「聞き流し」だけでは身につかない感覚
ここまで学習の流れを説明してきたが、もう少し個人的な感想をお伝えしたい。
まず、筆者の心配は「継続」できるかどうかという点にあった。とまあ、これは筆者だけでなく世の中のほとんどの人に当てはまる悩みだろう。しかし、シャドテンは継続のハードルを下げるための工夫がいくつかなされていると感じた。
一つは、アプリのみで完結する点だ。シンプルな理由だが、これこそが日々の学習の始めやすさに直結していた。スマホのホーム画面の1ページ目にアプリを配置しておけば、多少面倒くさくてもだらだらとスマホをいじっている間にとりあえずアプリだけ起動し、そのまま学習をスタートできる。勉強のために体勢を変える必要がないのは、正直思っていたよりもずっと楽だった。
また、LINEを通じたサポートの効果も非常に大きかった。例えば週の頭に今週の提出目標回数を聞いてもらえたりするのだが、なんとなくでも答えておくと「自分で宣言したしな……」と思い、モチベーションを保つことができた。誰かに見てもらえている、という状況はやはり非常に強い。
ちなみに筆者はオーバーラッピング、シャドーイングを行う際はBluetoothの完全ワイヤレスイヤホンをつけて取り組んだ。スマホのスピーカーから直接流しても問題ないが、自分の声とかぶってしまい肝心の音声が聞き取りづらくなってしまったためだ(片耳イヤホンもオススメだと言う)。スマホを手放した状態で部屋中あちこち動き回ったり、寝っ転がったりできるのも学習のハードルを下げるのに一役買ってくれていたと思う。
筆者の使用していたTechnicsのBluetoothイヤホン。カナル型なので音声と自分の声が混ざらず良かった。
正直同じ音声を数十回繰り返し聴き取り、発話する行為は決して楽ではない。途中頭と舌がこんがらがってくることも何度となくあったが、同時に細かい音の変化に対する解像度が1段階上がった感覚も確かにあった。スポーツや楽器練習のように、集中力を切らさず、執拗に繰り返すことでようやく身につく身体感覚に近いと感じた。これがまさに前編で新井氏が話していた「トレーニングである」という意味合いなのだろうか。確かに、英語学習はスポーツと同じなのかもしれない。ともすると、一時期流行した「聞き流すだけの学習」でこれが身につくとは到底思えないのは筆者だけだろうか。
もちろん、シャドテンだけでリスニング力、ひいては英語力が向上するわけではない。 言うまでもなく知らない単語は聴き取れないし、熟語や文法の暗記も必須だ。しかし、こと「音声知覚」を鍛えるために、これ以上の方法はないかもしれない、とさえ思った。学習量はあるけど、なかなかリスニング力が上達しないと悩んでいる人、「音声知覚」という言葉を意識したことのない人は、一度試してみる価値はあるだろう。