EVENT | 2019/10/16

「批判のつもり」でもネット上の誹謗中傷は許されない。「匿名だからバレないだろう」という安易な思い込みが人生を狂わせることも

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今に始まったことではないが、ネット上の誹謗中傷がSNSの普及と共により蔓延...

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今に始まったことではないが、ネット上の誹謗中傷がSNSの普及と共により蔓延してきている。

攻撃者(誹謗中傷を行う者)の動機はさまざまだが、「ネット上は匿名だからバレないだろう」という安易な思い込みが事態を深刻化させているように思われる。確かに匿名の攻撃者の身元を特定することは簡単ではなく、手間も費用もかかる。そのため、これまでは泣き寝入りする場合が少なくなかったが、ここに来て、高額な費用がかかっても相手を特定し、民事、刑事で訴えようという事例が出てきている。「根拠のない理不尽な誹謗中傷を許さない!」という機運が次第に高まってきているように感じる。

伊藤僑

Free-lance Writer / Editor 

IT、ビジネス、ライフスタイル、ガジェット関連を中心に執筆。現代用語辞典imidasでは2000年版より情報セキュリティを担当する。SE/30からのMacユーザー。著書に「ビジネスマンの今さら聞けないネットセキュリティ〜パソコンで失敗しないための39の鉄則〜」(ダイヤモンド社)などがある。

政治的な意見の相違が誹謗中傷のきっかけに

SNSやウェブサイトなどで情報を発信していれば、誰もが誹謗中傷のターゲットになる恐れがある。ちょっとした書き込みが、誰かの怒りに火をつけてしまうことがあるのだ。

長期間にわたって深刻な誹謗中傷の被害を受けた、サイエンスライターの片瀬久美子さんの場合もそうだった。

片瀬さんのブログによれば、誹謗中傷を受けるきっかけとなったのは2017年7月27日に行った、森友学園や加計学園に関する政府や安倍首相についての疑惑に関するツイートだったようだ。

その内容に賛同できない人にしてみれば反論したくなるような書き込みかもしれない。だが、筆者の感覚では、執拗にいわれなき誹謗中傷を繰り返すほどの怒りを買うような内容には思えなかった。

そこに、ネット上で蔓延する理不尽な誹謗中傷の厄介さが垣間見える。最近深刻な社会問題になっている「あおり運転」と似ていて、相手のちょっとした振る舞いが気に障り、激しい攻撃性を抑えられなくなる人が少なからずいるようだ。また片瀬さんのようなケースでは「相手が不当な行為をしているのだから、こちらが批判を加えているのだ」という、自分が正義に資する行為をしているという認識で行動がエスカレートすることも多く非常にやっかいだ。

同ツイート以来、片瀬さんに対して、「昔淫売をやっていた」、「旦那は強姦魔」、「研究費を着服した」などの言われなき誹謗中傷が始まる。特に許せなかったのが、家族への中傷だったという。

そこで片瀬さんは、これらの不適切な投稿をTwitter社に複数回通報するが、同社のルールには違反していないとの回答ばかり返ってきたようだ。そのため最後の手段として、誹謗中傷を行う相手に対して法的手続きを開始することになった。

発信者情報開示請求を行なって本人を特定

誹謗中傷投稿を行う者に対する法的手続きを始めるには、まず、「プロバイダ責任制限法」に基づき発信者情報開示請求を行う必要がある。

片瀬さんの場合には、Twitter社に対して2018年4月に請求が行われ、翌月には開示の決定がなされている。

そこで得られた対象者のIPアドレスをもとに、インターネットサービスプロバイダに対しても発信者情報開示請求を実施。併せて警察にも相談をし、被害届が受理されたので本人特定をしてもらうことができたそうだ。判明したアカウントの主は60代の男性だったという。

その男性に対して片瀬さんは損害賠償請求訴訟を起こし、2019年7月17日には損害賠償263万8000円の判決が下されている。

「匿名だからバレない」はもう通用しない

片瀬さんの事例でもわかるように「プロバイダ責任制限法」の施行以来、発信者情報開示請求を行うことが比較的容易になった。「ネット上は匿名だから誹謗中傷してもバレないだろう」という甘い考えは捨てた方がいい。

10月8日にも、元AKB48のメンバーで実業家としても活躍している川崎希さんが、自身のブログでネット上で誹謗中傷を受けていたことを告白。所属事務所と相談の上、攻撃者を特定するために発信者情報開示請求を行うことを公表している。

社員の誹謗中傷行為やヘイトがバレる恐れも

自分はSNSに反感を買うような書き込みはしないし、誹謗中傷をするような危ない人は周りにいないから特に心配はしていない。そんな風に他人事と考えている人が少ないないのではないだろうか。

だが、誹謗中傷やヘイトをしている人は、意外に身近にいるかもしれない。

9月には、DeNAの社員が匿名アカウントで行なった韓国や在日韓国人に関する投稿がなされたことにより本人が特定され、不適切な表現があったことを同社が謝罪している。個人が行った誹謗中傷やヘイトが、企業のイメージを傷つけることもあるのだ。

ただし、この事例では、投稿者の特定は発信者情報開示請求ではなく、投稿に写り込んでいた画像から判明したとされている。

自分で問題になるようなことを書き込むことはないという人も、ネット上で流布される言説をきちんと調べもせずに盲信して拡散するような行為は慎みたい。誹謗中傷する側に加わったと、責任を追求される恐れもあるのだから。