CULTURE | 2019/04/16

女子高生がたった1人で始めた抗議を学校や政府が公認。「フライデー・フォー・フューチャー」は世界を救えるか?【連載】オランダ発スロージャーナリズム(12)

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日本での昨年の記録的猛暑は皆さんも記憶に新しいと思い...

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日本での昨年の記録的猛暑は皆さんも記憶に新しいと思いますが、ここ最近は世界各地でも気候変動の影響と思われる“記録”づくめです。パッと思い出しただけでも、同じく昨年の夏、インドでも100万人を超える避難者を出し、過去100年で最悪と言われ壊滅的な被害が生じた大洪水がありました。さらに今年の冬、アメリカ・シカゴでの大寒波は零下30度を記録し、南極より寒く、バナナで釘が打てるほどの寒さを記録しました。一方で同じ時期、南半球のオーストラリアでは最高49.5度の熱波が襲来し、2019年の1月の平均気温は観測史上最高を記録。

…というように世界各地で観測史上初や、最高記録の更新が立て続けに起こっています。そういえば筆者の住むオランダでも昨夏は38度近くまで上昇して観測史上最高気温を記録、北欧のスウェーデンでさえ異常高温で、なんと山火事まで起こったのです。

こうなると、いよいよ地球温暖化による異常気象の影響を真剣に考えないとダメ、というような気になるのではないでしょうか。もちろん地球温暖化による影響は異常気象だけではなく、海面上昇などもあると言われており、先日観たテレビのドキュメンタリー番組では、アメリカのマイアミですでにその影響が出始めているとレポートされていました。

しかし、米国のトランプ大統領は、気候変動抑制に関する国際的取り決めであるパリ協定からの離脱を表明するなど、世界の気候変動に関する取り組みは、まだまだ前途多難。もちろん、いまだに十分な効果は得られていません。

こんな状況の中、1人の女子高校生が声を上げ始めました。彼女の名前はグレタ・トゥンベリさん(16歳)。スウェーデン出身の彼女の地球温暖化対策を訴える行動が評価され、なんと2018年3月にはノーベル平和賞にノミネートもされています。

吉田和充(ヨシダ カズミツ)

ニューロマジック アムステルダム Co-funder&CEO/Creative Director

1997年博報堂入社。キャンペーン/CM制作本数400本。イベント、商品開発、企業の海外進出業務や店舗デザインなど入社以来一貫してクリエイティブ担当。ACCグランプリなど受賞歴多数。2016年退社後、家族の教育環境を考えてオランダへ拠点を移す。日本企業のみならず、オランダ企業のクリエイティブディレクションや、日欧横断プロジェクト、Web制作やサービスデザイン業務など多数担当。保育士資格も有する。海外子育てを綴ったブログ「おとよん」は、子育てパパママのみならず学生にも大人気。
http://otoyon.com/

アクションを始めたのは一人の女子高生

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彼女が始めたことは非常にシンプル。「地球温暖化は、今すぐにアクションを起こさなければいけない問題。でなければ、私たちが生きていくことになる時代に地球の未来はない。地球温暖化は私たちの生存を脅かす重大問題です。なのになぜ、私たちは行動しないのでしょう?」ということで、スウェーデンで行われた2018年8月の総選挙時に「気候のためのスクールストライキ」というプラカードを掲げて、ストックホルムの国会議事堂の前で座り込んだのが始まりでした。

そして、その後も毎週金曜日には学校を休んでの座り込みを現在まで続けているのです。グレタさんの行動はソーシャルメディアなどを通じて、あっという間に世界中に広がり、若者を中心にした地球温暖化対策を求める大規模な抗議運動へと発展したのです。今では「#FridayForFuturer」というハッシュタグで、この活動は世界中に広がっています。

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この活動があっという間に世界に広がったのには、もちろん、人々が気候変動に対して危機感を抱いているということもあるでしょう。しかし若者たちが意のままに操るソーシャルメディアの役割も大きいと思います。わずか数人規模から始まった各地の学校ストライキがソーシャルメディアを通じて連携し、各国で活動団体が立ち上がり、今や数万人規模のデモを行う大集団となっているのです。

今年の3月15日金曜日に行われたデモには、世界全体で授業を欠席して160万人以上が参加したとみられており、欧米を中心に多くの若者が運動に参加しています。

筆者の住むオランダでも、多くの中高生が学校を休んでデモに参加しました。その際に、ある学校の校長先生は「君たちがデモに参加するのを阻む権利は、私たちにはない。好きにしなさい」と語り、多くの学校で欠席が公認されたのです。また、オランダのルッテ首相はこうした学生たちの行動を「素晴らしい」と賞賛し、気候変動対策担当のヴィーベス経済相も「将来の気候変動は、我々の世代より彼らが直接被害を受ける」として、学生たちがストライキやデモを行うことに理解を示しているのです。

さらに驚くことに筆者の子どもが通う小学校でも、高学年はデモへの参加が公認されており、デモの予定日の数日前には、子どもたちにその「公認」が伝えられたようです。もっとも実際には、デモが行われた場所がその小学校からは少し遠かったこともあり、参加した生徒はいなかったようですが。

FridayForFutureのサイトによると、オランダでデモに参加した若者は約5万人。スイスは7.4万人、カナダが15.7万人、フランスは約20万人、ドイツが約30万人、イタリアは約36万人。一方で日本は100人となっています。

いずれにせよ一人の高校生が始めた活動は、今や欧米の若者を中心に世界的なムーブメントになっているのです。グレタさんは2018年の12月には、ポーランドで開かれた会議COP24(通称:国連気候会議)、2019年1月にはダボス会議(世界経済フォーラムの年次総会)で演説もしています。

声を上げることは特別なことではない

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日本で「デモ」と言うと、つい「怖い」「危険」「捕まるかも」「自分とは関係ないこと」などとネガティブな連想をしてしまうのではないだしょうか? 若者の場合、「デモに参加したことが、周りに知れたらどうしよう?」「就職に影響するのではないか?」などと思う人もいるかもしれません。

しかし自分たちの主張を伝えることは、決して悪いことではなく、むしろ自分たちの権利である、と考えられているのが欧米のデモに対する考え方。デモはあくまでも手段の一つで、特別なことではないのです。

今回のアクションは欧米で始まったことで、まだあまり日本では知られてないかもしれませんが、気候変動自体はグローバルで早急に対応しなければならない地球規模の課題です。デモ参加者の統計が正確かどうか分からないし、参加人数が多ければ良いという話ではないのですが、日本の参加者が100人というのは、少し寂しい感じもします。パリ協定のように世界中の国が参加して、まずは自分たちのできる事で気候変動を防ぐアクションが求められているのですから。

実際、グレタさんの始めたアクションの1つの大きな目的は、世界中の人たちの地球変動に対するマインドを高めることにもあるようです。確かに、世界中で何万人もの若者が参加しているデモを見ると、大人として1人1人が責任を持って早急なアクションが必要という気持ちになるものです。

肝心のデモ自体は、もちろん暴力的なものではまったくありません。高校生などの若者が参加するデモは、多くの警官が取り囲む日本の重々しいデモのイメージはまったくないのです。またオランダでは気候変動に対してのデモとして、家族連れで参加できるようなデモもあり実際に多くの家族が参加しています。またこうしたことが、子ども向けのニュース番組で放送されたりしており、デモというよりパレードといったイメージに近いかもしれません。

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グレタさんは、自身のフェイスブックで「16歳だからといって子ども扱いするのはフェアではない。自分たちは、自分たちなりにしっかりと将来を考えている」と述べています。こういう発言を聞くと、自分の16歳当時と比べると、世界はなんと頼もしい若者に溢れているのだ、と感動すら覚えてしまいます。

FridayForFutureは現在も継続しており、世界中の若者が参加しています。

国連のアントニオ・グテーレス事務総長は、この活動に強い支持を示しており、世界各国の首脳に対し、温室効果ガス排出量を今後10年で45%削減し、2050年までに実質的にゼロに目標を設定しようとしています。また2020年までに排出量を大幅に減らす「具体的で現実的な計画」を用意した上で、9月に米ニューヨークで開かれる国連気候サミットに参加するよう呼び掛けています。EUでもサーキュラーエコノミーが提唱されており、アムステルダムはそのトップランナーとして、すでに市内にゼロエミッションゾーンを設けるなどしています。

私たちも、まずは身近なところから具体的なアクションは何ができるか? すぐに取り組まなければ手遅れになるタイミングかもしれません。今は、世界の若者のアクションをきっかけに、大人こそがアクションをしなければならないのです。


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次回の公開は5月15日頃です。