EVENT | 2022/03/31

上司から「SDGsで何かやってよ」と言われた時、何から始めればいい?「利益と社会課題の解決」を両立する思考法

アムステルダム北にある、破棄されたボートとコンテナを組み合わせて作った、サステイナブルなコワーキングスペース「De ce...

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まずは「自社事業がどれだけの環境負荷を与えているか」の調査を

オランダでは運河も重要なインフラ。そのインフラをいかにサステイナブルに維持していくか?自動運転ボートなどの開発も進む

ーー そうした中で、日本企業がSDGsないしサステイナブルな取り組みを始める際、何から手を付けるべきでしょうか?

吉田:まずは海外含め先進事例に関するリサーチをしっかりした方が良いです。コロナ禍もあって2年ほど海外に行けていない、コミュニケーションを取れていないところも少なくないと思いますが、そのブランクはかなり大きいです。

「うちは海外拠点もあるから大丈夫だ」と思っている企業も要注意です。オランダ駐在の日本企業社員を見ていると、日本語でできる仕事のみしており現地の人と交わらない人が非常に多いです。そして3〜5年程度で帰ってしまうので、英語だけでなくオランダ語(現地語)も勉強する人は非常に少ない。リサーチを外注できる機関もあるにはありますが、当社のようなところへの再委託も結構やっていたりするので、どうしても又聞きのフィルターがかかってしまうのです。

こうした構造的な問題もありますが、それ以上に問題なのは「日本企業の社員が取れる勉強時間が少なすぎる」ということです。

コロナ禍前にある日本の超有名企業の社員たちのオランダ視察を手伝ったことがあるのですが、レクチャーの後半で「ところでテスラって何ですか?」と聞かれてびっくりしてしまったことがあります。自社や自分が所属する部門の知識はあっても、別領域の情報を全く持っていない大手企業の社員は少なくありません。

多くの企業のビジネスは1社単独で成立しているわけではなく、部品や原料を購入したり、作業を外注したりしているわけですが、「事業のサステイナブル化」というのは最終的にこれら全工程の環境負荷を下げていくのが目標ですから、自社の所属部門の知識だけでは絶対に対応しきれません。

これはSDGsでも同じで、だからこそ「ちょっと何か考えてみてよ」「じゃあ自分の会社のCSR活動の延長線で」という思考はあまり良くないのです。SDGsで何かやれとだけ言われても「わが社で使用する電力を全て再生可能エネルギーにします」みたいなドラスティックな提案は出ないですし、出たとしても意見を活用できる組織になっていないことが多い。

そこまでやるには、自社のインフラ部分含めて課題を洗い出すこと、そして課題解決そのものを事業のメインとしてプロフィットセンターに持っていくことを考えなければいけません。

ーー つまり、エース社員を投入する本気のプロジェクトとして進める必要があるということですね。

吉田;その通りです。「ウチもそろそろ何かやらなきゃ」ではなく、事業ドメインをシフトさせるぐらいの意気込みが必要です。

例えばIKEAは毎年2億冊以上、世界で最も多く発行される出版物とも言われていたカタログを2020年で廃止して大きな話題を呼びましたし、オランダの電機大手フィリップスはLaaS(Light as a Service)の概念を提唱し、照明器具を売るのではなく「ユーザーの省エネとコスト削減を両立する月額制サービス」を売るビジネスモデルへの転換を図りました。

先ほど「事業のサステイナブル化」という話をしましたが、例えば缶ジュースの缶はサステイナブルと言えるでしょうか?

ーー それ単体だと色々な捉え方ができると思うので判断が難しいですね。

吉田:そうですね。飲み物を保存できるからサステイナブルとも言えるし、缶はそのままだと自然には還らないので違うとも言えるし、いやリサイクルができるとも言える。だからこそ「製造から運用まで」を一気通貫で見ていかなければサステイナブルな事業かどうかは判断できないのです。

また「ビニール袋よりもエコバッグを使う方が環境に優しい」ともよく言われますが、1枚のビニール袋とエコバッグを比べると、エコバッグの方が製造過程で炭素を排出しており、元を取るためには数万回使う必要がある、ともよく言われています。

これは「サステイナブルな◯◯アイテム」でも同様で、外注先も含めた製造過程の環境負荷は抑えられているか、商品購入後、ユーザーが捨てる時はどうなるのか、そこまで考える必要があります。

ーー 自社のビジネス全体でどれだけの環境負荷がかかっているのかを、まず把握してみること自体がかなり大変ですよね。

吉田:こうした構造的問題を解決するための一助として、オランダのサステイナブルコンサルティング会社とでも言うべきプロダクション「Except Integrated Sustainability」が「Symbiosis in Development(SiD)」というメソッドを開発しました。ちなみにExceptは先ほどお話ししたIKEAのプロジェクトを提案した企業です。ニューロマジック アムステルダムではSiDを日本語訳したPDFを無料公開しているのでぜひ読んでみてください。

SiDの大きな特徴は以下の6つです。

1:ある一つのモノだけ、側面だけを対象とするのではなく、全体として包括的に、システムの一部として、あるいはシステムそのものとして、対象を捉えること
2:多くのプロジェクトに応用可能だということ
3:プロジェクトの変化に合わせて柔軟に対応できるということ
4:解決策の提示のみならず、それを実行して検証するところまで包括していること
5:多くのステークホルダーや専門家を巻き込み、共創できること
6:実現しやすい環境づくりができること

先ほどのIKEAのカタログ廃止プロジェクトでは、同社が利用する世界各国の印刷会社がどんなエネルギーをどれだけ使っているかといったデータを全て集約しダッシュボードを作成し、どこをどう変えればコスト的にも無理なく環境負荷を抑えられるかが把握できたことが功を奏しました。

大抵は自社だけでなく他社も絡む話なので「見える化」は非常に大変ではありますが、他のSDGs目標であっても「課題となっている数値がどれぐらいか」をできるところから把握することは非常に重要です。そしてそれができている企業は多くありません。

みなさんの会社でも、利益やコスト削減といったインパクトも出しつつ、社会課題の解決に向かうような取り組みを増やせるよう、私たちも取り組んでいきたいと思います。


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