CAREER | 2025/01/23

西アフリカでの移動生活が、
食文化の世界へと押し上げる

連載:「奥 祐斉と考える - “アフリ観LIFE“ -」 僕たちは、きっとアフリカに救われる
第2回ゲスト|清水貴夫さん 【後編】

文・聞き手:奥祐斉 (株式会社bona 代表取締役)、編集:髙本育代

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“アフリ観LIFE” を送る人を紹介する連載企画《「奥 祐斉と考える - “アフリ観LIFE“ -」 僕たちは、きっとアフリカに救われる」》第2回目となる今回のゲストは、アフリカ人類学者の清水貴夫さん。大学生のころからアフリカに通い始め、ブルキナファソを中心に、西アフリカの子ども、NGO、宗教、環境、食文化、伝統建築…さまざまなことに関心を持ちながら研究活動をされています。

清水 貴夫(Takao Shimizu)

京都精華大学人文学部 准教授

明治学院大学国際学部卒。民間企業、NGO職員を経て名古屋大学大学院文学研究科博士課程後期満期退学。総合地球環境学研究所 (「砂漠化をめぐる風と人と土」 プロジェクト) 研究員)、広島大学教育開発国際協力研究センター研究員、総合地球環境学研究所 (「サニテーションの価値連鎖の提案:地域のヒトに寄り添うサニテーションのデザイン」 プロジェクト研究員)、京都精華大学アフリカ・アジア現代文化研究センター設置準備室・研究コーディネーターを経て、現職 (総合地球環境学研究所客員准教授を兼任)。 研究のキーワード:西アフリカ (ブルキナファソ、ニジェール、セネガル)、子ども、イスラーム、教育、食文化、環境 (砂漠化問題、サニテーション)

【著書】ブルキナファソを喰う!(あいり出版)

京都精華大学
https://www.kyoto-seika.ac.jp/edu/faculty/shimizutakao.html

清水 貴夫 (個人ウェブサイト)
https://shimizujbfa.wixsite.com/shimizupage

赤提灯 ~俺とアフリカとドラゴンズ(Blog)
https://cacaochemise.blogspot.com/

奥 祐斉(Yusai Oku)

株式会社bona 代表取締役

108の国と地域を回った旅人。イベントやツアー企画、プロダクト開発、場づくりなどを通じて、人と人を繋ぐことを積極的に行う。東アフリカや西アフリカを中心に企画型の旅を提案する。日本国内においては、京都を中心に企画・募集型の旅を主宰。また、スパイスの輸入を行い、全てアフリカ産のスパイスにこだわった「アフリカコーラ」などのプロダクト開発も行う。かつて暮らしたアフリカで心が救われた経験から、日本にアフリカの多様で大らかな価値観を輸入すべく活動を続けている。趣味は、アフリカで坊主にすること。「坊主とアフロと」と題して、Pod castを展開していく予定。

株式会社bona
https://bona.world/

奥 祐斉 Instagram
https://www.instagram.com/yusai0214/

奥 祐斉:前編では、清水先生の人物像やアフリカに導かれたきっかけなどを伺ってきましたが、大学院を卒業後にどのように活動されたかを教えていただけますでしょうか?

清水貴夫:総合地球環境学研究所という研究所で働き出しました。実はうちの大学のすぐそばにある研究所なんですけど、そこに研究員として入りましたね。そこで、ニジェールなどの砂漠化問題に関わり、その後、広島大学で教育開発の研究所に携わることになります。

奥 祐斉:広島大学も、かなり国際的で有名ですもんね。色んな国からの留学生も在籍しているし、世界に出て活躍されている方も多い印象があります。その後、京都精華大学に移られて、ブルキナファソを中心とした研究をされていると思うのですが、具体的に活動の内容を少し教えていただけますでしょうか?

心が動くフィールドワークは、必修科目!

清水貴夫:現職で担当している授業は、フィールドワークの準備科目みたいなものが多いですね。うちの学生は、必修で全員が何かしらのフィールドワークをやるんですよ。

奥 祐斉:すごいですね。僕は、とても羨ましいなと思うんですけど、知らないで入ったら驚きですね。『マジか、アフリカでフィールドワークかみたいな(笑)』。フィールドワークを開発したり、学生の方と一緒に現地に出向いて学んだりされている感じでしょうか。

セネガルで調理体験をする様子
セネガルの農村で植生を学ぶ

清水貴夫:カリキュラムはこれから少し変わっていくんですが、実際に現場でどうやって調査するか、ということを色々授業でやっています。

奥 祐斉:いいですね。授業としては、フィールドワークに関する内容が比較的多いのだと思いますが、ご自身の研究としては、ブルキナファソの食に関することになりますか。

清水貴夫:そうですね、食は、皆さんにとっても関心があると思うので、色々なご縁で仕事の幅は広がっている気がしますね。ちょうど数日前にも、食文化からアフリカを知ってもらえたらということで原稿を書き上げたばかりです。

奥 祐斉:素晴らしい!。それは楽しみですね。でも、アフリカと言えども広しじゃないですか。どういうアプローチの方法を取られているんですか。同じ西アフリカでも、ブルキナファソとベナンも全然違うと思うし。難しそうだなとも思って。

清水貴夫:結構難しいんですけど、例えば、文化人類学をやっている人に食文化について聞くと、大体自分が関わる村のことを語る方が多いと思うんですね。ところが、僕は、幸か不幸か、 西アフリカ内だけですが、複数の地域でフィールドワークをしていて、しかも、それぞれ割と長い期間滞在できました。西アフリカでも内陸に行けば、紛争、テロ、デモも日常茶飯事なんで、ちょっと落ち着くまで他のエリアに移動したり、ニジェールにしばらく行ったり、ニジェールもブルキナファソも危ないから、じゃぁ今度はセネガルをフィールドにしてみようとか。

奥 祐斉:僕もベナンに住んでいましたが、やはり住んでいると普通の暮らし、日常の食文化が自然に飛び込んできますよね。

清水貴夫:食文化はね、意識しなくてもやっぱり1日3回は接するものですからね。意識的に見ていると、一般的にこうなのかなというイメージはついてくるので、一カ所しか知らない人に比べるとそこは強かった部分かもしれませんね。

スンバラ愛の談義から、アフリカ納豆サミット開催へ

2023年に開催した「アフリカ納豆サミット」

奥 祐斉:清水先生と僕との繋がりと言えば、共通の知り合いのところで偶然あったことがキッカケですよね。そこで座りながら喋っていて、「フォニオ(西アフリカで5,000年以上も前から栽培されている古代穀物)でビールを作りたいんですよね」と言ったら、清水先生がめちゃくちゃ興味をもってくれて。じゃあ一緒にクラフトビールの工房に行きますかってことになって奈良の宇陀市まで行ったんですよね。その帰り道に清水先生のスンバラ(納豆)に対する愛の談義が始まって(笑)、それを聞いてたらなんか僕もすごく心地よくなってきて、むちゃくちゃ面白いなと思って、これをどう伝えようかなって思ったんですよね。

開発援助に関しては多分自分は合わなくて、清水先生と結構同じ感覚に近いなと思いました。なので、自分はカジュアルにアフリカのことを伝えるとか、こういう「アフリカ納豆サミット」みたいなことだったり、もっと身近な場所でイベントをすることなのかなと思って活動しています。

清水先生がスンバラの愛を語られたことがきっかけで、何回か継続して「納豆サミット」もやっていますけど、こういうことを大事にしてやっているんですよね。第一回目には、清水先生の繋がりで、高野秀行さんにも来ていただいたりと豪華ゲストで開催したこともありましたね。

スンバラしく美味しい、メニューに無いスンバラ料理

奥 祐斉:今後、清水先生がやっていきたいことなどはありますでしょうか?

清水貴夫:やりたいことは、そろそろスンバラを輸入できるようにならないかな?ということですかね。

奥 祐斉:スンバラを本気で輸入したいって考えているの、多分日本人で清水先生だけだと思います。(笑)

清水貴夫:まぁ、めちゃくちゃな量が出るものじゃないので、どんな規模でやるのか、ということを考えながらですけどね。そういえば、先日、東京でスンバラのイベントをやったんですよ。東京はやっぱり人も多いし、いろんなイベントもあるし、レストランもたくさんあるから、あんまりイベントに飢えてないんですよね。ただ、お祭りはないんですよ。フォーマルな大きなイベントはあっても、単発でポンポンっていうイベントは全然ない印象ですね。だから、奥さんと一緒にイベントをポンポンってやってみたりすると、「なんで東京でやらないの」と声がかかるわけですよ。よし、じゃあやるか!みたいな感じで始まりましたね。

そして、もう一つ、色んなスンバラ料理を極めたいですね。

奥 祐斉:そもそもで、『スンバラって何?』って思う人が多いと思うので、簡単に紹介してもらえますか?スンバラの魅力とか、その味わいってどうなんだろうっていうの、知りたい方もいると思うので。

清水貴夫:スンバラは、主にアフリカイナゴ豆っていう豆を原料にしてるんですね。生の豆にはちょっと毒があって、そのまま食べるのは適さないので、発酵させて納豆にするんですね。味は、日本の納豆より多分臭みは少ないと思います。粘り気は、地域によってあるところとないところがあります。ベナンとかセネガルは割とネバネバしているというか、結構どろっとしてる感じですかね。ブルキナファソとかニジェールのスンバラは、乾燥した状態です。粘り気とかもほとんどないですね。日本の納豆より匂いは薄いんじゃないかな。割と調味料としても優秀だと思うんですよね。日本の納豆みたいに、白飯にかけて食べるっていうタイプと違って、 スパイスなんかと混ぜる食べ方が割と多いですかね。魚とか肉を煮込む時にスパイスとして入れても美味しいですよ。例えば、唐揚げの粉の中にスンバラを混ぜて作ってくれた料理も美味しかったですね。

スンバラは、発酵調味料として一般家庭で使われる
スンバラを使った炊き込みご飯の完成

清水貴夫:ちなみに、荻窪にトライブスというレストランがあるんですけど、東京に行く度にスンバラを供給してるんです(笑)。僕の中に裏テーマがあって、そこのマスターがスンバラを使って何を作ってくれるかも楽しみなんですよね。

奥 祐斉:どんな感じなんだろ。まぁまぁ美味しそうな気はしますけど。あの特有の臭みは抜けるんでしょうか。

清水貴夫:いやいや、ちゃんと納豆臭くなりますよ。(笑)やっぱり醤油と納豆は絶対合うはずなんで、にんにく醤油と、スンバラ粉を大量に混ぜて作ってくれましたね。この前作ってもらったのは、キノコをスンバラでソテーしたもので、これはね、ビビるぐらい美味しかった。色々やってくれるんですよ。だから、ここ2〜3年、そのお店でメニューを見て注文したことないですね。勝手に美味しい料理を出してくれるから。ビールぐらいですよ、選ぶのは。どこのビールがありますか?みたいな話で、エチオピアがありますとか、じゃあエチオピアでくださいとか、本当にそれぐらい。

奥 祐斉:勝手に出てくるんですね、面白い。(笑)今度、一緒にそちらに行きたいですね。

清水貴夫:そうですね。行きましょう!そのスンバラ料理を、ブログでもノートでもなんでもいいんですが、レシピみたいなものを紹介できたらいいなというのはありますね。どっかでね、ちょっと特集できたりしても面白いなと思いますね。

奥 祐斉:いやぁ僕は、毎回清水さんとお話ししていて思うんですけど、キノコのソテーが美味しかったとか、なんか食べ物の話を嬉しそうに語ってくれる清水さんが好きです。なんかもう、純粋無垢な感じで小学生かってなります。学会とかでも、そうやって喋ってるのがいいなと思って、微笑ましく思っちゃいますね。(笑)

私たちが退化した、本来の観る力・聴く力が遺るアフリカ

モロコシについて根気強く説明する友人たち

奥 祐斉:あともう1つ、アフリカ的な価値観のことを、「アフリ観」っていう造語にして言ってるんですけど、アフリカ的な価値観っていうと堅苦しい感じがしちゃいますが、「アフリ観」ってボケてる感じに届ける方が、伝わるかなと思って。

僕も、アフリカから日本に帰ってくると思うんです。日本人って、なんで隣の人と全然挨拶しないんだろうとか。アフリカってすごく劇的に貧しいような書き方をされたりもしますけど、全然豊かなところがたくさんあって、なんだか、そういう側面を僕は伝えたいという思いでずっとアフリカの活動をしています。なので、今回は清水先生が感じるアフリカ的な価値観で好きだなという「アフリ観」について教えてもらえますか。

清水貴夫:そうですね、30年近くアフリカに通うなかで思うことで、自分もそうなりたいなって思うのは、「人の目を見て話す」ことですかね。

奥 祐斉:確かに、そうですよね。ちゃんと目を見て話してくれるし、目が合えば手を振ってくれる。

清水貴夫:ガチガチにしつけられた子って 逆に目を伏せるんですけど、それでも聞かれたことに対しては本当に一生懸命応えてくれますね。アフリカの人たちって、子どもたちもそうですけど、基本的に人の目を見てきちんと話すしスカさないですよね。スカさないというのは、冷笑しないという感じがします。人の話を真面目に聞くんで、やっぱり言うことも鋭いんですよね。

奥 祐斉:本当に真っ直ぐですよね。コミュニケーションを取る時に、僕も感じます。

清水貴夫:そうなんですよね。だから、今の若い子にも、学生とかにも、ああいうところをちゃんと見てきてほしいなと思いますね。騙すし、騙されたりもするけれど、ちゃんと信頼関係ができた暁には、多分そういうことはあまりないです。

奥 祐斉:都心部から離れて村に行くと、その傾向が強くなる気がしますね。日本もそれに近いような気がしますね。田舎に行くと、地方に行くと、ちゃんと人の目を見て話す人が増えるような感じがします。

清水貴夫:あとは、解らないポイントがすごく明確な気がしますね。これも、いつもハッとさせられることですけど、僕がインタビューをしている時に、「あなたの言っていることが解らない」って言われることがあるんですね。僕は、色々言葉を探しながら「こう言ったらわかる?」とか言うんだけれど、「いやいや、そうじゃなくて、僕はさっきあなたが言った“ここの部分”がよく解らないんだ」って具体的に言うんですね。人の話をちゃんと聞いているところが、本当にすごいなと思いますね。会話とか対人コミュニケーションしかなかった時には、確実に発展していたであろうことが、今でも彼らの中には残っている気がするんですよね。

なんか割と普遍的な人間能力だと思うんですけど、その人の言っている言語を意味として理解して、それをきちんと言語化できる。ある意味、人文学とかで求めてきたものが、なんか備わっているというか。凄いんですよね、みんな。だから、言語能力高いですよね?

奥 祐斉:そうですね。高いですね。耳がみんなとてもいいですよね。幾つもの言葉を話す人もいますし。

清水貴夫:そうそう。4カ国語とか普通に話すじゃないですか。僕は、学生に言うんですよね。この前も、他の大学の子が、ストリートチルドレンのフィールドワークをするから話を聞いて欲しいと言われて話す機会があったんですけど、ストリートチルドレンだからと言って、助ける相手としてだけで見ない方がいいと伝えたんですよね。なぜなら、あなた達は有名な大学に通っているかもしれないけれど、あなた達よりも、言語能力とかはるかに高いからねって言いました。

奥 祐斉:いや、間違いない。生きる力が強いですよね。

清水貴夫:そうなんですよね。たまたま体系的な知識があるかもしれないし、大学に行くための準備期間もあるかもしれないし、でも、その子たちは、そこら辺で皆さんが大学で学ぼうとしてきているものを全部覚えてきているから…

奥 祐斉:いやぁ、もう、清水先生の授業を受けたいですわ。(笑)

清水貴夫:でもなんか、緩さとか、なんかのんびりしたアフリカの姿がある一方で、下支えするその人間の能力というか、生きるための様々な力、作法みたいなのもがきちんとあるのが、アフリカの人たちかなって思いますね。これが、価値観になるのかわからないですが、そういうところですかね。

でも、そういう人をやっぱり育てている、つくり続けている、そこがアフリカのやっぱり価値観の1つじゃないかなっていう風には思います。のんびり、寛容なアフリカの人たちの姿の一方で、もう一方にそういう面もあるんじゃないかっていう風に思いますね。

奥 祐斉:いや、そうですね。リスペクトが凄くあるなっていうのは、僕もどこに行っても感じますね。だから好きなのかなっていう感じもします。

清水先生、素敵で楽しいお話をありがとうございました。また、イベントでご一緒させてください!

前編
食と人との出会いと愛が、アフリカ人類学者への道へ!


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