CULTURE | 2021/12/01

BTS“日本進撃”を支えたプロデューサー、齋藤英介が語る「K-POP世界ヒットの裏側」【連載】アジアのエンタメを世界に広げる方法(1)

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グラミー賞にも2年連続でノミネートされ、もはや世界中のメディアで毎日のよう...

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ファンと共に育ち、初見の人にも最大のインパクトを与えるプロモ術

日本のメディア展開については、大抵は韓流雑誌を中心に組んでいくものですが、BTSは一切そうしませんでした。デビュー当時は『CanCan』『Olive』で1ページ取り上げてもらう、読売新聞で「K-POPのニューウェーブ登場」と書いてもらったり、ニッポン放送の深夜帯にかけてもらったりなどしました。韓国タレントがあまり出ないようなところに露出することで「彼らは一体なんだ!?」という衝撃を受け取ってもらうという狙いです。

唯一、他社よりも強力に組んでいたのはLINE運営の韓流エンタメを専門とするウェブメディア「Kstyle」です。ここは圧倒的に中高生から支持を受けているということで、KstyleにBTSの情報を最速で流す、唯一楽屋取材ができる、というかたちでプッシュしてもらいました。

2014年夏には早くもヨーロッパと南米でファンミーティングツアー(BTS 1st Fan Meeting in Europe & South America)を実施し、10月からは台湾、フィリピンなども含む7都市・10公演のワールドツアー(2014 BTS Live Trilogy-Episode II : The Red Bullet FIRST HALF)を行っています。このワールドツアーの日本公演は東京(国際フォーラム ホールA)と神戸(こくさいホール)で行われました。

そして日本各地を回る最初のツアーは2015年2月からの「WAKE UP : OPEN YOUR EYES」で、ここで初めて名古屋公演(Zepp Nagoya)と福岡公演(Zepp Fukuoka)を行いました。東京公演(幕張メッセ 幕張イベントホール)と大阪公演(フェスティバルホール)はホールクラスなんですが、そこで使うステージセットをライブハウス公演の名古屋・福岡にもほとんどそのまま持って行っていました。各会場ではそれぞれ地元メディアの人間を招待しているので「このすごいステージは何だ!」と皆驚くわけです。

これをやってしまうとツアー単体では赤字になってしまうのですが、グッズは売れるしファンクラブ会員も増えるということで総合的に見ると黒字が積み上がる。そこまで計算してやっていました。

そして2015年6月には日本デビュー1周年記念のフリーミニライブを、お台場ガンダムのあるダイバーシティ東京プラザのフェスティバル広場で実施し、その模様を『めざましテレビ』で放映してもらいました。これが初めての国内テレビ出演です。ファンクラブなどを通じて会場は念入りに告知していたこともあって、会場には約1万人が集まった。

ここまでも紹介してきた通り、口コミベースでファンを着実に獲得しつつ、それまで知らなかった人も見かける機会では最大のインパクトを与えていく。それがプロモーション効果を高めることにつながります。プロモーションも闇雲にやれば良いというわけではなくて、きちんと目的や効果を見据えることが重要です。

パン・シヒョクとの約束「世界を狙って何十億、100億円単位のビジネスに育てる」

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日本では2015年6月リリースの4thシングル「FOR YOU」でオリコン1位を獲得でき、韓国では音楽番組内でCD売上やストリーミング再生回数、ファン投票数などでアーティストを順位付けする文化があるのですが、ここでも同じ曲(韓国ではミニアルバム『花様年華 pt.1』に収録)で1位を獲ることができた。当時のツアー「2015 BTS LIVE 花様年華 ON STAGE」は、韓国公演のキャパシティは4000〜5000人ほどだったものの、日本では横浜アリーナで開催できるようになっていました。それでもツアー初日は必ず韓国で開催する。前述の通り「韓国優先」のプロモーションを守り続けていました。

ここでビジネス規模のお話をすると、今まで誰にも言っていませんでしたが、僕はパン・シヒョクと契約する時に1つだけ約束したことがありました。それは「BTSは世界を狙う。だから1億、2億円で満足するのではなく、何十億、100億円単位のビジネスに育ててほしい」ということです。

僕は「今、日本でも勢いのあるK-POPボーイバンドがそこに上り詰めるためにかかった期間の半分でやり遂げるよ」と答えました。これは100%とは言えなかったとしても、90%ぐらいは有言実行できたんじゃないかと思っています。

2015年頃のファンクラブ会員数は僕の記憶によれば約3万人、この年のツアー「2015 BTS LIVE 花様年華 ON STAGE」の動員数は約4万2500人です。これを僕が関わっていた2018年ごろまでには、ツアーで30万人動員するぐらいにまで成長させることができました。

「韓国優先」と言っても、もちろん日本のファンをないがしろにするわけではありません。各会場向けのMCで何を話せば喜んでくれるのか。例えば大阪だと「お好み焼きの話と、たこ焼きの話とどっちをすればいい?」とメンバーが僕らにどんどん聞いてくる。横浜アリーナ公演の時は僕からも1つお願いをしていて、「僕らは小さなライブハウスからデビューして、ファンの皆さんと共に成長しながらやっとこの舞台に立てた」という趣旨の話を日本語でしてほしいということでした。実際、そうしたストーリーをデビュー前から綿密に考えてきたということもあります。

皆で横浜アリーナ公演の下見に行った際、BTSプロジェクトに初期から携わっているユン・ソクジュン(現グローバルCEO)からこんな話をされました。

「世界進出をしていくにあたって、南米を重視していきたいと思ってるんだけど、どう思う?」

当時の僕はなぜ南米が重要なのか理解ができなかったんですが、2014年の最初のファンミーティングツアー(BTS 1st Fan Meeting in Europe & South America)でも既にブラジルで開催しているし、15年のツアー(BTS Live Trilogy-Episode II : The Red Bullet SECOND HALF)ではメキシコやチリにも行っているんです。

BTSに限らず、実は南米では2010年代からK-POPの人気が高まっています。アメリカでもアジア系だけでなくヒスパニックのファンも大勢いる。「韓国だけでなく日本でのヒットもあったからそれができた」という面もあるでしょうが、それでも僕が考えていたのは日本国内での展開だけですし、最初からちゃんと戦略を立てて成功させていったBig Hitは本当にすごいと思っています。


第2回「BTS世界進出を果たした韓国レコード会社奮闘の歴史、そして日本との「最大の違い」」はこちら

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