「暗闇を否定しない」 発想がもたらす、新しい夜の公共デザイン
東京・墨田区の荒川四ツ木橋緑地に、照明を使わずに夜の安心を生み出す新しい空間づくりが始まった。
墨田区、株式会社ユーモラス、千葉大学環境デザイン研究室が共同で進めるこのプロジェクトのテーマは「暗闇をデザインする」。暗闇を恐れる対象として排除するのではなく、共存しながらその魅力を活かすことを目指す。
日本国内には約1万4千の河川があり、河川敷は都市にとって重要な公共空間でありながら、夜間照明の設置には電力供給や維持費、光害といった課題が伴う。
荒川下流域の四ツ木橋緑地も例外ではなく、都心にありながら夜になるとほとんど光が届かない“暗闇のポケット”のような場所だ。一方で、ジョギングや散歩など夜間利用者も多く、明るさだけでは解決できない安心設計が求められていた。
蓄光が生み出す“認知できる暗闇”という体験
今回導入されるのは、電力を一切使わずに光を蓄えて発光する「ナイトコンシェルジュ」シリーズ。
昼間に太陽光や人工光を吸収し、夜になるとやわらかく光を放つ高輝度蓄光ユニットで、段差や動線を穏やかに示す。夜でも目が慣れる程度の明るさを保ちながら、照明のように空間を過剰に照らさず、夜の静けさと安心感を両立させる設計である。
園内には40箇所以上の円形エスコートユニットが設置され、来訪者を導く「光のリズム」を形成。
また、入口には昼は案内ボード、夜は発光サインとして機能する大型サインを設置。再剥離フィルムにより、季節やイベントに応じて情報更新も可能となっている。
千葉大学環境デザイン研究室(原寛道研究室)が監修を担当し、「こんにちは」「おやすみなさい」といった時間帯に応じた発光メッセージを設けるなど、利用者の心理に寄り添う温かな空間体験を実現した。
墨田区都市整備部公園課の担当者は「暗闇はこれまで“危険”として扱われてきたが、静けさや奥行きといった魅力を再発見することで、夜の価値を見直せるのではないか」と語る。
電力を使わず、維持管理コストも抑えられるこの方式は、河川敷だけでなく公園や遊歩道など、全国の公共空間に展開可能な新しいモデルとして注目されている。
蓄光によって“照らさずに導く”という発想は、明るさを追い求めてきた都市空間の価値観を大きく転換するものだ。
夜の街に必要なのは、単なる照明ではなく、心の安心を生み出す“デザインされた暗闇”なのかもしれない。
プロジェクト概要
実施場所:荒川四ツ木橋緑地 八広水辺公園(東京都墨田区八広6丁目)
実施期間:2025年10月31日(金)〜12月25日(木)
主催:墨田区道路公園課/墨田区産業振興課/関東地方整備局荒川下流河川事務所
共催:株式会社ユーモラス/千葉大学環境デザイン研究室
協力:SUMIDA INNOVATION CORE/タグエー合同会社/AQT/BarAmbience
ナイトコンシェルジュ公式サイト
https://humorous.jp/nightconcierge
株式会社ユーモラス
https://humorous.jp
墨田区プロトタイプ実証実験支援事業https://www.city.sumida.lg.jp/kuseijoho/sdgs/kunotorikumi/keizaitorikumi-1.html