CULTURE | 2022/02/10

政府の「農家削減案」に反発する大規模デモが発生。実は重要な「農業の温暖化対策」とリジェネラティブ・アグリ【連載】オランダ発スロージャーナリズム(41)

Photo by Shutterstock
リジェネラティブ。思わず舌を噛んでしまいそうな、この言葉。おそらく日本では...

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リジェネラティブ・アグリとは何か

リジェネラティブ・アグリを実践している農家の販売所。少量多品種で、森と一緒運営しているところがポイント

今後、オランダの酪農や農業の縮小が上手くいくのかは分かりませんが、政府の窒素排出量削減の方針は、2019年末に発表されたEUのグリーン・ディールの大方針「サステイナブルを欧州の成長戦略とする」に適ったものではあります。やり方の是非は別として。

一見、長閑な風景が広がり、自然の豊かさを実感できるようにも思われる大農地。これらはやはり減らしていかなければならないのでしょうか。

そこで注目を浴びているのが、リジェネラティブ・アグリです。この環境再生型農業、一言で言うと、農業を通じて土地を自然状態に還す、農業のスタイルをできるだけ工業化以前に近い形で行うような農業方法です。大規模な単一作物の栽培はやめる、化学肥料や農薬は使用しない、土を耕したりしない不耕起栽培、1つの作物だけを育てるのではなく複合農業を行い、果樹、時に家畜なども一緒に栽培、飼育するなどといったことを行います。

もう少し専門的に言うと、土壌の有機物を増やすことでCO2を貯留できるので、気候変動を抑制する効果があると考えられている農法です。細かい手法の違いは色々あるようですが、化学肥料ではなく有機肥料を使用し堆肥を活用するなど、基本的には近代化以前からある農業技術がベースとなっています。

言葉だけでは説明しにくいところもあるので、興味のある方は2020年に公開されNetflixでも観られるドキュメンタリー『キス・ザ・グラウンド: 大地が救う地球の未来』を観ていただけると非常にわかりやすいかと思います。また、さらに短いバージョンとしては同作品にも出演しているジンバブエの生態学者で畜産農家のアラン・セイボリーによるTEDトークもオススメです。

先に紹介したEUグリーン・ディールでは、農業や食が重点産業として考えられており、ファーム・トゥ・フォークという政策が掲げられています。そこでは、2030年までに、欧州の農地の1/4をオーガニックに転換するという目標が掲げられています。現状、オーストリアやスウェーデンといった国では農地のオーガニック化はかなり進んでおり、欧州全体でどこまでこの目標値に迫っていけるのか。各国が協調しなければならない状態です。

リジェネラティブ・アグリが具体的にどのような好影響を与えているのか、データで示すのはなかなか難しいのですが、民間企業や投資家による大規模な投資はすでに進行しています。

たとえばアメリカでフードテック、アグテック分野などに投資するベンチャーキャピタル、AgFunderが運営するニュースサイト『AFN』の2019年の記事(英語ですがGoogle翻訳でも大半は理解できます)によると、米国では約70の投資プロジェクト・475億ドル(約5兆4300億円)以上の運用がなされているそうです。日本でも有名な企業の例を挙げるとアウトドアブランドのパタゴニアが大々的に推進しています。

そしてAFNの記事で紹介されているレポート「Soil Wealth」の著者らは、今後30年間にリジェネラティブ・アグリに約7000億ドル(約80兆円)を投資すれば、10兆ドル(約1140兆円)が得られるだけでなく、170ギガトン近くのCO2排出量を軽減できると試算しています。なお、地球温暖化による気温上昇を1.5℃以下に抑えるためには年間100〜1000ギガトンのCO2を大気中から除去する必要があるのでなかなかのインパクトになるかと思います。

個人グループでリジェネラティブ・アグリを進める動きも

Hernborren (ヘレンボーレン)の公式サイトより

リジェネラティブ・アグリは大企業や投資家、あるいは規模の違いはあれど農家しか実行できないかといえば、そうではありません。こうした中、オランダでは面白い農業の取り組みが始まっています。それは、Hernborren (ヘレンボーレン)という会員制組織です。

まず、地域である一定数の人を集めます。「子どもが生まれたので生産者の顔が見える農作物が欲しい」「昔から、遠くから運ばれてくる食品は買うのを控えていた」「自分で食べる野菜は自分で作りたいと思っている」などなど、食や農に興味がある人が集まって、土地を調達します。ファンドや基金を利用したり、当事者たちが一部負担したり、自治体の補助金を使ったりして、農業ができる土地を用意します。

次は、そのグループで農家を雇います。その農家を中心に、どんな野菜を栽培するか、果樹を育てるか、家畜はどうするかなどなど、全て自分達で決めていきます。みんなで自分達の畑を運営する中で、ボランティアとして畑作業を手伝いにくる人もいます。場所や季節にもよりますが、おおよそ2週間に一度、収穫したり、収穫した野菜をグループの人が買いに行きます。年会費も払った上で、収穫の際にもお金を払って購入します。自分達で作った野菜をみんなで分け合っていくのです。普段、自分では買わないような野菜があったり、何の料理に使えば良いか分からない野菜が時に入っていたりもするようですが、そうしたことも含めて、自分たちの農場をコミュニティで支え合って作っていく、というスタイルです。もちろん、オーガニックで。

オランダから始まったこの仕組みが、少しずつ周辺にも広がってきており、今はドイツ、ベルギー各所にも広がり、およそ80箇所でオープンまたは計画が進んでいます。

この「農家さんを中心に自分たちの農場をみんなで作っていく」というスタイル。なかなか面白い取り組みですよね。ここで実践しているのがまさにリジェネラティブ・アグリ。日本では区画を細かく区切って個人単位に、細かく貸し出すスタイルが主流だと思いますが、こんなヘレンブーレンスタイルに挑戦しても面白いかもしれません。

ともあれ、古くて新しい農業のスタイルとして広がるリジェネラティブ・アグリ、今後の動向にもぜひ注目してみてください。


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