LIFE STYLE | 2022/03/01

日本と全然違う?「どれだけ泣けたか」を競い合う小説紹介TikTokerのゆくえ【連載】幻想と創造の大国、アメリカ(29)

バーンズ・アンド・ノーブルの#BookTokコーナーはYAコーナーやペーパーバックを収めている2階にある。『A Litt...

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「若い読書家」は育っても「若いインフルエンサー」が活躍し続けられるとは限らない

1階の入口近くにあるのは、#BookTokではなく、Book Clubで人気の新刊ハードカバー。昨今の流行りではなく、何十年も本を読み続けているタイプの読者を対象にしている

TikTokにおける最大の問題は、インターネットが普及してからの私たちが加速度的に注意散漫になっていることだ。

今年1月に発売されたイギリスのジャーナリスト、ヨハン・ハリの『Stolen Focus』に「アメリカ合衆国ではティーンエイジャーがひとつのタスクに集中できるのはたったの64秒」と書いてあったが、これではYouTube動画ですら最後まで観ることも不可能だ。

どんどん注意散漫さが加速するソーシャルメディアの中でも、TikTokはさらに注意散漫なメディアである。出版業界は現在人気のインフルエンサーを利用して本の販売数を増やせればそれで良いが、現在人気のインフルエンサーたちが読書をしながら自分の地位を維持するのは難しいだろう。最初は好きでやっていたのに、いつしか「飽きられない」「忘れられない」ことが目的になってしまうのがよくあるパターンだから。

ゆえに、現在#BookTokで活躍しているボランティア戦士たちの将来を考えると、悲観的にならずにはいられない。

YouTubeで人気になったジャスティン・ビーバーなど、SNSで有名になって成功した人はいる。けれども、彼らはもともと優れた才能があり、SNSはマーケティングのツールとして機能しただけだ。

こうしたテーマについて考える時、パンデミックが始まる1年前のあるビジネスカンファレンスで、2組のソーシャルメディア・インフルエンサーに会ったことを思い出す。

一人はうっとりするようなリゾートライフの写真で人気のインスタグラマーだった。Instagramでのビキニの写真から想像するより痩せて見える若いブロンドの彼女は、「古いマーケティングなんかもう終わった。私のようなインフルエンサーにお金を払って商品を紹介するインフルエンサー・マーケティングをもっと積極的に企業に勧めるべきだ」と力説して去っていった。

もう一組は、ヨガのYouTube動画で有名になった30歳前後の長身で美しいカップルだ。彼らはこの人気をそのまま維持するのは不可能だと自覚していて、人気があるうちに継続可能なビジネスを作り上げようとしていた。その翌年から誰も予想していなかった新型コロナのパンデミックが始まり、リゾートライフを送っていた若い女性インスタグラマーはいつの間にかネットから姿を消したが、オンラインでのヨガレッスンのサブスクリプションを本格的に始めていたカップルは生き残った。

現在人気があるティーンのTikTokインフルエンサーたちの中には、親がマネジャーになってリアリティ番組を始めた者や、芸能界で仕事をするためにタレント・マネジメントの会社に登録した者がいる。だが、彼女たちがTikTokで人気になったのは、プロとして活躍できる才能を発揮したからではない。リゾートライフを売り物にしていたインスタグラマーと、現在TikTokで人気があるインフルエンサーたちは私には見分けがつかないほどよく似ている。若くて、スリムで、化粧が上手で、同年代の少女たちが「私もこうなりたい!」と夢見るようなタイプだ。

でも、彼女たちが20代後半になるころには、別の新しいSNSが誕生していて、もっと若いインフルエンサーがトップの座に君臨するだろう。彼女たちが周囲の大人によって消費される未来を想像して切なくなる。

終わりがない繰り返しのようだが、『Stolen Focus』にも書いてあるように、加速する注意散漫さには限界がある。限界に達した時、それまで注意散漫さを加速させ続けた人と、それに抗って深い思考をする訓練をした人の間に大きな差が生まれるとも考えられる。

最近、私が周囲の人と語り合っているのが「振り子の揺れが逆に向かう」可能性だ。

アメリカでは1950年代から60年代にかけて加工食品のブームが到来した。母乳よりも粉ミルク、伝統的な料理よりもテレビでコマーシャルをしている最新の加工食品を使う方が良いという考え方が広まったのがこの時代だ。けれども、それらの加工食品で育った次の世代が歓迎したのは「スローフード」など、地元産の新鮮な食品を使って料理をする価値観だ。

このように、情報過多と注意散漫がいったん限界に達したら、次にやってくるのは「ゆっくりと時間をかけて考える」ことと「リアルで会って、じっくり語り合う」ブームではないかと思うのだ。

予測というよりもは、希望的観測にすぎないが。

インスタントフード時代からスローフード時代への変革がやってくるかもしれない。


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