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顧客ではなく共犯者。服を介したコミュニティを形成する、SNS時代のアパレル進化論|木村昌史(ALL YOURS)
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  • 2019.06.13
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顧客ではなく共犯者。服を介したコミュニティを形成する、SNS時代のアパレル進化論|木村昌史(ALL YOURS)

僧侶から仏教的価値観の実践であると評価されるアパレルブランドがある。池尻大橋に拠点を構える「ALL YOURS」だ。「LIFE SPEC」をコンセプトに掲げ、日常生活においてストレスにならない「インターネット時代のワークウェア」を追求する。

CAMPFIREにて24カ月連続でクラウドファンディングを展開し、これまで累計5700万円超の支援を達成。定番デニム「ハイキックジーンズ」の月額定額制のサブスクリプションサービスや、全都道府県でトークイベントと試着会を行う「47都道府県ツアー」など、服の新たな可能性に挑戦する。

果たしてそのクリエイティブの原点とは何なのだろうか? 従来のアパレルブランドと一線を画す戦略を繰り出す、ALL YOURSの代表取締役の木村昌史氏に話を伺った。

聞き手:米田智彦 文・構成:岩見旦 写真:神保勇揮

木村昌史 

株式会社オールユアーズ 代表取締役ライフスペック伝道師

『着ていることすら忘れてしまう服』をコンセプトにストレスからヒトをカイホウするプロダクトを開発。CAMPFIREにて24カ月連続クラウドファンディングに挑戦中。アパレルカテゴリで国内最高額の支援を集めた。現在、全都道府県でトークイベントと試着会を行う「47都道府県ツアー」で全国行脚中。
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クラウドファンディングページ

アジャイルの発想をアパレルに落とし込む

木村昌史氏

―― 木村さんの経歴と、ALL YOURSさんを立ち上げられた経緯を教えてください。

木村:大手アパレルチェーンの販売を18歳から初めて、店長、企画、バイヤーと、ファッションアパレル系の流通にずっと携わってきました。その中で、服を大量に生産して、大量に消費することに違和感を覚えてきたんです。ゴミを出している感覚が、ゴミばかり作っているという感覚になってしまって。それはなぜかというと、着ている人の顔が見えない。どういったユーザーに着てほしいのか、見てほしいのかが曖昧で、もっと解像度の高いものがやりたいと思ったんです。ユーザー側の目線に立ったものが作りたい、世の中の生活が便利になるような服が作りたいと思ってALL YOURSを創業しました。

―― ALL YOURSさんはどんなユーザーを想定して服を作っていますか?

木村:週に7日私服でいる人で、スーツを着ない人です。従来のアパレルは土日の2日間を着るための服として作っています。今まではスーツであったり作業着であったり、制服を着てみんな仕事をしていました。ですけど、だんだんドレスコードが崩れてきて、特にIT産業が台頭してから圧倒的に私服で働く人が増えてきました。もっと言うと、今は会社を選ぶ基準として、若い人は私服で仕事ができる職場を選択する人もいるらしく、企業側も変化せざる得なくなっています。商社でも「カジュアル・フライデー」と言って、ジーンズや綿のパンツで出社できる会社も相当多いです。

 左:「着たくないのに、毎日着てしまう ジャケット」(税込2万1600円)、右:「着たくないのに、毎日着てしまう パンツ」(税込1万6200円)。洗濯機で丸洗いでき、部屋干しで約3時間で乾く。

木村:週7日カジュアルな服を着る世の中になったとき、服の選択肢が変わったと思います。週2日着るためのカッコいい服、かわいい服というより、仕事の邪魔にならない服とか、楽に着られる服を選ぶようになると考えました。オンとオフの境目がないので、着替えるという発想はありません。ずっと着ていられるものという考えに基づいて、服を作っています。

元々のアイデアの種は大手アパレルチェーンで働いていた時からありましたが、その時は技術的にまだ作るのが難しいものがあったり、仮に作れたとしても大手アパレルチェーンは上場企業だったので、承認のプロセスが非常に長かったんです。その時、企画の段階でなるべく早くマーケットに投入して、そのフィードバックで商品を改善する方が正しいのではと思ったんです。

―― 今どきっぽいですね。アジャイルの発想を服に落とし込んだわけですね。

木村:まさにその通りです。ソフトウェアメーカーは普通に行いますよね。服の世界でそういうことをやる人がいなかったので、僕らはそこに挑戦しました。そこで活用できると思ったのがクラウドファンディングです。クラウドファンディングは商品を発表するけど、実際はまだ作っていないじゃないですか。私たちは商品の完成度を7割くらいで発表するんです。そして、クラウドファンディングの募集期間2カ月ほどの間に、試着会を開催します。そこで、袖はもう少し長い方がいいとかポケットを追加した方がいいとか、襟の収まり方が合わない人がいて修正したり、どんどんアップデートしていくんです。そして、募集期間が終わると同時に、服の生産に入ります。

快適さとコストダウンを両立

池尻大橋にある直営店内の様子

―― ALL YOURSさんは商品の価格が非常に安いですよね。

木村:正直、通常のアパレルメーカーの服より原価率は高いと思います。ただ基本的にお客さんに直接販売し、中間業者がなくマージンを抜いているので、他社より利益率は10%〜15%は高いです。あと、テキスタイルのメーカーさんとかなり密接に開発をして、コストダウンを図っています。

もう一つは専門的な話になりますが、身体の構造や動きを研究して、伸びない平面の生地を立体にする、パターンという型紙の作成する作業があり、アパレルにとって肝といわれる技術です。これを私たちは、ストレッチ性のある生地で、身体の動きを吸収してしまえという考え方をしており、パターンを極限までシンプルにしています。すると、生地の余りが少なくなり、効率的に作れるんです。さらに、裁断箇所も少なくなり、作業工程を減らすことができます。あと、パーツを少なくすることによって、壊れにくくなるんです。快適さを担保しながら、シンプルにすることでコストダウンしていくということですね。

―― なぜ他のアパレルメーカーは、ALL YOURSさんのような考え方をしないのでしょうか?

木村:多分ターゲティングが違うのだと思います。従来のアパレルブランドは服が好きな人のために作っていますよね。僕らの場合は、どちらかと言うとコーディネートするのが苦痛だったり、なるべく服のことは考えたくない人向けに作っています。

ただ、最近はファッション業界に従事している人が結構お客さんになってきていて、「実は僕もそう思っていたんですよ」という声も寄せられています。加えて、そんな人達が日常生活で何を着ているんだろうと考えた時、気に入ったものを長く着ている人の多く、ファッショントレンドを追いかけていく仕事に矛盾を感じている人が意外と多いんです。

国内最高額の支援を得たクラウドファンディング活用術

―― クラウドファンディングを通じて、お客さんを「共犯者」と呼ぶメッセージもインパクトが大きかったです。

「ALL YOURS」を支持してくれる人、賛同してくれる人は、買った売った以上の関係にしたいと思っています。その時、ブランドに参加してくれるという意味で、共犯関係を結んで行きましょうと考えたんです。ブランドとして一番気をつけているのは、なるべく自分たちでブランドを定義しないということです。お客さんが入る余地を意識的に残しています。

商品のフィードバックもその一環です。製品の開発プロセスの中に、お客さんを積極的に入れたり、一緒にトークイベントを開催して対談したり、あとこの池尻大橋の店舗の壁を一緒に塗ったりもしています。服を介したコミュニティを形成しているんです。

僕は顧客という言い方が、一方通行な表現に感じてしまいしっくり来ませんでした。双方向な表現がないかなと考えたときに「共犯者」という言葉が思いついたんです。

―― ALL YOURSさんは、クラウドファンディングで、アパレルカテゴリにおいて国内最高額の支援を集めましたが、その成功の要因はなんですか?

木村:クラウドファンディングもコミュニティだと思っています。クラウドファンディングは掲載しただけでは、何も起こらないんです。それを期待して載せている人は、達成額ほぼゼロで終わってしまします。クラウドファンディングのプラットフォームはSNSに最適化していて、自分でアピールしないと何も伝わりません。

この話をする時、僕はいつも3つの輪があるという話をしています。最初にクラウドファンディングを始めた時には、知り合い、あるいはフォロワーさんぐらいの人にしか伝わりません。この1週目の人たち全員に知ってもらうことが大事です。

そこでALL YOURSでは、クラウドファンディングが始まる前から告知しています。事前公開URLという、ページを先に見られるURLを取得でき、これを先に知り合い、フォロワーに見てもらいます。そして、これに支援したいとか、もっとこういうリターンがあったらといったフィードバックをもらいます。先程の服と同じように、どんどん改良するんです。まだ始まっていないからこそ、変化する可能性があるので、みんな意見しやすいんです。

僕たちは、この1周目の人たちにどのくらい熱量が伝わるのかということを重視していて、この人達が熱くなればなるほど支援していただけるわけです。すると、こういう理由で応援していますとSNSに書いてくれます。そしたら、この人達の知り合いである2周目に伝わります。3周目はもう全く知らない人達で、メディアの取材はあまりなかったにも関わらず、SNSの口コミだけでバイラルで広がっていきました。

服からSNSへ。自己表現の領域の変化

―― 1990年代は15兆円を超えていたアパレル業界の市場規模が、現在は10兆円に縮小しています。ユニクロやZARAといったファストファッションが依然として人気で、それに既存のハイブランドが対抗しています。また、ZOZOTOWNを筆頭にオンラインショッピングが盛況で、消費行動が大きく変化しているように感じます。木村さんは今後のアパレル業界をどのようにお考えですか?

木村:よくファストファッションがファッションをぶっ壊したと言われますが、社会的な流れの中でファッションが崩壊していった象徴がファストファッションだと僕は思っています。バイヤーとか企画をやっていて、テレビCMやファッション誌で有名人が着ても、服が全然売れなくなってきたのが、2008年ぐらいのことです。これはiPhoneやTwitterが普及していった時期と重なります。

昔、服は100%自己表現だったと思うんです。何を着ているかが、自分がどういう人間かを示すツール、アイデンティティだったわけです。しかし、ブログから始まり、SNSが台頭してから、思ったことを書くとか写真を載せる方が自己表現として強くなりました。そうなってくると、服における自己表現の領域がどんどん小さくなってきます。かなり変なことをしている人でも、意外と普通の格好していることって多いじゃないですか。

服に投資する必要がなくなっていく中で、服を買いたい人はどんどんインスタントになっていくので、ファストファッションは売れますよね。つまり自己表現の領域がSNSに移ってから、ファッションがそんなに重要じゃなくなったのが、ファストファッションの構造と僕は理解しています。

その一方で、カウンターが生まれました。店舗を持たず自社運営のECサイト上で直接消費者とつながる「D2C」というビジネスモデルです。スーツのオーダーメイドを手がける「FABRIC TOKYO」さんは、採寸したデータを活用するアパレルブランドで、累計20億円超を調達しました。今後は小規模から中規模のブランドが乱立して、インターネット上でメディアとかデバイスの中で選択するようになると思います。インターネットが使えないブランドはこれからどんどん小さくなると思います。

―― 最後に、ALL YOURSさんの今後の展開を教えて下さい。

木村:僕らは「インターネット時代のワークウェア」というコンセプトですが、ジーンズが生まれたサンフランシスコで売ってみたいという思いがあります。実は、うちの服はアメリカ人に好評なんです。こんまりが流行したように、消費が飽和しているところでなら、僕達が作っている物の意味がもっと際立つんじゃないかなと思っています。

もっと日本のことを理解したブランディングをしたいという先の展望もあり、今は日本全国を回って、トークイベントと販売会をやっています。


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