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世界中で2億冊以上発行される「IKEAのカタログ」の環境負荷改善・コスト削減を同時に達成した「スゴいメソッド」【連載】オランダ発スロージャーナリズム(37)
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  • 2021.09.30
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世界中で2億冊以上発行される「IKEAのカタログ」の環境負荷改善・コスト削減を同時に達成した「スゴいメソッド」【連載】オランダ発スロージャーナリズム(37)

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皆さんは、今、この記事を読まれているのはスマホでしょうか?PCでしょうか? ほとんどの方はスマホかもしれません。逆に紙媒体である書籍や、雑誌、新聞などの出版物を読まれている人は、今の時代どのくらいいるでしょうか? 

筆者の場合は、書籍はいまだに紙媒体で読んでいます。自分でも不思議なのですが、電子書籍の利便性は理解しつつもなぜか内容が頭に入ってこないので、毎回、重い書籍を海外に発送してもらったりしています。雑誌や新聞にも同じ感覚を覚えます。同じ記事でもウェブで読むより、物理的に手に持てる媒体の方が理解しやすい感じがします。ま、昭和生まれなので、致し方無し、といったところでしょうか。

吉田和充(ヨシダ カズミツ)

ニューロマジック アムステルダム Co-funder&CEO/Creative Director

1997年博報堂入社。キャンペーン/CM制作本数400本。イベント、商品開発、企業の海外進出業務や店舗デザインなど入社以来一貫してクリエイティブ担当。ACCグランプリなど受賞歴多数。2016年退社後、家族の教育環境を考えてオランダへ拠点を移す。日本企業のみならず、オランダ企業のクリエイティブディレクションや、日欧横断プロジェクト、Web制作やサービスデザイン業務など多数担当。保育士資格も有する。海外子育てを綴ったブログ「おとよん」は、子育てパパママのみならず学生にも大人気。
http://otoyon.com/

多くのコンサル会社が実現できなかった「サステイナブル化プロジェクト」を成功させた方法

新聞離れ、雑誌離れが言われる現在でも多くの人が手にしている紙媒体のひとつが、結婚式の引き出物としてもらうことの多いカタログギフトでしょうか。自分の結婚式でもゲストの方にプレゼントした覚えがありますが、ウェブで見るよりもカタログのページを一枚一枚めくる方が楽しい感じしませんか? 雑誌なんかも、多少そういう楽しさを感じるかもしれませんが。

ところで、あの手のカタログ、皆さんのお手元に届くまでには、実はウェブ版よりもかなりの環境負荷をかけているのはご存知でしょうか。「え?あんなものが?」と思うかもしれませんが、大企業のカタログになると出版量がとんでもないことになります。紙という資源を使って、印刷して、製本して、搬送する。例えばこれが世界中に届けるものだとするとどうでしょう。今、グローバル企業にとっては、こうした問題は時に経費的な面だけではなく、環境対策的な面から、非常に大きな問題になっています。

例えば皆さんもご存知のIKEA。ヨーロッパの賃貸住宅は家具付きで貸し出される家が多いのですが、そうした家の備え付け家具としてもIKEAは大人気です。「あれ?このソファ、うちと一緒だわ」「この棚、IKEAでしょ?」なんてこともザラです。

そのIKEAのカタログ。70年以上の歴史を有し、全世界では2014年だけで2億1700万部が発行されています。例えば日本では一番発行部数が多いとされる雑誌(週刊文春)でも、4半期で50万部超え。年間だと250万部前後でしょうか。いかにIKEAのカタログの発行数が多いかということが分かると思います。

なので、このIKEAのカタログ発行に関して、少しでも環境配慮できればその影響は巨大なものになることが予想されます。

実は、オランダのサステイナブルコンサルティング会社とでもいうべきプロダクション「Except Integrated Sustainability」が、2014年に「IKEAのカタログ制作をサステイナブルにできるか?」という課題に取り組みました。結果は、初年度だけで28万5000バレルの石油使用がセーブされ、15万5000台の自動車走行によるCO2排出量と同じ量のCO2削減ができた、というのです。そして2019年にオンライン販売の売上が世界全体で45%増加したことなどを受け、2020年で印刷版・電子版両方のカタログ作成を終了すると発表しました。代わりに「ホームファニッシングのインスピレーションと知識にあふれたブック」を今年秋に発行する予定だそうです。

多くのコンサルティング会社が、IKEAが納得するような提案ができなかったために、その課題がExceptに回ってきたそうです。そこでまずExceptは、世界中の各拠点に散らばるIKEAのカタログ担当者が利用している制作会社、印刷会社の環境指標、エネルギー使用量などを全部データ化してもらい、それをプラットフォーム上にすべて集約しました。そして環境基準やエネルギー使用などに関してある一定水準をクリアした会社だけに、IKEAのカタログ制作を担当してもらうという仕組みを作ったのです。結果、次々と印刷会社や制作会社が環境基準を満たした会社に変わっていきました。

結果的にはサステイナブルなバリューチェーンを作ることにも成功した上に、初年度だけで上記のCO2排出量を削減、またカタログ制作の経費自体も大幅に削減できて、さらにIKEAのカタログはサステイナブルであるというレピュテーションまで獲得できたというのです。

しかも、このためにかかった費用はわずか5、6000万円ほど。2億冊を超える世界中のすべてのIKEAのカタログが、最もサステイナブルなカタログになったのです。IKEAはこうしたことも含めて、今やサステイナブル先進企業になっています。欧州では、こうした取り組みはダイレクトにビジネス成果に直結しますし、もちろん高い評価も得られます。経費も削減して、サステイナブルになって、評価も高まる。日本でも、こんなことをやりたい企業も多いのではないでしょうか?

次ページ:生産部門だけでなく、組織やビジネスモデルにも変革を促すメソッド「SiD」

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