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日本人は本当に「環境問題に興味が無い」のか。オランダ最新事情から見えてくる日本のビジネスチャンス【連載】オランダ発スロージャーナリズム(18)
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  • 2019.10.18
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日本人は本当に「環境問題に興味が無い」のか。オランダ最新事情から見えてくる日本のビジネスチャンス【連載】オランダ発スロージャーナリズム(18)

最近改めて注目されている木造住宅。写真は「フォローティングハウス」という、運河の上に建てられた住宅街。この住宅街はゼロエミッション(廃棄物を自然界に排出しないことを目指す取り組み)を目指しています。

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この10月、日本を襲った台風は近年まれに見る規模。ここ最近の自然災害は過去に例を見ないほど凄まじく、いまだ生々しく全国にその爪痕が残っているかと思います。まずは被災された方には心よりお見舞い申し上げます。

実はこうした自然による大規模災害は、日本だけではなく世界規模で見ても近年激増しています。今年の9月頭には、カリブの島国ハイチを過去最大級のハリケーンが襲いました。そして、なんとハリケーンが直撃した一晩だけで、ハイチのGDPの58%が失われ、40万人の国民のうち7万人もの人がホームレスになってしまったというニュースもあります。

世界ではこうした傾向は、人間の地球上での活動の結果もたらされた気候変動が理由ではないか?と考えられています。ここで「考えられています」と書いたのにはわけがあります。実は、ヨーロッパではすでにこうした凶暴化する自然災害は、ハッキリと人間の活動がもたらした気候変動によるものとしています。しかしアメリカなど一部の国では、まだこうしたことの因果関係を認めていない国もあります。ということで「考えられています」としましたが、ヨーロッパではすでにここには議論の余地はありません。

ということで、今回はオランダやヨーロッパなどの、こうした環境問題への取り組みについてご紹介したいと思います。

吉田和充(ヨシダ カズミツ)

ニューロマジック アムステルダム Co-funder&CEO/Creative Director

1997年博報堂入社。キャンペーン/CM制作本数400本。イベント、商品開発、企業の海外進出業務や店舗デザインなど入社以来一貫してクリエイティブ担当。ACCグランプリなど受賞歴多数。2016年退社後、家族の教育環境を考えてオランダへ拠点を移す。日本企業のみならず、オランダ企業のクリエイティブディレクションや、日欧横断プロジェクト、Web制作やサービスデザイン業務など多数担当。保育士資格も有する。海外子育てを綴ったブログ「おとよん」は、子育てパパママのみならず学生にも大人気。
http://otoyon.com/

ヨーロッパはSDGsよりもパリ協定を重視

さて、この手のこと、例えばサステイナブルな話やSDGsを話題にした記事、実は日本ではガクッと注目度が落ちます。例えば、今年4月に、この連載でも紹介したスウェーデンの高校生グレタ・トゥーンべリさんの記事。当時、ヨーロッパではすでに大きなムーブメントになっており、オランダでもうちの子どもが通う小学校でさえ「学校を休んで金曜日のデモに参加してもよい」という通知があったくらいです。グレタさんの始めた活動は、最近でこそようやく日本でも紹介されるようになったためご存知の方も多いと思いますが、4月の時点ではこの連載記事はまったく話題になりませんでした。

また6月に紹介したサステナブルな観点から、オランダの「食」が賑わっており、そういう視点で見ても「日本食には大チャンスである」という記事。日本人にとっては、ビジネスにも直結する貴重な情報だと思って紹介しましたが反応はサッパリでした。

また無理矢理ヨーロッパの「サステイナブル」な取り組みを、日本の企業やメディアに紹介したり、つないでも、いまだに「日本ではサステイナブルは金にならないですからね…」という塩対応をされています。

ところが、少しだけ風向きが変わってきたかな…と感じるのがSDGs。こちらはご存知の方も多いと思いますが、 2015年の国連サミットで設定した2016年から2030年の持続可能な世界を実現するための17分野のゴール設定です。いわば2030年の国際環境目標です。

こちらは日本企業でもさかんに言われるようになってきた感じがします。とはいえ、まだまだ「企業として取り組まないとダメなんでしょ?」「儲からないけど、とりあえずSDGsに取り組んでますと言えるようにしておかないと」といった感じも受けます。または逆に、セミナー主催者などは、とりあえずタイトルなどで「SDGs」と言っておけば良いといった感じも見受けられます。

一方で、実はオランダ(ヨーロッパ)では、そこまで SDGsというワードは目にしません。これは逆に、日本では数少ないSDGsに関心をもっている方には意外かもしれません。というのは、実はオランダ(というかヨーロッパ)で、重要視されているのは「パリ協定」なのです。

パリ協定というと言葉だけは聞いたことがある人も多いのではないでしょうか。こちらは2015年に気候変動抑制を目的として多国間で合意したもので、法的拘束力を持ったものです。国連サミットのSDGsとは違い、参加国全てに法的拘束力を持った協定である、という点が大きな違いです。

パリ協定の具体的な内容は、2018年に開かれたCOP24で決定しました。2050年までに気候環境に負荷を与えない経済の実現を目指すためのビジョンで、実はEUが他国を先導し世界に向けて明示したものでした。そして、今後EU自らでも電力、産業、輸送、農業、建物などの各分野で、低炭素社会への移行に向けた多角的な取り組みが計画されています。

EUが主導し、各国がプライドを持って推進するパリ協定

住宅街にある「ブックシェア本棚」。読み終わった本を置いたり、読んでみたい本を持って行ったり。期限もなし、誰でもフリー。時には「おもちゃのシェアボックス」があったりもします。

この「パリ協定」はEU自らが世界に率先して環境問題に取り組んでいくことを約束したものです。なので、EUはこれを機に完全に環境リーダーとなるべくすべての問題に取り組んでいこうとしています。

実はここで、日本にとってはちょっと残念なことがあります。パリ協定の前に存在していた世界の環境に関する取り決めは1997年に採択された「京都議定書」。こちらも聞いたことがある人も多いと思います。文字通り京都を舞台に、そして日本がリーダーとなって取り決めたものですが、パリ協定はいわば、京都議定書を引き継ぐような形で採択されたものなのです。

しかし、パリ協定にはTPPの交渉などと時期が重なったこともあって、日本はあまり積極的に関与できませんでした。本来なら「京都議定書」の流れを汲んで、世界のリーダーとして環境問題へ取り組むべき、あるいは取り組めたのではないか?と思うのですが、パリ協定制定にあたっては、完全にEUにそのポジションを奪われてしまったのです。筆者は、この時のEUと日本との温度差がいまだに大きいままだと感じており、EUから見ると恐ろしく環境問題などに対して意識が低いのを感じます。環境大臣が、環境サミットに出席して「ステーキを食べた」ことをあんなに大々的にニュースにしてはいけないのです(肉の生産は、環境負荷が非常に高いとされているため)。パリ協定にも、EUとならんでリーダー国の一つとして関与しておけば、2020年のオリンピック・パラリンピックでは、環境問題においても世界に大きなアピールが出来たと思うと非常に残念です。

ということで、オランダ(ヨーロッパ)では、こうした気候変動や環境問題に取り組むことは、EUの指し示す方向性と一致しており、かつ国民の関心も非常に高いのです。もちろんSDGsでも目指す方向は同じですが、オランダではパリ協定やEU委員会で設定された、環境や気候変動に関する条例や目標をブレイクダウンし、各国やそれぞれの都市で独自の取り決めがあったりするので、そちらを重視する傾向があります。

ちなみにアムステルダムなどでは、独自に設定された目標レベルは、ほぼすべてにおいてパリ協定での目標を前倒しするような設定がなされています。

サーキュラーエコノミーは新しい経済の形

アムステルダムの北にあり、運河に面した人気のレストラン「pllek」。コンテナなどをリサイクルして建てられていのですが、よく見ると簾が。

さて、気候変動を始めとした環境問題への取り組み方は、日本とヨーロッパではこうした背景の違いもあり、オランダから見ると、この分野では日本はかなり遅れているように感じてしまいます。

こうした持続可能な発展を目指す経済を、オランダでは「サーキュラーエコノミー(循環型経済)」と称して強力に推進しており、リーディングカントリーになろうとしているのです。

これには、「歴史的に小国である」ということを自らが強く認識しているオランダの国民性がいかんなく発揮されています。オランダは歴史的に世界の大国の中で生き抜く知恵を身につけています。例えば、それは他のどの国より新しいことに早く取り組むことによって、その分野のパイオニアのポジションをとってしまう、他の国に利用してもらうためのプラットフォームやインフラになってしまう、おさえてしまう、といった方法です。

今でもヨーロッパ1のハブ空港があり、港があり、輸送道路が完備されており、ヨーロッパ随一のインターネット環境や、90%以上の人が英語をしゃべることができる、などはその一端です。

つまり国家として、新しいことにどんどん取り組む実験国家なのです。

その実験国家にとって環境問題に取り組む、というのは大チャンスです。なぜなら言うまでもなく、この分野のトップカントリーになってしまえば、今後の、地球環境や世界発展に大きく寄与できるだけでなく、相当な資金も生み出すことができるからです。

サーキュラーエコノミーは日本にとってチャンスしかない

ロッテルダムにある、約40頭の牛を飼育する洋上ファーム「フローティング・ファーム」。地球の海面上昇にも耐えられる立地、大半の飼料を食品廃棄物や使用済み穀物でまかなう、フードマイレージ・ゼロ(食料の輸送距離をゼロにすることで環境負荷を低減させる取り組み)を目指すなど、数多くの先進的な試みがなされています。写真は完成間近の状態ですが、既にオープンしています。

この「サーキュラーエコノミー」。結構、大上段に構えて打ち出していますが、具体的にどういうことを言っているのか?というと、実は日本人にとっては「なんだ、そんなことか…」ということかもしれません。実は、筆者にとっては、ここがまた日本の取り組みの遅さ、ゆるさが残念なところでもあるのですが。

今までの「物」は、石油などの地球資源を利用して、商品を製造し、販売し、使用し、それが終わると廃棄されます。大抵のものは、地球の資源からスタートし、最終的には廃棄されるというゴールがあります。つまり、スタートからゴールまで一直線に駆け抜けてその使命を全うします。この今までの経済を総称して、「リニア(線)エコノミー」と表現します。

それに対して、「サーキュラーエコノミー」とは、すべての物や活動がスタートしてゴールすると、またそれがスタートに戻る、という「サークル」型で表現することができる経済のことを言います。

例えば、建築資材などをビッグデータなどを利用して、すべてを再利用できる仕組みを作る、そもそも土に還る素材のみで建築物を作る、100%再生可能エネルギーの使用、オーガニック素材のファッション、建築、料理などなど、もっと簡単に言えばリサイクル、リユース、なども「サーキュラー」な活動です。

こういうことを聞くと、日本人的には「なあんだ、そんなことか?」と思いませんか? 実際に、日本の建築手法や、建築素材としての「木」が改めて注目されていたり、さらには「茅葺屋根」なんかも大注目されたりしています。そもそも「もったいない」なんていう価値観がありますし、里山的な生活空間などはサーキュラーそのものです。その他、日本式建築、ファッション、テキスタイル、素材、食とかには大チャンスがあると思っています。

なので、つくづく日本がサステイナブル経済のイニシアティブを取っていないことが悔やまれるのです。なんというか勘が悪いというか、情報感度が低いというか…。自分たちが元々やっていたことが、少し形を変えただけで新しいサステイナブルな方法、経済としてヨーロッパでは注目されているのです。

ヨーロッパで最大の規模を誇るコワーキングスペースのB.Amsterdam。ここもそもそもは11年間廃墟になっていたビルをリノベしたもの(以前の記事でも紹介)。

オランダでは多くのスタートアップも、こうしたサステイナブル経済を推し進めることに関与しています。例えば生鮮食品のデリバリーサービスを行うpicnicは、産直野菜などを扱い食料の廃棄を劇的に低減、フードマイルも削減しながら、宅配することにより食品の包装を削減しています。宅配は専用のオリジナルの電気自動車を利用。その利便性と経済効率の良さとあいまって大人気です。またアムステルダムの運河に捨てられたゴミを拾うボートツアーを行うPlastic Whaleは、運河のゴミを拾うことをエンターテイメントツアーにしながら、その回収したプラスティックゴミを使って再生家具などを生産しています。非常に多くのスタートアップがサーキュラーエコノミー関連なのです。

筆者は、日本が環境問題への取り組みが緩いことや、その意識に疎いこと、世界の情報を掴んでいないことも非常にもったいないと感じているのですが、それよりも、そもそも自分たちが持っている日本のポテンシャルに気づいておらず、活かしていないことも非常にもったいないと感じています。

日本人が、普段普通にやっていることや、古くからある生活スタイルなどを、少しだけ光の当て方を変えたりするだけで、日本はきっとSDGs、サステイナブル経済、サーキュラーエコノミーのリーダーになれるはずなのです。また、日本の企業、行政、デザイナーやクリエイター、建築家、あるいは主婦・主夫に至るまで、すべての日本人がここに大きく関与できるではないか?と強く思っています。

ぜひ、一緒に活動しませんか?何でも相談してください。喜んでお手伝いさせていただきます。

こうしたこともやってます。よろしければぜひ。

『アムステルダムから学ぶ循環型経済都市で今起こっていること』
日時:2019年10月30日(水)19:00〜22:00
場所:Neuromagic Tokyo(東京都中央区築地6−16−1 築地ビル616 7F)
チケット代:3000円
チケット購入はこちら


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