EVENT | 2024/06/07

「宇宙に広がるインターネット市場」 Interop Tokyo 2024 特別企画 「Internet x Space Summit」が開催

月面での通信がもたらす新たな宇宙ビジネスの創出へ

文:カトウワタル(FINDERS編集部)

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開催に先立ちJAXA金子氏×慶應大 神武教授が見所を紹介

株式会社ナノオプト・メディアが運営する国内最大級のインターネットテクノロジーイベント 「Interop Tokyo 2024」が2024年6月12日(水)~14日(金)に幕張メッセで開催される。Interop Tokyo 2024のメインテーマは、“AI社会とインターネット”であることは、FINDERSでもお伝えしたが、昨今ますます注目を集める“宇宙ビジネス”をテーマとした 「Internet x Space Summit」 が昨年に続き今年も特別企画として行われることになった。

参考記事
いよいよ開催まで1ヶ月!「INTEROP TOKYO 2024」 “AI社会とインターネット”をメインテーマに最新のインターネットテクノロジーが集結!!

宇宙とインターネットテクノロジーの組み合わせには、地表へのインターネットサービス提供のみならず、未来に向けた多くの可能性が秘められている。そして近年、この分野では数多くの政府機関、学会、民間において様々な取り組みや検討が急速に進み、将来的には、インターネットが地球を超え、惑星間や宇宙を網羅するインフラに成長することで、新たな産業やビジネスチャンスが生まれることが期待されている。

こうした背景から、Interop Tokyo では「Internet x Space Summit」を特別企画として実施し、インターネットが宇宙空間に広がることで生まれる可能性を探ることとなった。そして本企画の実施にあたり、仕掛け人であるJAXA金子洋介氏と、慶應義塾大学 神武直彦教授による対談が公開され、本企画の見どころなどが紹介されている。本記事では、この対談の様子を中心に、宇宙ビジネスにおけるインターネットテクノロジーについての現状や、注目すべきトピックスなどをお伝えしたい。

惑星間ネットワークを構築し、宇宙でも地球上と同じようにインターネットが使える環境を !

神武 : 金子さんご所属のJAXAというと、ロケットとか人工衛星とか宇宙ステーションというイメージがあると思うのですが、その中でインターネットの取り組みはどのようなことをやられているのですか?

金子 : 最近、アルテミス計画など国際的な月探査への動きが非常に活発化しており、月での持続的な活動を行うためにさまざまな研究が行われています。そうした中、通信インフラは非常に重要となっており、この通信のインフラのことを “惑星間インターネット” という言葉で表現したりしています。これはJAXAの外での活動にはなりますが、アメリカのIPNSIG(https://www.ipnsig.org/)というNPO団体に参加して、惑星間のインターネットをどうやって作り上げるべきか、あるいはそれを作るためにはどういう課題があるかといった議論もしています。

神武 : 惑星に行っても日本や地球上と同じようにインターネットを使えるようにする、というのがひとつのゴールですね。

金子 : そうですね。やはり月面で人が活動するためには、建物をつくる建築の技術や、発電するためのエネルギー技術、食料を生産する技術も必要です。そしてこれらのすべての技術を支えているのが通信だと思うのですが、これまでのJAXAですと、ミッションをクリアするためのポイント・ツー・ポイント通信が主でしたので、このマインドを進化させ、ネットワークという概念で取り組まないと、通信インフラとしての構築は難しいと感じています。

神武 : 今回の特別企画 「Internet x Space Summit」 では、そのあたりがホットトピックスになると思うのですが、金子さんはどのような未来をイメージされていて、今回の企画ではどのような方々に登場いただくのですか?

金子 : 私が究極的に目指したいのは、地球と月、そして将来火星というものがひとつのネットワーク、共通インフラのもとでつながる。例えば、月面の基地だったり、火星の基地だったり、あるいは月の周りを回る衛星だったりが、ひとつのネットワーク基盤につながる状態を目指したいと思っています。

神武 : そういったネットワーク基盤をつくる上での課題は何ですか?

金子 : やっぱり非常に遠いことですね。電波を地球から発して火星にたどり着くのに、火星が一番遠い時間だと、20分ぐらいかかってしまいます。例えば宇宙飛行士やロボットが火星の表面で何か活動している時に、何か指令を送るにしても、20分で行って20分で帰ってくるという非常に遅延が大きい環境になってしまいます。さらに月や人工衛星も惑星運動により常に回り続けているので、衛星が天体の裏に入ってしまったりすると、さっきまで通信できていたものがいきなりプツッと切れてしまうといった、地球上とは違った遅延や切断が起こるため、こうした宇宙の環境に対応できる技術、通信プロトコルの開発が重要だと思います。

神武 : そのあたりの研究はどのように進められているのですか?

金子 : 結構歴史は長くてですね。私が所属するIPNSIGを立ち上げたヴィントン・サーフという、インターネットの根幹を成しているTCP/IPという通信プロトコルを開発された方が、これから人類が宇宙に出ていく時にTCP/IPだと立ち打ちできないということに気付き、DTNという通信プロトコルの研究を1998年から行っていて、今ではNASAやJAXA、ヨーロッパのISAなどが中心となって研究を進めています。

NASA、JAXA、タカラトミー、清水建設、日揮グローバル、竹中工務店…さまざまな分野のキーパーソンが登壇

神武 : 今回の「Internet x Space Summit」にはNASAの方が登壇されますよね?

金子 : はい。どうしても来てほしいと何度もオファーして、ようやく来ていただけることになったのですが、NASAからはジム・シャイヤーさんが登壇されます。いまNASAでは “ルナーインターネット”、略して “ルナネット” という地球と同じネットワーク環境を月で構築するという構想を持っていて、アメリカの企業とNASAでは活発に議論も進められています。ジム・シャイヤーさんにはルナネットの構想や現状などをご紹介いただき、月での通信がもはやファンタジーではないことを皆さんに感じてほしいと思います。

神武 : 先日SLIM(Smart Lander for Investigating Moon 小型月着陸実証機)プロジェクトにおもちゃメーカーのタカラトミーさんが話題になりましたが、今回登壇されますよね。

金子 : はい。タカラトミーさんは、JAXAの宇宙探査イノベーションハブで共同研究し、そこから月面に行ったというスーパープレーヤーです。宇宙に物を運ぶと重量がコストになるので、なるべく小さく、容積も小さく軽くしたいというのは永遠の課題です。今回のタカラトミーさんのように、小型化はある意味日本のお家芸みたいなところもあり、国際的にも価値が高い取り組みだったと思います。

神武 : ほかにはどういう方にお話しいただけるのですか?

金子 : まず建設業界ですね。清水建設さんや鹿島建設さんは、宇宙開発についてかなり本格的に取り組んでいらっしゃいます。

神武 : 清水建設さんといえば、月面にホテルを作るといった取り組みを行っているイメージがありますが、今はどんなことをされているのですか?

金子 : 月の砂、いわゆるレゴリス(天体の地表面にゆるく積もった岩石由来の粒子やかけら、小天体の衝突によって生成したガラス片、ダスト等の総称)の運搬やこれをどう使うかや、建築の最初のフェーズとなる地盤調査などを行う上で必要な技術開発などを行っています。

また、エネルギー分野からは、プラント事業を展開している日揮グローバルさんが登壇されます。月の南極に氷があると言われているので、そこから水を抽出、分解して水素と酸素を作り、ロケットの燃料源や発電源を生成する取り組みなどについて紹介されると思います。

神武 : 食についてはいかがですか?

金子 : さきほど月に水があるという話しが出ましたが、とはいえさほど量はなく貴重な資源なので、効率的に野菜を栽培する技術開発はいろいろなところで進められています。宇宙探査イノベーションハブで共同研究を行った竹中工務店さんとはISSでのレタス栽培の実験も行いましたので、こうした技術を月でも使えるようなチャレンジのお話しも出るかと思います。

神武 : また今回JAXAからもいろいろな方が登壇されますが、どういう方がどんなお話しをされるのですか?

金子 : JAXAからは、まず日本の宇宙探査を管轄する国際宇宙探査センターという部署が、月の通信アーキテクチャの開発を行っていて、その開発の進捗や課題などが紹介すると思います。例えば、月の周りのどこに通信衛星を配備すれば良いか、どこに月の通信局を作れば良いか、といった具体的な話しも聞けるかも知れません。

また、先ほどお話しに出た遅延と中断に対応した通信プロトコルの研究開発を行っている追跡ネットワークセンターという部署からも登壇します。

神武 : 衛星通信では、衛星が地球の裏側に行くと通信できなくなるから、複数の衛星でそれをカバーするといったこともやっていますが、月面に行くとなると何が変わるのですか?

金子 : 基本的に同じです。やはり通信リレーといいますか、衛星が月の周りを回って通信先が月面にあるという、基本的な構図は同じだと思います。

インターネットテクノロジーのイベント、Interop Tokyoで宇宙の企画をやる意味

金子 : これは私の考えなのですが、もちろん宇宙環境という特殊な部分はあると思いますが、地球に地面があるように、月にも地面があるので、地球上のテクノロジーやインターネットも極論を言うと同じものを作り出せると思っています。また、今後持続的な活動を行っていくためには、宇宙機関の力だけでは実現できず、インターネット産業やモバイル産業の方々と一緒にやっていかないと世界観が作り出せないということで、昨年より Interop Tokyo で、「Internet x Space Summit」を開催していただいています。

神武 : なるほど、そういう意味ではビジネスチャンスだな、面白いな、と思ってくれる人に来ていただけると思うのですが、どんな方に参加していただきたいですか?

金子 : やはり先ほどのお話にもありましたように、月面で必要な食料や建築、エネルギーといった分野において、技術を持った企業の方に参加していただき、この活動を支えていただける企業が増えていくことに期待しています。

神武 : 他にも私を含めたアカデミアや政府関係者の方々も参加したいと思っていただけると思いますが、そういった方々を対象としたセッションはあるのですか?

金子 : アカデミアからは村井純先生との惑星間インターネットの話しから、ワイドプロジェクトの中で宇宙関連の研究を行うワーキンググループを立ち上げていただきました。非常に多くの学生さんがかなりのパッションを注いで研究してくださっていて、その学生さんによるセッションもあります。

神武 : 今回、「Internet x Space Summit」は2回目の開催となりますが、来年の3回目が開催される頃には恐らくアルテミス計画も進み、宇宙飛行士が月面に行くことも現実味を帯びていると思います。今回の開催も、新しいプレーヤーの参加など、さらに広がって行くためのきっかけになるような議論ができると良いなと思いますが、最後に一言いただけますか?

金子 : いま、宇宙探査は非常に盛り上がりを見せておりますし、今後も日本全体のムーブメントに発展させていきたいと考えています。そしてその活動を持続的に行っていくためには、通信インフラは切ってもきれない世界だと思います。ぜひインターネット産業の皆さま、モバイル産業の皆さまにお越しいただき、将来の人類の活動圏を広げていくという、大きな野望をご一緒いただけると嬉しいです。

神武 : ありがとうございます。私の方からも少しだけ補足させていただきます。ご存じの方もいらっしゃると思いますが、政府による宇宙戦略基金が設定されました。この先10年間で1兆円を企業と大学に投資し、日本の宇宙ビジネスを広げていうというものです。その中でも、惑星探査、惑星事業というのはひとつの大きな目玉であって、お伝えしたようにその中で通信インフラは非常に重要な役割を占めます。

政府の後押しも受けつつ、今後ますます広がっていく分野だと思います。ぜひ少しでも興味を持っていただけたら、参加していただければと思います。

ありがとうございました。


Interop Tokyo 特別企画 
Internet x Space Summit インターネットテクノロジーで、宇宙をチャンスに


宇宙空間の通信における現状の課題を明らかにし、インターネットテクノロジーがもたらす新たなチャンスについて広く共有し、研究機関、大学、企業によるトークセッションなどを通じて、宇宙に広がるインターネット市場について紹介。
https://www.interop.jp/2024/exhibition/spacesummit/?_gl=1*450p7s*_gcl_au*MzQxMzcyODk3LjE3MTYzNTcwNjE.&_ga=2.246088640.516932704.1717050826-340804864.1716357062


開催概要

Interop Tokyo 2024

会期:2024年6月12日(水)~14日(金)
会場:幕張メッセ(国際展示場 展示ホール2~6 / 国際会議場)
主催:Interop Tokyo 実行委員会
運営:(一財)インターネット協会 / (株)ナノオプト・メディア
参加費:無料(展示会・講演) WEBからの登録制・会期3日間有効
公式ホームページ:https://www.interop.jp/