4月からの新年度を迎えて、副業解禁など働き方改革が実施され始めた日本の企業も多いかもしれません。一般的には保守的とされている市役所など公共セクターや、金融界でも副業解禁の動きが出てきたり、日本でも新しい働き方がジワリジワリと増えていきているようにも思えます。
そんな働き方を後押しするような形、あるいはミレニアル世代を中心とした「所有しない生き方」「シェア」という価値観がメジャーになっている流れを受ける形で、近年、日本でも増えてきているのがコワーキングスペースやシェアオフィス。日本の大企業が巨額投資をした海外発のシェアオフィスが日本進出を果たしたり、フリーランサーや起業家などを強力にサポートする施設として話題です。
ところで、2016年にヨーロッパNo.1のイノベーションキャピタルとなり、起業家やクリエイターなどのエコシステム構築を、都市活性化の切り札として戦略的に推進してきているオランダのアムステルダムに、ヨーロッパ1の規模を誇るスーパーシェアオフィス「B. Amsterdam」があるのをご存知でしょうか?
今回は、おそらく本邦初公開となるアムステルダムの誇るスーパーシェアオフィス「B. Amsterdam」のブランドリーダーのHanneke Stuijさんに、その秘密を伺いました。他のオフィスと何が違うのか? 何が「B. Amsterdsam」を特別な存在にしているのか? さっそくご紹介します。
吉田和充(ヨシダ カズミツ)
ニューロマジック アムステルダム Co-funder&CEO/Creative Director
1997年博報堂入社。キャンペーン/CM制作本数400本。イベント、商品開発、企業の海外進出業務や店舗デザインなど入社以来一貫してクリエイティブ担当。ACCグランプリなど受賞歴多数。2016年退社後、家族の教育環境を考えてオランダへ拠点を移す。日本企業のみならず、オランダ企業のクリエイティブディレクションや、日欧横断プロジェクト、Web制作やサービスデザイン業務など多数担当。保育士資格も有する。海外子育てを綴ったブログ「おとよん」は、子育てパパママのみならず学生にも大人気。
http://otoyon.com/
11年間廃墟だった巨大オフィス
B. Amsterdamは、アムステルダムの中心地からは道が空いていれば車で15分ほど、ちょうどスキポール空港とアムステルダムの中間あたりに位置します。
この辺りは、空港に近いこともあり物流系企業のオフィス兼倉庫や、大きなスペースを必要とするオフィス、そして研究所などが点在しているエリア。なのでアムステルダムの住民、まして観光客がふらっと立ち寄るエリアではありません。
しかし今やヨーロッパのイノベーションキャピタルを称するアムステルダムのクリエイターや起業家たちのエコシステムを牽引する中心的な役割を担っています。
40,000平米もあるB. Amsterdam。Hannekeさんは、「このオフィス自体がクリエイターやイノベーターのエコシステムになっている」と言うのですが、実はこの建物、以前はIBMのオフィスとして使われていました。しかしIBMがこのオフィスを閉鎖後、11年間に渡り野晒しになり廃墟と化していたのです。そこをリノベーションして2014年にスタートしたのが、このB. Amsterdamなのです。
今や入居している企業数は、スタートしたばかりの小さなスタートアップから、大企業まで250社を超えています。
面白いのは、この建物をもともと自分たちのオフィスとして使用していたIBMさえもが、入居していたり、オフィス内で誰もが使えるカンファレンスルームなどをサポートしていること。
日本ではコワーキングスペース、シェアオフィスというと、それこそ副業している人や、個人事業主、スタートアップばかりが入居していると思われがちですが、アムステルダムでは大企業こそ、こぞって入居したがるオフィスなのです。
シェアオフィスはコミュニティであり、ネットワークでありプラットフォームである
実は、ここに日本で捉えられているシェアオフィス像との大きな違いがあります。
日本ではどちらかというと、シェアオフィスの特徴として語られるのは「いかにオフィス内のファシリティが充実しているか?」「いかにオシャレなオフィス空間であるのか?」「いかにオフィスのロケーションが素晴らしいか?」ということが多いのではないでしょうか?
もちろんこうしたことも重要であることは間違いないのですが、アムステルダムにおいてコワーキングスペースやシェアオフィスに入居する際に、最も重視するのは「どんなコミュニティなのか?」「どんなネットワークに所属できるのか?」「どんなプラットフォームに所属できるのか?」といった点です。つまり、そこに所属しているメンバーが大事で、同じオフィス内の企業や個人と、どんなネットワークを作れるのか?ということが大事になってきます。
この辺りは、実は日本のシェオフィスを語るポイントと、アムステルダムでコワーキングスペースやらシェアオフィスを語るポイントの大きな違いです。
つまり、「どのシェオフィスに入居するのか?」というのは、自分が「どのネットワークに所属するのか?」という重要な問題で、良いオフィスにはスタート間近の小さなスタートアップであっても、志や技術が高かったり、ビジョンが素晴らしかったりするようなスタートアップが集まります。
そして、そうしたスタートアップとのコラボレーションの機会や、ネットワーク形成のために今度は大企業が入居します。ここで新たなプロジェクトやネットワークの機会が生まれたりすると、オフィス内のネットワークが、さらに活性化して次々と新しいタレントが集まってきます。
なので、B. Amsterdamでは、オフィス内でのミートアップや、ネットワークパーティは頻繁に行われていますし、広いスペースを活かしたヨガスクール、フィットネスクラブや、映画上映、ファッションショーのような大きなイベント、参加者が何百人になるようなカンファレンス、はたまたデジタルデザインの技術を教えるようなスクールまでオフィス内で開講されています。
まさにクリエイターのためのキャンパス、と言ったところでしょうか。
大事なのは共に成長すること
実はB. Amsterdamに入居するには、キュレーターのチェックを受けなければならないのです。そう、ここは誰でも彼でもお金さえ払えば入居できる、ということではないのです。
「志を持ったスタートアップがお互いに成長を助け合いながら、オープンマインドであり、広い意味でのギブ・アンド・テイクの関係を築いていけることが大事になってきます。私たちは、そんな企業の成長を支えるプラットフォームであり、コミュニティだからです。もちろん私たち自身も入居者から助けてもらっています。そのために、キュレーターをおいてB. Amsterdamのメンバーにふさわしいかどうか?判断しています」とHannekeさん。
実はこの辺は、アムステルダムが古くから都市としての成長戦略として行なっていることと、かなり似ています。
アムステルダム市は、世界から優秀なイノベーターやクリエイターを集めるために、英語が誰でもしゃべれるような教育を行ったり、税制の優遇やオフィス環境を良くしたりと、あらゆる手段を尽くしています。例えば、オランダは第2言語として英語を扱う国民がヨーロッパ1でもあります。そうした戦略の元、今や世界中から優秀なクリエイティブタレントが集まっています。その結果が、ヨーロッパのNo.1イノベーションキャピタルであり、現在のクリエイティブ業界の盛り上がりなのです。
もちろん、シェアオフィスやコワーキングスペースも、アムステルダムのクリエイターのエコシステムを作るという戦略を実行する上で、非常に大切な要素になっています。
これがB. Amsterdam自体がアムステルダムを代表するようなエコシステムであり、プラットフォームであり、コミュニティであり、ネットワークである理由でもあるのです。ファシリティのみを重視したコワーキングスペースやシェアオフィスではないのです。
その結果、アムステルダム市が成長しているように、創業からわずか5年弱のB. Amsterdam自体も入居者と共に成長を続けているのです。
250社以上が入居しているオフィスは3つの建物からなり、企業が入居するスペースや、入居者が誰でも作業できるスペース、カンファレンスルーム、そして広大なルーフトップには、オシャレなレストランが併設されています。ルーフトップには、ちょっとした農園まであります。夏になれば大きなパーティもこのスペースで行われるとのこと。
しかし、こうしたファシリティもすべては、優秀なタレントを呼び込むためのもの。前述したように、日本だとついオフィスのファシリティや、ネット回線の充実度、オフィスの規模、立地などだけに目がいってしまうかと思いますが、アムステルダムのシェアオフィスで一番大事なのは「どんな人やスタートアップが入居しているのか?」ということになってくるのです。
こう考えると、大企業がシェアオフィスに投資する訳が理解できるのではないでしょうか? 世界中にいる優秀なクリエイティブネットワークを丸ごと抱える、という側面があるのです。
ということで、今回はあまりオフィスのファシリティには触れませんでしたが、B. Amsterdamのファシリティはもちろん、素晴らしいものがあります。明るくオープンなスペース、活気に溢れる各フロワー、天井の高い開放的なルーフトップレストランなど、もうそれだけで仕事ができる気になってしまうファシリティです。
今回は、ヨーロッパ最大のクリエイターのエコシステムであるB. Amstrdamについてご紹介しました。