CULTURE | 2022/03/26

間違ってるけど愛おしい「COFFEE&PIZA」の文字。いかりやレストラン デミタス(相模湖)【連載】印南敦史の「キになる食堂」(8)


印南敦史
作家、書評家
1962年東京生まれ。 広告代理店勤務時代に音楽ライターとなり、 音楽雑誌の編集長を経て...

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「懐かしの洋食」に思わず興奮

階段の壁は白い漆喰で、照明や額縁も歴史を感じさせる。おそらく、開店当初は感度の高い地元の人々で賑わっていたのだろうな。そんなことをイメージさせてくれる。

2階のドアを開けると、右側と正面の2面がガラス窓になっていて、外光がたっぷりと注ぎ込んでいる。左側に厨房があり、広い店内を囲むような形でボックスシートがずらりと並ぶ。中央には大きなテーブル席もあり、天井のレトロな照明もいい感じだ。

突き当たりの窓際の席に座ってメニューを眺める。ポークジンジャー、カレーライス、グラタン、ドリア、カツ丼、オムライス、ミートソース、ナポリタン、ピザ、サンドイッチなど、定番の洋食がこれでもかと並んでいる。

どれもおいしそうなので迷ったが、なかでもとくに強い引きを感じた「チーズハンバーグステーキ」を選んだ。お母さんらしき女性が注文を伝えて少しすると、厨房から「ジュー」とおいしそうな音が聞こえはじめる。

14時近い店内にはBGM代わりにテレビのニュース番組がかかっていて、その脇の席では3人の若い男性が話をしている。このあたりで働いている人にとって、ここは重要なランチスポットなのだろう。

窓の外に目をやると、さっき見た「相模湖 ようこそ SAGAMIKO」のアーチがすぐ目の前にある。なんとなくアトラクション感があってワクワクしてくるが、カップに入った味噌汁に続き、ジュージューと音を立てたチーズハンバーグのプレートが登場すると、そのワクワク感はさらに高まる。

丸い鉄板の中央にはチーズがとろけたハンバーグが鎮座し、デミグラスソースがたっぷりかかっている。向こう側にはもやしのソテー、コーンのソテー、そしてフライドポテト。どこから見ても正統的な「レストランのハンバーグ」だ。

ひき肉が詰まったハンバーグは肉汁たっぷりで、濃いめのデミグラスソースとの相性抜群。ライスがどんどん進んでしまう。食べながらふと、いつの間にか自分が軽い興奮状態にあったことに気づいたりもする。親に連れて行ってもらったレストランに心を奪われた、少年時代の記憶が蘇ってくるような感じなのだ。

お会計時にお聞きしたら、厨房を取り仕切る現在のオーナーは2代目。当然のことながら1階の商店も同じ経営で、つまりは長きにわたって相模湖駅前で商いを続けていらっしゃるわけだ。

今風ではないけれど、いや、今風ではないからこそ、心奪われるものがある店だ。また中央本線の小さな旅をする際には、この店のためにあえて途中下車してもいいなと感じた。


いかりやレストラン デミタス
住所:神奈川県相模原市緑区与瀬本町13
営業時間:9:45~20:00(L.O.19:00)
定休日:木曜日

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