詐欺や窃盗、暴行など、日々巻き起こる事件の数々。大手メディアが追わない事件のその先を、阿曽山大噴火が東京地裁から徹底レポート。先の読めない驚天動地な裁判傍聴記を、しかとその目に焼きつけろ。これが法廷リアルファイトだ。
トップ画像デザイン:大嶋二郎
阿曽山大噴火
芸人/裁判ウォッチャー
月曜日から金曜日の9時~5時で、裁判所に定期券で通う、裁判傍聴のプロ。裁判ウォッチャーとして、テレビ、ラジオのレギュラーや、雑誌、ウェブサイトでの連載を持つ。パチスロもすでにプロの域に達している。また、ファッションにも独自のポリシーを持ち、“男のスカート”にこだわっている。
通勤定期で東京地裁に通っている阿曽山大噴火です。今回から月に一度のペースで文章が掲載されることになりました。覚えていたら、来月も見ていただければ。3回で終わるか、半年続くかもわかってませんが。
というわけで、毎回1カ月の間に、東京地裁で行われた裁判の傍聴記を書こうかなと。では、記念すべき第1回目です。
女子高生盗撮犯に750万円を脅し取り、さらに3000万円請求
罪名 恐喝、恐喝未遂
A被告人 無職の男性(25)
B被告人 飲食店勤務の男性(24)
起訴されたのは2つ。1つ目は去年の6月26日午後5時過ぎ。JR池袋駅で、A・B被告人は、被害男性(34)に「ちょっといいですか。ケータイ預からせてもらいます」と声をかけ、西口公園へ移動。そこでA被告人が「さっきの盗撮の被害者は示談したいと言ってます」「750万円払えますか?」と被害男性に金銭を要求し、銀行前で750万円受け取った件。
2つ目は、今年2月6日午前6時42分。埼玉県内の路上で、A被告人が被害男性に「昨年の盗撮の件ですが、被害者の女の子が精神的に参ってしまって、病気になってしまったんです。入院費払ってもらえますか?」と声をかけ、3000万円を要求。しかし、支払いの待ち合わせ場所で被害男性の通報で駆けつけた警察官により現行犯で逮捕されたため、未遂に終わった件。
いわゆる盗撮ハンターってやつですね、女性のスカート内を盗撮してる男をみつけたら、示談金名目でお金を要求するという犯罪。たまぁに傍聴することがあるんだけど、本件は実名報道されたのでピンポイントで傍聴できたというわけです。
検察官の冒頭陳述によると、A被告人は大学中退後に探偵事務所で働き、その後、飲食店などを転々として犯行時は無職だったという。B被告人は高校卒業後職を転々とし、犯行時はネットカフェと友人宅を泊まり歩く住居不定の暮らしをしていたという。
2017年12月。A被告人が盗撮ハンターすることを思い立ち、小中校一緒だったB被告人にFacebookのメッセージで勧誘したらしい。これに対し、B被告人が了承し、2人で計画を立てるようになったとのこと。
2人は自作の示談金を持って、盗撮している人を探索。池袋駅のとある階段で盗撮している被害男性を発見し、起訴状に書かれた犯行に及んだというのが事件の流れです。
調べに対し、被害男性は「盗撮をしていたところ2人の男に見つかり、示談金を求められた。A被告人がお金の話をして、B被告人は反省を促すようなことを言っていた。その時お金を払ったが、年が明けるとA被告人がやってきた。また私の前に現れて脅してくるのではないかと怖い」と述べているようです。ホント、被害者が安心しておちおち盗撮もできないじゃないか……と、被害男性の肩を持つのも変な話で、被害男性も別件の犯罪者という珍しい構造の事件なのです。
A被告人は調べに対し、「2017年の終わりごろテレビで盗撮ハンターの存在を知り、自分でもやれると思った。しかし、ひとりでは逃げられてしまったので、Bを誘った。元々一年後輩だった」とテレビの影響だと供述しているそうです。
B被告人は調べに対し、「リスクがなく、報酬が高いと言われ、Aの誘いで見張り役をやっていた。報酬は1枚ずつ数えてはいないが、230万円くらいもらった」と供述していると。B被告人の報酬が230万円だとすると、A被告人の報酬は520万円。アレレですよ。この辺については後で。
法廷にはA被告人の母親とB被告人の雇い主が情状証人として出廷。2人とも、今後の指導監督を誓っていました。
盗撮された女子高生に現金を払う被告人。不自然な供述に浮上した可能性
そして被告人質問。まずはA被告人から。
弁護人「自分で思いついて誘って犯行と?」
A被告人「はい」
弁護人「私との面会で言ってましたけど、最初は何十万を請求しようと思って、声を掛けたんだけど、被害男性が以前盗撮をしたときに500万円で示談をしたという話が出て、それ以上の金額として750万円という数字が口から出たと?」
A被告人「そうです」
この被害男性の示談慣れに底知れぬ不気味さが漂うんだけど、いずれにせよかなり高額な示談金を支払える経済力の男なんでしょう。そしてここで検察官の冒頭陳述でも明かされなかった新事実が弁護人から発せられました。
弁護人「あなたは被害男性を捕まえた後、盗撮された女子高生に30万円渡してますね。このお金は?」
A被告人「働いていたときの貯金を持ってて、それを渡しました」
弁護人「被害男性からお金が貰えると決まったわけじゃないのになぜですか?」
A被告人「昔、知人女性が盗撮の被害に遭って、駅員室に犯人と向かう途中で撮影したデータを削除して。それで厳重注意だけで終わったってことがあって。それで撮られてるんだから、女子高生にはお金を渡したと」
弁護人「え? 盗撮者に対して嫌悪感を持っていて、そんなやつならお金取ってもいいだろと当時は思ってたわけね?」
A被告人「はい」
弁護人「今はどう思ってます?」
A被告人「弱みに付け込んでやっちまったことの方が卑劣だと思います」
ここまでどう感じましたかね。変な話ですよね。無職のA被告人が30万円の現金を持っていて、スカート内を撮られてしまった女子高生にそのお金を渡してるんですよ。盗撮をしていた被害男性が示談金として渡すならまだしも、犯行を目撃したA被告人が渡してるってどういうことなんでしょう。
これは仮定で、推測の話になりますが、盗撮ハンターという犯行が、A被告人とB被告人のたった2人による犯行ではないってことなんじゃないでしょうか。2人の上にも悪いヤツがいるから、2人の分け前に大きな差があって、A被告人が上の人にお金を持っていかなきゃならないという可能性。そして、獲物がみつかるまで、短いスカートで何度も階段を往復する女子高生役への報酬が30万円という可能性。
そもそも、法律を破ってまで金を稼ごうと考えてる人間が、盗撮してる人を探して弱みにつけこむってものすごく効率が悪すぎでしょう。
最も、引っかかるのはA被告人が単独で行った未遂の事件なんですよ。
弁護人「あなたにはもう1件起訴されてる事件がありますけど、さらに3000万円提示したのは被害男性がお金持ってるのがわかったからでしょ?」
A被告人「はい」
弁護人「さすがに千万単位じゃ逮捕されてると思わなかったの?」
A被告人「うん……えぇ、まぁ……」
弁護人「感覚がマヒしてたかな?」
A被告人「はい」
弁護人も呆れたようにちょっと笑みを浮かべながら、「3000万円」と言ってたんです。で、盗撮は言うまでもなく、犯罪だし、女性の尊厳を踏みにじる行為なんだけど、それの示談金を匂わせた入院費が3000万円って、不釣合いでしょ。弁護人が呆れて笑っちゃう程の額。しかも、A被告人がたったひとりで3000万円独り占めってことですよ、なんとも不自然。
この後、検察官からの質問で驚愕の真実が飛び出すんだけど、今回はここまで。B被告人への質問も含め、次回に続く。