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「高校球児の投げすぎ」はあり得ない?オランダの名門サッカークラブの子ども向けサマーキャンプで感じた「夏休み観」の違い【連載】オランダ発スロージャーナリズム(16)
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  • 2019.08.09
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「高校球児の投げすぎ」はあり得ない?オランダの名門サッカークラブの子ども向けサマーキャンプで感じた「夏休み観」の違い【連載】オランダ発スロージャーナリズム(16)

アヤックス・アムステルダム(オランダの名門サッカークラブ)のサマーキャンプに筆者の息子が参加し、本物のチャンピオンズトロフィーと一緒に記念写真。エンタメ要素、ふんだんです。

過去の連載はこちら

パリやドイツで42℃、オランダでも39℃など、ヨーロッパ各地で史上最高気温を記録している今年の夏。梅雨明けこそちょっと遅かったものの、梅雨が明けた日本も負けず劣らずの猛暑だと思います。

そう言えば、東京都の少年サッカー連盟が今年から猛暑を理由に7、8月の公式戦を全面禁止したというニュースがありました。

また、岩手県の大船渡高校の佐々木朗希投手が、甲子園出場をかけた地方予選県大会の決勝戦に登板を回避し大敗。最高球速163キロを誇るエース・佐々木投手の「投げすぎ」による故障を恐れた監督の判断で、甲子園まであと一歩の決勝戦を登板回避させたことが要因ですが、このことはスポーツ新聞や甲子園ファンだけではなく、一般紙の社説や社会面も取り上げ、さらにテレビのワイドショーを賑わせた上に、このことに苦言を呈した野球評論家の張本勲さんに対してダルビッシュ有選手がTwitterで反論するなどして、大いに話題になりました。

アメリカの独立リーグでプレーした経験のある32歳の國保(こくぼ)陽平監督は、故障するかもしれないリスクを冒して目先の甲子園出場を目指すよりも、球界の宝である佐々木投手の将来を見据えて温存したとのこと。

この監督の判断には、野球界の大物OBたち巻き込んで一大騒動となっているようです。

また高校の野球部に限らず、中学そして高校の夏休みの、いわゆる「部活動」には、顧問を勤める教師のオーバーワーク問題とも関係して近年は問題視されることも増えています。

今回は、こうした「夏休み」をめぐる日本の現状をヨーロッパの視点から見てみたいと思います。

吉田和充(ヨシダ カズミツ)

ニューロマジック アムステルダム Co-funder&CEO/Creative Director

1997年博報堂入社。キャンペーン/CM制作本数400本。イベント、商品開発、企業の海外進出業務や店舗デザインなど入社以来一貫してクリエイティブ担当。ACCグランプリなど受賞歴多数。2016年退社後、家族の教育環境を考えてオランダへ拠点を移す。日本企業のみならず、オランダ企業のクリエイティブディレクションや、日欧横断プロジェクト、Web制作やサービスデザイン業務など多数担当。保育士資格も有する。海外子育てを綴ったブログ「おとよん」は、子育てパパママのみならず学生にも大人気。
http://otoyon.com/

バケーションとは「何もしない」こと?

以前のバケーションで宿泊したコテージのプール。かなりのんびりしてます。

それではここでヨーロッパの夏休みの過ごし方を紹介します。ご存知の方も多いかと思いますが、まずその長さが日本とは違います。

今でこそ、日本でも「働き方改革」のおかげで、半ば強制的に社員に夏休みを取らせる企業も増えているかと思います。上に挙げたような部活動周りの先生の活動は、いわゆる「働き方改革」の網からもこぼれ落ちてしまっており、長時間労働の問題として各所で取り上げられています。

一方で、一般的にオランダやヨーロッパの夏休みは2週間。長い人で4週間、中には6週間なんていう人もいます。オランダなんかは、リモート勤務や自宅勤務も認められていることもあり、そんな勤務の仕方を組み入れて、出来るだけ子どもの夏休みは一緒に全部休もうとする人も多いです。

元々、サラリーマンであっても特に子育て家庭の場合は、週3勤務、週4勤務の人が多く、またエリアによって休みに入る時期が微妙にズレていたりしますが、結局7、8月は「全体的にお休み」モードです。スタッフの中に誰かしらお休みの人がいて、連絡がつかないということも頻繁にあります。

すべてコテージの庭にあった野菜で作ったパスタ。我ながら美味しかった。そりゃ素材がいいので当たり前ですね。

さらに、今年の7月は冒頭にも書いたように、地球温暖化の影響でしょうか?ヨーロッパの都市では軒並み観測史上最高を記録しています。8月に入り気温は若干落ち着いたものの、ヨーロッパ特有の夏の気候は続いており、つまり、陽も長く、天気もよくカラッとした極めて過ごしやすい、最高の夏のシーズンが続いております。

オランダの夏、といえばこうした気候の中、休みの過ごし方の定番は、家族でキャンプに行って、「何もしないこと」です。「何もしない」というより、「普段と同じような生活をする」、ということかもしれません。

家族でカードゲームをやったり、サイクリングに出かけたり、ぼーっとしたり、本を読んだり、池や湖、ビーチに行って泳いだり、そこでバーベキューをしたり。そう、普段家でやっている生活とまったく変わらない生活をキャンプ地で行います。そのキャンプの行き先はフランスやベルギーなんてこともあれば、近所の公園やキャンプ場なんてこともあります。

バケーションに入ると空港が混雑するとか、オランダ人の大きなキャンプカーがヨーロッパ中のハイウェイをゆっくり走るので渋滞するなんてことが言われていますが、日本における炎天下の行楽地での大行列とか、お盆の全国帰省ラッシュで新幹線の乗車率200%なんてことは、あまりありません。

オランダでは「バケーションでは、お金をかけずに楽に楽しむこと」が重視されています。

名門サッカークラブのサマーキャンプでさえのんびりムード

オランダを代表するサッカークラブ、アヤックスのサマーキャンプ。たいした練習をしてないのに、コーチや設備、揃いのユニホームなどは本格的。

他の夏休みの過ごし方として、子どもたちがサマーキャンプに参加する、というのもあります。家族での長期の休みが取れない場合、一定期間、子どもを預けるという意味合いもあります。日本でもそういう側面もあるのではないでしょうか。基本的には家族でバケーションに出かけるのが典型的なパターンですので、これはオランダではそんなにメジャーな過ごし方ではないかもしれませんが…。

しかし、そのサマーキャンプでさえも、例えばスポーツ関連だと日本との違いが非常に大きいです。簡単に言うと、こちらではサマーキャンプに参加しても、あまり「練習」しません。

筆者は、中学、高校、大学と典型的な「ニッポンの運動部」の経験者です。なので夏といえば、水を飲むのを禁止されたり、ミスをすると炎天下の校庭を10週走らされたり、倒れるまで練習した部活動の「夏合宿」が思い出されます。そうした経験からすると、オランダでのサマーキャンプは非常にもどかしく感じます。なぜなら、休憩ばかりだったり、そもそも練習時間が短かったりして、「練習」を全然しないからです。

そうしたサマーキャンプを見ていると、ついつい「もっと練習しろよ!」と言いたくなってしますのです。しかし繰り返しますが、こちらではバケーションは何より「休む」ということが最優先されているからです。

「休むこと」それから「楽しむこと」。この2つがバケーションでは最重要視されていますので、スポーツ関係のサマーキャンプなんかも、子どもたちにとっては、非常に楽しいレクリエーションです。

例えば、今年の夏はオランダでメジャーなスポーツであるサッカーの、しかも1900年創設でUEFAチャンピオンズ・リーグでも4度の優勝経験がある名門クラブ、アヤックス・アムステルダムのサマーキャンプに長男が参加しました。1週間の通いのキャンプでしたが、水曜日は午前中のみ。他の日は9時から16時までということでした。しかし記録的な暑さとなった週にたまたま重なったため、暑さ対策としてスタート時間を1時間前倒ししたうえ、午前中のみに変更。練習中は15分ごとに休憩があり、そのたびに水の掛け合い遊びをして、プールに入ったかのように全身びっしょりになりながら、最後にはみんなでアイスを食べながら表彰式をしたりと、暑さのおかげか?随分と楽しそうなキャンプになってました。

サマーバケーション中ということもあり、世界各国から参加している子どもたち。自分の国の国旗を持って入場。

そういえば、昨年参加したサッカーキャンプではEスポーツ(サッカーのテレビゲーム)のオランダチャンピオンが来て、みんなとゲームをやったり、リフティングのフリースタイルチャンピオンが来たりして、これまた日本の「夏合宿」とはかけ離れたキャンプを経験してました。「楽しむ」ことと「休む」ことを徹底しています。

こういう環境にいるので、「お盆での帰省ラッシュ」も部活動の「夏合宿」も「甲子園」もないし、「炎天下では試合をしてはいけない」というルールもありません。

ということで、ヨーロッパで過ごす夏には、自分が子どもの頃に日本で過ごした夏の思い出は一つもありません。少し寂しい感じさえしますが、気候も含めて夏のヨーロッパは非常にのんびりしています。仕事もパタッと止まってしまいます。観光客以外には、街にも人がいません。

せっかく遠いヨーロッパに来た時には観光に勤しむのも楽しいと思いますが、ぜひ、こうした「何もしない」というか、のんびりムードのヨーロッパの夏の日常を経験しに来てみてください。もしかしたら働き方とか、仕事とか、生き方とか、人生とかに対する考え方が変わるかもしれません。

あ、そうそう一つ大事なことを忘れていました。こちらでは小学校の場合、いわゆる「夏休みの宿題」もありません。なので、こちらの子どもたちは8月31日の、あの修羅場を経験したことがないのです。

ほら、これだけでも「夏休み」に対する考え方が変わるでしょう? ヨーロッパの夏が最高だと言われる所以は、実はここにあるのかもしれません。


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