながら話を聞いた。

彼らは栃木県からやってきた20代前半の若者たち。普段はクルマ好きのメッカの一つとして海外からも知られる横浜の大黒パーキングエリアで遊んでいるが、渋谷にはノリの良い外国人が多いため、一緒に楽しむために遠征してきたという。

渋谷ハロウィンに対してネットで多く寄せられる揶揄のひとつに「どうせ田舎者が大集結してるだけだろ」というものがあるが、去年も含め「どこから来たか」と質問しても、ほぼ全員から「1都3県のどこかから」という答えが返ってくるし、この日も一番遠くから来たと答えたのが彼らだった。本当に全国各地から人が集合したら、いろんな意味でこんなものじゃ済まないだろうという気もしてくる。

ジョーカーのコスプレ、ヨーダの顔マスクを被りながら電子タバコを吸う男性、長身の黒人などが次々と爆音に吸い込まれ輪に加わる、まさしく老若男女から忌み嫌われる「変態仮装行列」な光景だが、流れる雰囲気はとても優しい

どこからともなく出回り始める缶チューハイ

赤線で囲まれた地域が、「渋谷駅周辺地域の安全で安心な環境の確保に関する条例」で定められた路上飲酒制限エリアとなっている

前編では「路上でお酒を飲んでいる人をほとんど見かけなかった」と書いたが、それも終電が終わるまで。24時を過ぎたころに道玄坂方面へ向かうと、道行く人の多くが缶チューハイやハイボール缶を片手にしている。

この写真を撮影したのは深夜1時3分。終電時間を過ぎてから、如実にゴミやタバコのポイ捨てが目につくようになった

上の画像の赤線で囲まれた区域は、渋谷区が今年6月に定めた路上飲酒およびお酒販売を禁止する条例での制限エリアを示したものだが、違反しても罰則はなく、あくまで民間警備員や警官が飲酒や販売の「自粛」をお願いしてまわる格好となる。

朝日新聞が10月26日の渋谷ハロウィンの模様を伝えた記事によると、警備員・警官が路上飲酒を見かけるとその場で缶やビンを没収する例もあったそうだが(筆者が足を運んだ26日・31日ともに確認はできなかった)、制限エリアを歩く中でお酒を販売している店舗がゼロだったかといえば存在していた。警官の目の前でお酒を飲んでいても注意されている様子もない。

ポイ捨てや暴力、器物破損などはもってのほかだが、終電を過ぎればある程度のことは自己責任なんじゃないかとも正直思ってしまう。筆者としても、警備員や警官を責める気持ちはまったくなく「ある程度は黙認するが、何かあれば即座に対応する」というバランス感覚には共感を覚えた。何かと規制規制になりがちな世の中ではあるが、グレーゾーンにいるという自覚のもとで調子に乗らず、ひっそり・こっそり愉しむ余白が多少はあってもいいと思う。

とある場所では、どこからともなくテキーラやウイスキーのショットを移動販売する若者が現れ、乾杯する光景も繰り広げられていた。ちなみにこの横では泥酔して倒れている女性がいたが、すぐに警備員が駆けつけてくれていた

加えて、そもそも人が集まるのに意図的に地域事業者にお金が落ちないような構造にしてしまうと、誰にとっても旨味ゼロどころか損しかしない“災害”でしかなくなってしまう。禁止エリアをギリギリ超えた場所でお酒を売っている人に話を聞くと「思ったよりも全然売れていないし、このままの売れ行きだと赤字の可能性もある。区は規制することだけ考えているようにしか見えないし、もう少し来場者と事業者が共存共栄できるような施策を実行してほしい」という不満の声を漏らす。

ちなみに、去年の渋ハロでは多くの人がストロング系缶チューハイを浴びるように飲む一方、センター街の居酒屋でさえほとんど人が入っていないという衝撃の光景が繰り広げられていたが、今年はどこも概ね集客できていたようだった。外国人グループが楽しそうに談笑している姿も目立つ。一方で飲食を提供しない、早期閉店を迫られる(あるいはガラガラ状態の)小売店が多数存在しているのも事実で、ここらにもお金が落ちるような仕組みが整えられればもっと良くなるようにも思う。

GU渋谷店の張り紙。小売店は18時前後で閉店している店舗も多かった

丑三つ時を過ぎてもまだ元気。眠らない文化祭

『Re:ゼロから始める異世界生活』の人気キャラである、ラム、レムのコスプレをした二人組。彼女らが数歩歩くごとに写真撮影を求められていたが、そのどれに対しても好意的に対応していたのが印象的だった

深夜2時をまわり、そろそろ疲れてきたしどこか居酒屋にでも入ってこの記事を書き始めようと思い、改めてセンター街から道玄坂を一通り歩いてみたが、若者たちは酒の力も借りてまだまだ有り余るエネルギーを発散させていた。駅前で何をするでもなくたむろする若者の姿は珍しくないが、それが同時に数千~数万人規模となると壮大なオールナイトイベントにも見えてくる。

80年代のニューヨークよろしく、ラジカセを担いで爆音を鳴らす外国人を何組も見かけた

深夜から訪れた大学生グループと仕事終わりの集団がお酒を飲んで意気投合

渋谷ハロウィンはパリピ、陽キャだけのものじゃない!

フランスからやってきたマダム3人組。「欧米ではハロウィンは子ども向けイベントだけど、渋谷では若者がクレイジーに楽しんでいてとても素敵。私たちもクラブに行きたいから、良いところがあったら教えてちょうだい!」

深夜3時を過ぎ、座り込んでたむろする若者も目立つ中、ナンパ野郎たちは最後の追い込みをかける

クラブはどこも朝まで大行列が途切れることはなかった

あれだけ酷かったゴミが、早朝にはほとんどなくなった

渋谷区や東急電鉄、ドン・キホーテなどが参加する「ハロウィンごみゼロ大作戦」が設けたゴミステーション。ハチ公前広場や宇田川交番前など、4カ所に設置されていた

原稿を書こうと入った居酒屋では、「オレはオールブラックスのボーデン・バレットだ」と名乗る謎のニュージーランド人(写真と比較したけど全然違う…)に絡まれて遅々として進まず、朝5時半を迎えてしまったのでゴミ拾いの模様を取材しに行くことに。いくつものボランティア集団が早朝に清掃活動をしていることは知っていたが、よく観るとコスプレして遊びに来ていたであろう若者たちも、共通のオレンジ色のビニール袋を持ってゴミを拾っている姿が目立った。

彼は医者のコスプレをしていたが、わざわざ足元は裸足スリッパになっており、寒くなかったのだろうか…

話を聞くと、ハチ公前広場や宇田川交番前など、計4カ所に設置されているゴミステーションでボランティアを募集しており、話しかければ誰でもゴミ袋・火ばさみ・軍手を貸し出してくれて、どのゴミステーションに返却しても構わないのだという。

裸足スリッパの彼と一緒に渋ハロに訪れたメイド服の女性

ちなみに初めて渋ハロに来たというメイド服の女性に今年の感想を聞くと「男性が隣にいないと、とにかくすれ違いざまやナンパする最中に身体を触られて、不快で仕方なかった」とのこと。筆者も道行く男性が「おっぱい触りてえ」「ケツ触りてえ」と軽口をたたくのを100回は耳にしたが、マジでそういうのはやめよう! 産経新聞の報道などでもある通り、痴漢はバッチリ現行犯で逮捕される。ただあれだけの人数がいて、たった2人しか逮捕されていないとも言えるが…。

筆者もこの記事を書くために渋ハロを利用してきたので、入場料のつもりで帰り際のゴミを拾って歩いてみた。センター街からJR渋谷駅に向かう道すがら、ゴミを探して歩いたが、深夜帯にあれだけ見かけた空き缶やタバコの吸い殻は、注意深く探さないと見つからないほどだった。

それもそのはずで、このゴミ袋を持ったコスプレ姿の若者を20人ほど見かけたし、ゴミ拾い集団はこれだけではないのだ。ゴミ拾いのためだけに集まるのではなく、しっかり遊んだ人間が後片付けをしているのを見ると、渋谷のハロウィンも外から来て騒ぐだけ騒いで終わりではなく、中からより良いものにしていこうという帰属意識が芽生える可能性もあるんじゃないかという気がしてくる。

筆者が拾ったゴミ。8割がタバコのポイ捨てだった

渋谷ハロウィンの明日はどっちだ

早朝の模様を撮影するTVクルーも。お互い来年もがんばりましょう

先程も触れた各種報道によると、今年の渋谷ハロウィンの逮捕者は11月1日時点で4名。昨年と同程度の来場者が訪れたにも関わらず、半分以下である。大事故・大事件が起こらず11月1日の朝を迎えるべく、傍目からも如実にわかるほど苦労を重ねていた警官・警備員の皆さんには本当に頭が下がる。

あらゆるメディアが渋谷のハロウィンを袋叩きにしても意味はない。批判派が溜飲を下げるだけだ。若者たちは集まり続ける。だからといって迷惑行為が横行したり、地元事業者が損をしたりするのも後味が悪い。

ではどうすればいいのか。個人的には、国際カジノ研究所の所長でナイトタイムエコノミーにも詳しい木曽崇氏がYahoo!ニュース 個人に投稿していた記事「渋谷ハロウィン問題を解消する為の唯一の方法」の方向性に賛成である。

同記事では誰も呼びかけずとも渋谷に人が集まりすぎてしまう「オーバーツーリズム」の現状を認めたうえで、地域の事業者に落ちるお金を少しでも増やして差し引きの合計をプラスにすべく、街コンなどの店舗回遊イベントの実施を提言している。

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「現在、路上イベントとしての性質のみが強調されている渋谷ハロウィンに対して、ポジティブな方向で解決策を与えるのなら、現在、屋外のみで滞留している人の流れを各商業店舗を起点とした「街歩き」の方向へと振り向けるこの種の企画が必要となる。そうやって、現在コストとベネフィットの関係がマイナス側に向かって傾いている渋谷ハロウィンの「天秤」をプラスの方へと傾けて行くしかないのです。
残念ながら今の渋谷区には、本問題をそういうポジティブな方向でコントロールしてゆく知恵がない。というか、そもそも様々に発生している問題を「渋谷区のせい」にされるリスクを嫌い、渋谷ハロウィンというイベントそのものに積極的に介入することを放棄してしまっているのが実態。残念ながらそのスタンスでは一生、渋谷ハロウィンの存在が渋谷の街にとってプラスに転換することはないだろうな、と非常に残念に思っておるところです」(同記事より原文ママ)

昨年と今年の2年間、10月31日に渋谷を歩き回った筆者としても、明らかに「屋内スペース」はまだ空いていると感じた。ここで地域事業者、そして渋谷区が儲かれば、猛批判を浴びた「対策費1億円」の原資にもなるかもしれない。課題は多いかもしれないが、少なくとも昨年よりは格段に良くなった。良くも悪くも「日本を代表するハロウィンイベント」となってしまった以上、少しでも来訪者、地域事業者がwin-winになれる関係性を築くことがいつかできることを願っている。