CAREER | 2024/09/28

ケニアの巨大スラム街との出会いで人生が一変
「朝起きれたら幸せ、今日もなんかいい感じ」

連載:「奥 祐斉と考える - “アフリ観LIFE“ -」 僕たちは、きっとアフリカに救われる
第1回ゲスト|坂田ミギーさん 【前編】

文・聞き手:奥祐斉 (株式会社bona 代表取締役)、編集:髙本育代

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“アフリ観LIFE“を送る人を紹介する連載企画《「奥 祐斉と考える - “アフリ観LIFE“ -」 僕たちは、きっとアフリカに救われる」》第1回目のゲストは、アフリカ・ケニアの巨大スラム街キベラとの出会いから自らの人生をシフトさせた、坂田ミギーさんです。アフリカの孤児・貧困児童と女性へのサポートを目的としたエシカルアパレルブランド「SHIFT 80」の代表として活躍されています。

坂田 ミギー(Miggy Sakata)

株式会社こたつ 共同CEO クリエイティブディレクター

広告制作会社、株式会社博報堂ケトルを経て、株式会社こたつを設立。31歳で世界一周の旅へ出発。帰国後は、TVCMやデジタル、PRなどの広告企画制作を続ける傍ら、旅の途上で出会ったアフリカの孤児・貧困児童と女性へのサポートを目的としたエシカルアパレルブランド「SHIFT80」を立ち上げる。現在は、旅やキャリアに関するエッセイ執筆のほか、キャンピングカーをモバイルオフィス兼自宅として、日本各地を旅しながら働くというスタイルを実践するなど、活躍の幅を広げている。

【著書】『旅がなければ死んでいた』(KKベストセラーズ)、『かわいい我には旅をさせよ』(産業編集センター)等。

SHIFT 80
https://shift80.jp/

坂田ミギー Instagram
https://www.instagram.com/migimagari/

奥 祐斉(Yusai Oku)

株式会社bona 代表取締役

 108の国と地域を回った旅人。イベントやツアー企画、プロダクト開発、場づくりなどを通じて、人と人を繋ぐことを積極的に行う。東アフリカや西アフリカを中心に企画型の旅を提案する。日本国内においては、京都を中心に企画・募集型の旅を主宰。また、スパイスの輸入を行い、全てアフリカ産のスパイスにこだわった「アフリカコーラ」などのプロダクト開発も行う。かつて暮らしたアフリカで心が救われた経験から、日本にアフリカの多様で大らかな価値観を輸入すべく活動を続けている。趣味は、アフリカで坊主にすること。「坊主とアフロと」と題して、Pod castを展開していく予定。

株式会社bona
https://bona.world/

奥 祐斉 Instagram
https://www.instagram.com/yusai0214/

心折れ旅がはじまり “ミギー” 誕生

奥 祐斉:早速ですが、ミギーさんって本名だと思い込んでたけど違うんですね。
そもそも、なんでミギーさんになったんですか?

坂田ミギー:元々は、本名で仕事をしていました。変わった人がいっぱい集まっている博報堂ケトルというクリエイティブエージェンシーで働いてたんですけど、必死に働きすぎて、血を吐いて倒れたんですよ。

奥 祐斉:って、それ載せちゃって大丈夫なんですか?(笑)

坂田ミギー:アハハハ、今はホワイトになったそうなので、全然載せちゃって問題ないです。その時に、必死に働いてもあんまり幸せじゃないなって思って、世界一周の旅に出ることにしたんです。それと、このまま働き続けたら死ぬなと思ったんで(笑)。あるとき「もう3日も家に帰れてないし、マジでやばい!」みたいな時期があって。当時は会社のビルの地下にシャワー室があったんですよ。

奥 祐斉:え、それって、もう帰れないようになってるじゃないですか。

坂田ミギー:そう、帰らなくても生きてはいけるんですよね。コンビニもあるし、シャワー室もある。ただ、その生活のせいで心身ともに病んでしまったんで、世界一周の旅に出たんですよ。ただ、旅をしているあいだ、ずっと何かを書かなかったり、仕事をしなかったりしていると、自分の中の文章を書く筋力が衰えてダメになる気がしてブログを始めたんです。当時はブログ全盛期。本名だと絶対に親とか親戚にすぐにバレると思ったんで、ネット上の友達に呼ばれていたニックネーム「ミギー」でブログを書き始めたんです。それが次第に色んな人に読んでもらえるようになって、ブログランキングでも上位になり、書籍化されたんですよね。でも、私のブログも本も、下ネタが多かったし(笑)、うちの親・親戚にバレるのは避けたい。「だったら本名より、ミギーで出した方がよかろう!」と思ってミギー名義で出しました。そうしたら、本をきっかけに私を知ってくれる人が圧倒的に多くなったので、ならば「坂田ミギー」で活動した方が色々楽じゃないかということで、今はこの名前を名乗っています。

奥 祐斉:なるほど。その「ミギー」はどこから来てるんですか?

坂田ミギー:たいして意味はなかったんです。奥さん、mixiはやっていました? mixi全盛期って、本名や自分の顔写真をネットに載せるのは、あんまり良くないとされる風潮だったじゃないですか。なので、mixiは本名ではなくインターネットネーム「城戸沙織」でやってたんです。

奥 祐斉:謎すぎるな(笑)

坂田ミギー:城戸沙織は『聖闘士星矢』の登場人物「アテナ」の名前です。私は聖闘士星矢が好きなんで。でも、サオリってインターネット上にいっぱいいるんです。だから、どのサオリかを判別するために「沙織(右曲がり)」と右曲がりをつけていました。下ネタ的な意味じゃなく、当時の私は背骨が右に曲がっていたので(笑)。そうしたら「サオリは他にいっぱいいるから、右曲がり由来で『ミギー』にしよう」ってネット上の友達が呼ぶようになったんです。

奥 祐斉:へぇ、面白い。そこからのミギーなんですね。ちなみに、プロフィールを見てると、学生時代から鬱になったりとか、 結構、アップダウンも激しかったんですか?あえて鬱病を公表するということは、それが人生の転機だったのかなと思って。そういう原点もあって、ブランドを立ち上げることにも繋がっているのかなと。

坂田ミギー:大学入学と同時に福岡から上京してきたんですけど、なんで鬱病になったのか自分でもよく解らないんですよね。まぁ、華々しい東京での学生生活では全くなかったですね(笑)。でも、いい経験だったとは思ってるんですよ。そのおかげで、精神的な病に対する理解も一般の人よりはあると思う。生きるのがしんどい人に寄り添えるのは、自分がそれを体感したからだと思います。

奥 祐斉:アフリカに関わってる人って結構そういう原体験が多いのかも。そんな気がしませんか? 優しい人が多いのもあるけど。

坂田ミギー:そうですね。優しい人も多いし、苦労してる人も多い気がしますよね。

奥 祐斉:多分、普通に考えたら理解できないと思うんですよね。スラム街にわざわざ行って、そこで活動するとか、サポートをするとか。自分のことで精一杯な人が多い中、ミギーさんもそうですけど、他の人にまで分け与えるみたいなことをされている人が多いなと感じます。

トゥルカナ湖に行けないおかげ「SHIFT80」発祥の地へ

ケニア、ナイロビにある巨大スラム・キベラ

奥 祐斉:そんなミギーさんは、旅をしている中でアフリカに出逢ったんでしょうか?

坂田ミギー:世界一周前にも、アフリカには何度か行ったことがあります。レソトに1回、モロッコに2回、南アフリカに3回。私は元パリピなので、当時は音楽フェス目当てで、南アフリカのケープタウンを中心に行ってたんですよ。

そのあとの世界一周では「せっかくだし行ったことのない国に行ってみよう」と思って、ケニアに寄りました。ケニアに対して強い興味があったわけではないのですが、通り道だし寄っておこうかなくらいの感じです。

ただ、人類発祥の地と言われているトゥルカナ湖がケニア北部にあるから行ってみたかったんですよね。でも、治安が悪すぎて、強盗も出るから行けないよって、たくさんの旅行会社に断られて、「行けないんじゃ〜ん!」となり、やることもなくなってぼーっとしてたら、ナイロビに大きなスラム街があったんですよ。

奥 祐斉:なるほど。じゃあ、アフリカのケニアっていうのも偶然なんですね。

坂田ミギー:そうですね。世界一周してるのにスラム街には行ったことがないなと思って。行ってみたいなと思って調べたら、スラムコミュニティの人たちの主催しているスラムツアーがあったんです。それに参加してみたら意外と面白い。面白いと表現するには語弊がありますけど、思っていたのと印象が違って。

スラム街は陰鬱として、絶望しかなくて、淀んだ空気があって……のような先入観だったんですけど、行ってみるとめちゃくちゃ活気がある。子どもたちは元気だし、お母さんたちは揚げパンとか野菜とか並べて笑顔で商売をしてたり、私の想像していたスラム街じゃ全然なくて、それでさらに興味が湧きました。

朝起きれたら幸せ。今日もなんかいい感じ

撮影終わりにチームのみんなと記念写真

奥 祐斉:ミギーさんのプロフィールを見ていると、無茶苦茶いろんなことをされているじゃないですか。“ギリシャのヌーディスト・アイランドで全裸のテント暮らし“とか、なんかもう全部カオスで、ストロングワード満載すぎて、記事に絶対しない方がいいと思うんですけど(笑)。その中でも、“ケニアのスラム街で地元アーティスト集団と密造酒を飲みまくった”と書いてますけど、事業をするうえで「ケニアに決めた」きっかけってあるんですか?

坂田ミギー:スラムに通ってるうちに、だんだん友達が増えていったんです。密造酒を一緒に飲んでいたアーティストチームもそうなんですけど、日本に住んでいた頃の私よりもかなり過酷な環境、厳しいシチュエーションで生きているけれど、みんな楽しそうだなと思って。“朝起きられたら幸せ。明日もきっと良くなるだろうし、今日もなんかいい感じ” みたいなことを言うんですよね。まず「朝起きたら幸せ」って、私日本にいる時思ってなかったなって。朝起きたら、「あ〜仕事か……。あれもやんなきゃいけないし、トラブル対応もしなきゃ」とか思ってました。なのに、朝起きて幸せと言える人たちが、こんな場所にいるのかと思って衝撃を受けました。

自分の心を救ってくれたのが、このスラムの人たちなんです。自分が助けてもらったから、次は、私が何か恩を返せたらいいなと、今この事業をやっています。

奥 祐斉:確かに、社会課題はあるというか。でも、僕は特にアフリカに関しては、いつも逆説的に考えてしまって、そんな風に幸せに生きてる人たちがアフリカには沢山いて、“何も変わらなくてもいいんじゃないか”って思う側面ってないですか?

坂田ミギー:あります。「経済成長した方がよかろう」は、あくまでも我々の考えです。変わらずそのままの方がいい部分はたくさんあります。

奥 祐斉:とはいえ、アフリカの人たちは、やっぱり生活水準を上げたいとか、モノが欲しいっていうのもありますよね。でも、我々(日本人)は、既に通ってきたからわかる、見える世界もあるじゃないですか、経済成長的に。

だから、どんな思いで活動されているのかなっていうのは、結構僕は皆さんに聞いちゃうんですよね。アフリカに対して、最初は何か困ってる人に手を差し伸べることはできないかな?と思って関わる人が多いと思うんですけど、現地に行ってみると、「あれ?僕たちよりも豊かかも?」みたいなことって、よくあるじゃないですか?

坂田ミギー:めちゃくちゃわかります。私の場合は「不幸になる人を減らしたい」思いでやっています。幸せは彼らの価値で決めるものなので、私がどうしたいというのはないです。ただ、病気なのに治療ができないとか、学校に行きたいけど学費がなくて通えないとか、お腹が空いてるけどご飯を食べられないとか、そういうのをなくしたい。私の思う方向に、みんなを走らせようとかは全く思っていないです。現地の人たちがやりたいこと、その背中をほんの人差し指一本くらいでも応援できたらいいなというだけです。

奥祐斉:なるほど。僕も一緒です。たまたま出会った人が、不可抗力とか、なんか理不尽なことによって自分の人生を歩めていなかったりすると、放っておけなくなるタイプなので、とても近いものを感じました。

自分の生き方、アキラメナイを育てたい

スラムにある工房で「SHIFT80」グッズを生産
スラムの若者のパワフルさを伝えるために、彼らをモデルにスラム内でも撮影を行っている(撮影:政近遼)
古着を組み合わせたアップサイクルのアイテムも好評(撮影:政近遼)

奥祐斉:「SHIFT80」のことを少し伺えたらと思っていて、「80%の利益を使って、世界をシフトさせる」というブランドですが、僕は、表現活動の一つのようにも感じていて、ただただ洋服を作って売っているだけじゃないなっていう感覚を受けたんですが、どのようなメッセージが込められていますか?

坂田ミギー:成り立ちからいくと、最初は広告などの仕事で稼いだ利益でスラムの女の子たちへの生理用品の配布や、学費支援をやっていました。けれど、コロナ禍になって、私の広告の仕事は9割無くなりました。そんなときスラムの友達に連絡を取ったら「こっちは仕事が無いどころじゃなくて食べ物も無い」という話を聞いて。じゃあ、せっかく時間ができたことだし、一緒に仕事を作る、事業を作るというチャレンジをしてみたら面白そうだなって思ったことがきっかけですね。

どんな事業だったら彼らの才能や、今できること、おたがいのやりたいことを活かせるかなと考えている時に独学でファッションデザイナーになった友人を思い出しました。彼女に作ってもらった服を着ていると褒められることが多かったんです。それで、アパレルだったら彼女にデザイナーになってもらえばいいし、彼女と一緒にやってるテーラーさんもいる。私はファッション業界の出身ではないけれど、服を売ってその利益を還元するというビジネスモデルでやってみようと思いつき、アパレルブランド「SHIFT80」を立ち上げました。

私は、「厳しい環境に生まれ育っても、誰しもが自分の可能性を諦めずに生きていけるようにしたい」というのが自分の目標です。なので、そのための手段はなんでもいいなと思っていて。山(達成したい目標)への登り方は色々ある。山に登れればいいという感じです。なので、スラムの人たちをモデルにした写真作品を販売して、その利益を還元することもやっているし、学校での講演をやって、多くの人にアフリカを知ってもらうこともやっているし、色んなことをしています。「SHIFT80」がどういうものですかと聞かれると、いつも私は難しいなと思うんですよね。エシカルコレクティブという言い方をしてるんですけど、それが伝わるかどうかは疑問だなといつも思っていて。エシカルなファッションブランドというときもあれば、機会に恵まれてない人たちに新しい道を作る活動をしている集団ですっていうときもあります。

奥祐斉:ちなみに「SHIFT80」は余剰利益の80%を現地に還元し続けているじゃないですか?これまで、あまりそういうことをしっかりメッセージとして伝えてきたブランドって無かったなぁと思いました。

坂田ミギー:そうですね、アフリカの人たちの才能でビジネスをしているのに、それで儲かったものが全部ビジネスオーナーのポケットに入るのは違うと思っています。だから、このビジネスモデルにしました。

奥祐斉:ちなみに「SHIFT80」の商品を購入したいと思った時に、店舗はあるんですか?

坂田ミギー:今はオンラインストアだけで、実店舗は無いですね。たまに、POPUPをやっています。

奥祐斉:興味のある方は、オンラインストアから購入するといいですね。見せ方が、とってもうまいですよね。感じるものがすごくあるから、ホームページを見ていても伝わってくる。ほんとに。

坂田ミギー:ありがとうございます。クリエイティブ出身なので、それだけは得意です(笑)。

奥祐斉:さすがですね。そして「SHIFT80」のInstagramをフォローすることで、僕たちも関われることがあるんですよね?

坂田ミギー:そうなんです。「SHIFT80」のSNS、InstagramやX(Twitter)、LINEをフォローしていただくと、1フォロワーにつき給食1食分をアフリカの学校に届ける取り組みを行っているので、ぜひ、皆さんにも参加していただきたいです。

奥祐斉:ぜひ、皆さんもフォローお願いします。
もう少しお話を伺いたいと思うので、続きは後編で読んでいただけたらと思います。

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