展示会のブースレイアウトは「接客の流れ」から考える
今回は、ブースのレイアウトについてお伝えしてみたい。本記事では、「通常やらないこと」を敢えて記載しているので、今回も敢えて「え?そんなことやるの?」と言われることを書いてみよう。
ブースのレイアウトをどのように考えるのか。多くの出展社やブースデザイナーの方々は、まず設置するべき商品を決め、それをブース内に適正配置する。その際、来場者をどのように案内するかを考え、ブース全体の機能性を確認する。概ねこのような順序で検討を進めていくことだろう。
もちろんこれは間違いではない。展示会のブースは、基本的に出展者がブース内にいるため、「来場者がどのように歩くか」という視点ではなく、「出展者が来場者をどう案内するか」という「接客の流れ」を考え、それをブースに反映するという視点が重要となる。来場者とのタッチポイントはどこなのか。その後、どこで説明をし、どのようにブース内を案内するのか。そして、どこで商談をし、どう来場者をお見送りするのか。
基本的には、このような「接客動線」によってブースのレイアウトは決まってくる。
ブース内を敢えて「狭く」する理由
そんなレイアウト検討時、私は敢えてブース内を「狭く」することがある。二人がすれ違うブース内通路幅は1300㎜あれば十分ではあるが、それを敢えて1000㎜にする、という感じだ。このようにすると、来場者からすると窮屈に感じるかもしれないし、出展社からすると接客がしにくい、ということになる。でも、敢えてする。
これを聞くとほとんどの展示会関係者の方々は、「そりゃ、だめでしょ」と即答されるに違いない。デザイナーが上司にこのようなプランを持っていくと即座に否定されるアイデアだ。私の場合、上司はいないので遠慮なくそうする。もちろん、クライアントである出展者には、そのようなデザインにする意図は明確に、かつ確信をもって説明を行う。
通路を敢えて狭くする。その意図は、ブースの外から見た時に「ブース内が賑わっているように見せる」ということにある。実は、この手法は全体的な来場者数が少ない展示会、来場者を集めることが難しいと判断される場合などに適用している考え方だ。展示会場の広さと比較して、来場者があまり多くはない、という展示会は少なからずある。そのような場合、会場内は常に閑散としており、少ない来場者にいかに立ち寄ってもらい、しっかりと話をするか、ということが出展結果を出すという観点からとても重要になる。このような場合に、敢えて通路を狭くしておく。そうすると、少ない人数でも、ブース内が賑わって見せることが出来るからだ。確かに、出展者にとっても、来場者にとっても、狭い通路幅では不便に感じることだろう。しかし、敢えてそうするのは、それ以上に大事なことがあるからだ。


通路に「背を向ける」壁を設ける
同様の考え方で、このようなこともする。4小間やそれ以上のサイズのブースで、4面もしくは3面が通路になっている場合、商品を設置する展示台をどの方向に向けるべきか悩む方も多いのではないだろうか。私はそのような場合、メイン通路方向にだけブースをオープンにして、その他は通路に背を向ける形で展示台を設置する。つまり、全ての展示台をブース内部に向けて設置するというレイアウトだ。その理由は、ブースの内部に来場者が集中する状況をつくることにある。「いやいや、通路に背を向けるのはダメでしょう」。きっと業界歴の長い人ほど、そのように言うかもしれない。しかし、ここでも敢えてそうする。
なぜこのような「内部集中型」のレイアウトにするのか。実はこれもブース内が賑わっているように見せる、という意図がある。少ない人数でも、ブースの各所に散らばっている場合と、ブース内に集中しているのとでは、見た目の印象が異なる。4人が1人ずつブースの端にいるよりも、中央付近に集中している方が、見た目的に賑わっているように見える。
また、中央に来場者が集中するようなこの「内部集中型」のレイアウトは、これ以外にも利点がある。ブース中央が空いているということは、全ての壁面へのアクセスが容易になる。これにより接客がしやすくなる。
ブース内には多くの壁面があり、それぞれに様々な解説を行っている。もし、それぞれの壁面がブースの外側に向いている場合、一方の壁面から、反対側の壁面までの動線が長くなってしまい、来場者を連れて歩くことは難しくなる。その長い動線の中で来場者が離れていってしまう可能性も高くなるからだ。しかし、内部集中型であれば、ブースの中心から全ての壁面が同じような距離になり、来場者の案内動線が比較的短くなる。つまり、接客が簡単になる、ということだ。このことは接客戦略を考える上でかなり有利な状況と言える。
このように、内部に来場者が集中するようなレイアウトは一見すると無謀なブースレイアウトに感じるかもしれない。しかし、ここにも出展社が集客に成功してもらうための明確な戦略がある。





大切なことは「引き寄せること」
では、ここで改めてお伝えしたい。なぜブース内通路幅を敢えて狭くしたり、通路に背を向けてブース内部に来場者が集中するように仕向けるのか。その理由として、「賑わいをつくること」が大事であることを主に説明してきた。では、なぜそうまでして「賑わいをつくること」に強くこだわるのか。それは、ブース集客において大事なことは「来場者をまずブースに引き寄せること」だからだ。
来場者の基本的な心理として、ブース内に誰もいない場合、来場者はそのブースに近寄らなくなってしまう。誰もいないブースに近づくと「つかまってしまう」と思うからだ。ましてや、出展社スタッフがブースの前に整列して待ち構えていたら誰も近づかなくなるだろう。この観点から、ブースの内部に「常に来場者がいる状況」を見せることや、「にぎわっているように」見せることは、来場者を引き寄せるための重要な手法となる。
展示会場内に来場者があまり多くない、と想定される時や、この出展者では集客が難しいと判断される場合などには、敢えてこれらの手法を使うことがお勧めだ。確かに、ブース内での動きは窮屈に感じられることだろう。しかし、ブース内が広々として誰も集まらないよりは、窮屈でも商談が多くなってくれる方がいい。
多くの出展社は、「自社製品をどのように伝えるか」については深く考えるが、遠くを歩いている来場者を「引き寄せる」ことについてはあまり深く考えていない、と日頃感じている。商談をするためには、まずブースに立ち寄ってもらわなければそれも叶わない。そのためには、たとえ少しの人数でもブース内が賑わっているように見せる、という手法は、状況によっては立派な集客デザインの手法となり得る、と感じている。
この記事は、展示会情報メディア 「イベスル」 の掲載記事
「「ありえない」 ブースデザインの工夫」 を展示会業界外向けに加筆・調整したものです。

SUPER PENGUIN株式会社 代表取締役 展示会デザイナー/一級建築士
1970年生まれ。一級建築士。大学で建築を学び、ゼネコンにて設計業務に携わる。
独立後は、インテリアデザイン事務所として「ディーコンセプトデザインオフィス」を設立。その後、展示会ブースに特化した空間デザイン会社「スーパーペンギン」に組織変更を行い、展示会のブースデザイン専門の空間デザイン会社として業務を特化する。徹底した「来場者心理」を軸にした空間デザインの手法によりブースを構築。ブースデザインに加え、商品陳列手法、キャッチコピーの考案、会期中の立ち方・待ち方、DMの送り方に至るまでの展示会サポートの姿勢は、「デザイナーというよりコンサルタント」との評もあり、デザイナーによってキャッチコピー・商品陳列・立ち位置の設定まで行うのは、日本において唯一と考えられる。これまでの経験を基にした展示会セミナーは常に「満足度100%」を達成。現在、全国の自治体・中小企業支援団体だけでなく、多くの展示会主催者、代理店、設営会社等展示会業界関係企業までにも行っている。代表的な実績として、ギフトショーにおける「石川県産業創出支援機構ブース(石川県ブース)」「東京都中小業振興公社ブース」など、自治体による集合ブースが業界内で認知されている。いずれも、地方自治体が地元も企業を支援する出展形式のブースとなっており、ブースデザインだけでなく、出展対策セミナー、個別のディスプレイ指導を含む総合的な出展支援は、展示会業界でも類を見ない支援方法として、全国からの問い合わせが増え続けている。2023年に著書「集客できる展示会ブースづくり」を発刊。
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