吉田和充(ヨシダ カズミツ)
ニューロマジック アムステルダム Co-funder&CEO/Creative Director
1997年博報堂入社。キャンペーン/CM制作本数400本。イベント、商品開発、企業の海外進出業務や店舗デザインなど入社以来一貫してクリエイティブ担当。ACCグランプリなど受賞歴多数。2016年退社後、家族の教育環境を考えてオランダへ拠点を移す。日本企業のみならず、オランダ企業のクリエイティブディレクションや、日欧横断プロジェクト、Web制作やサービスデザイン業務など多数担当。保育士資格も有する。海外子育てを綴ったブログ「おとよん」は、子育てパパママのみならず学生にも大人気。
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食べ物を選ぶ基準は時代と共に変わってきている
皆さんは、普段、あまり意識していないかもしれませんが、長期的な視点で考えてみると、食べ物が選ばれる基準は、時代によって変化しています。
近代に入り、中東やインド、中国からイタリア、スペインなどへも、今までなかった食材が次々と伝わり、それぞれの国やエリアで、独自の発達を遂げていきました。イタリアやフランス、そして英国などでは、海外から輸入した珍しい材料を使った料理が食卓を賑わせました。人類は一気に美食の時代への突入したのです。
そして19世紀末、世界人口が16億人に達し、世界経済の中心がヨーロッパからアメリカに移ると、「体に良いものを食べる」という基準が生まれました。栄養やカロリーといったことが、徐々に食事を選ぶ基準になっていったのです。現代の我々も、多かれ少なかれこの「体に良いものを選ぶ」という基準で食事を選んでいる人が多いのではないでしょうか。
現代まで続く長い間、この「体に良いもの」という、私たちの「食を選ぶ基準」だったものが実はヨーロッパを筆頭に、今、少し変わりつつあるのです。
それは「地球や環境に良いもの」という基準です。ヨーロッパの、特に若い世代は「地球環境に良いもの」ということを食べ物を選ぶ基準にし始めています。
新基準で変わる食と農業
3Dプリンタを用いた代替肉を開発する、イスラエルのRedefine Meat。近々、ヨーロッパ拠点をオランダに置くことを発表しました
その新基準が生まれたことで、例えば農業のやり方が変わってきました。単一作物大量生産による土壌劣化を防ぐために、リジェネラティブ農業(環境再生型農業)といったできるだけ自然環境に近い状態に戻し、土地そのものを再生するような手法が注目されていたり、バーティカルアグリ(垂直農法)といった、ビル内、屋上など自然の土壌を使わない方法なども盛んになったりしています。
そして、現在最も地球に負担をかけていると言われるのが家畜の飼育です。私たちは肉や卵、チーズ、牛乳なんかを健康のためにも口にしますが、それらを生産するための家畜の飼育は、水や土地など地球環境に大きな負担をかけています。
ただ、リジェネレラティブ農業的な考え方では、必ずしも家畜は地球環境にとって悪ではない、ということも言われています。問題はその飼育の方法であるということで、家畜の育て方によっては、むしろ地球にとっても良い、という見方もされています。
その家畜=肉を食べないことで「地球環境に良い」という、新しい基準に沿うようにしているのがヴィーガンやベジタリアン。そこまで抜本的に食生活を変更せずとも、週に1日は肉を食べないといった比較的ゆるい取り決めを行う「フレキシタリアン」と呼ばれるスタイル、特定品目にこだわるのではなく、より地球環境に優しい生産方法でつくられたものを食べる「クライマタリアン」というスタイルもあり、ヨーロッパの若者の間では完全に主流になっています。
こうした食事スタイルを具体的にどれほどの人が実践しているかはなかなか統計が取りにいくいので、あくまでも自分の印象ですが、デザイン、アート、クリエイティブ関係のオランダの20、30代では、約8割がこうしたスタイル。40、50代でもかなり増えている印象です。
ジャック・アタリの書いた『食の歴史』(プレジデント社)の中には、ヴィーガンの人の割合は、「イギリスが10%、イタリア、ドイツが9%」と書かれています。また「2003年から2015年にかけて肉類の消費量を15%減らした」「植物食学会(PBFA)の 調査によると、2017年にヴィーガン食(卵、牛乳、蜂蜜も含め、動物性素材を一切使わない食事) のアメリカ市場は、前年比20 %増の33億ドルに達したという。またヴィーガン協会によると、2017年に肉類を使わない食品に対する需要は987%増加したという」などの記述があります。
これは前述の個人的な印象からすると、かなり少ないようにも思えますが、ここで記述されるくらいには、存在感がある、という意味では少なくとも日本の状況とはだいぶ違うのでは?という気はします。
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