EVENT | 2021/11/06

政治家も一般人も引っかかる「謝ったら死ぬ病」のワナ。人はなぜこうも謝れないのか?【連載】中川淳一郎の令和ネット漂流記(29)

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中川淳一郎
ウェブ編集者、PRプランナー
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中川淳一郎

ウェブ編集者、PRプランナー

1997年に博報堂に入社し、CC局(コーポレートコミュニケーション局=現PR戦略局)に配属され企業のPR業務を担当。2001年に退社した後、無職、フリーライターや『TV Bros.』のフリー編集者、企業のPR業務下請け業などを経てウェブ編集者に。『NEWSポストセブン』などをはじめ、さまざまなネットニュースサイトの編集に携わる。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』(光文社新書)、『ネットのバカ』(新潮新書)など。

政治家も一般人も多数かかる「謝ったら死ぬ病」

「謝ったら死ぬ病」はネットスラングの一つだが、評論家の東浩紀氏がBLOGOSのインタビューに答えた「日本には「訂正する力」が必要だ 哲学者・東浩紀が語る 言論のゆくえ」(10月25日掲載)はこの言葉に関する言及がある。

同氏は「謝れない病」(ほぼ同じ意味)について言及し、「日本人は一度言ったことを訂正できないし、謝れない。これが問題だと思っています」と述べたうえで、インタビュアーの「訂正すると訂正したことが攻撃されるというのもあるのかもしれません」という指摘に対してこう答えた。

東:本当にそうなのかなとも思います。一度でも過去の過ちを認めたら永遠に攻撃されるとみんな思っているのは、結局は謝罪や訂正の仕方が悪いからなのであって、訂正したからといってすべてが攻撃されるわけじゃないはずです。

攻撃への対応はコストです。だから訂正をするのはたしかにコストがかかるし、混乱も呼ぶ。でもそれをやらないほうが長期的には組織を腐らせ、結果的により多くのコストがかかるかもしれない。日本は外交を含め全体的にそういう罠に陥っている気がします。方針転換できずに自滅する組織が多い中、いまの日本には「訂正する力」が必要です。

「謝ったら死ぬ病」はもともと、不祥事を認めようとしない政治家や企業トップなど有名人への揶揄として使われてきたが、SNS普及後は一般人でも多くの人がかかっていることが判明した。意味としては、「謝ったら死んでしまうとでも思っているのか、完全に謝るべき状況であっても頑なに屁理屈を重ね、謝ることを拒否する」といったところだ。最近では、衆院選の期間中、立憲民主党の江田憲司代表代行がテレビ番組に出演した際、金融所得関連の税率を30%にすべきだと発言し、その対象はNISA(少額投資非課税制度)にも及ぶ、として炎上した後の言動がそうだと言えるだろう。

本来NISAは低中所得者の虎の子の資産を金額の上限を設定したうえで投資し、その範囲内であれば非課税となる、庶民に恩恵のある制度である。江田氏はもしかしてこの原理を知らなかったのか? 批判が発生した後、フェイスブックで釈明。あくまでも株取引の多い年収1億円超の富裕層への譲渡所得税が国際標準の30%以下の「20%」であることを念頭に置いたと指摘した上で、こう説明した。

したがって、NISA(少額投資非課税制度)については今、一定額までの投資について非課税措置がとられていますが、それに課税しようという趣旨ではまったくなく、むしろ、上記の我が党の政策が正式な見解であることを、あらためて申し上げたいと思います。

いずれにせよ、私の聞き間違いによる誤った発言によって、皆様にご心配、ご迷惑をおかけしたことを深くお詫び申し上げます。

https://www.facebook.com/edakenji/posts/4465349050212514

江田氏は「金持ちからはもっと取るべきで、庶民からたくさん取ろうとは思っていない」と釈明したわけだ。そして、ここで述べた「聞き間違え」は、立憲民主党が「若者世代にとって深刻な老後の不安の解消のための選択肢として、NISA、つみたてNISA等を拡充します。」と「政策集」に明記していることを聞き間違えたということだ。そして「心配と迷惑をかけたこと」を謝罪した。論点はそこではない。「低・中所得者の地道な投資にさえ30%の課税をする」という暴言に対して謝罪をすべきなのである。

江田氏の釈明を受け、枝野幸男代表はこうツイートした。

一部幹部の発言が誤解を招いていますが、立憲民主党は、将来不安解消の観点から、NISAやつみたてNISAについて、制度拡充を訴えています。課税強化は考えておりません。

https://twitter.com/edanoyukio0531/status/1453900019837272068

この「誤解を招いた」ことをお詫びしたわけだが、江田氏は明確に「30%」とは言っているので視聴者や、その後関連ニュースに触れた人々は別に誤解をしたわけではない。枝野氏は「我が党の代表代行・江田憲司が党の方針を誤解し、テレビ番組で真逆の発言をしたことをお詫びします」と言うべきだったのだが、江田氏を守るためか「誤解を招いています」という発言をした。あと「一部幹部」ではなく江田氏は「代表代行」というNo.2であり、名前も具体的に出すべきである。

2人揃って「謝ったら死ぬ病」だったのだ。なぜ2人揃ってこうなってしまったのか、というのが、「謝ったら死ぬ病」の深刻さなのだ。これについて本稿では論じていくが、この件で私も実体験をしている。

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オーディエンスがいる手前、「論破」される姿は見せられない

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過去に、私が編集を担当していたNEWSポストセブンというWEBメディアで、「「なりすまし」にフィフィさんへの悪口書かれた男性の反論」という記事が掲載された。この記事は、在日コリアンの男性とタレントのフィフィがツイッターで諍いが発生したことに関するもの。掲載後、同サイトのアクセスランキングで1位になったが、その後28位に落ち、さらに圏外に落ちた。

この状況を見た三国志の武将・関羽のアイコンを使う人物がツイッターでこう書いた(今後同氏のことは「関羽」と書く)。この顛末についてはツイッターのまとめサイト・togetterに「中川淳一郎氏がNEWSポストセブンのランキング不正操作を疑われ、ネトウヨ関係から手を引くことを宣言。」として掲載されている。同氏は基本的には、在日コリアンの権利を大切にすべきと主張する立場であり、フィフィ氏に対しては批判的だ。

関羽による最初のツイートはこれだ。

〈この記事は明らかに多量のページビューを稼いだはずだけど、同時期の記事がいまだ人気ランキングに残る一方、この記事だけがはやばやと圏外に落とされた。〉

これに対し、私はこうツイッターで反論した。

〈「この記事だけがはやばやと圏外に落とされた」って書いたよな。オレらが不正にアクセスランキングをいじったと思ってるのか?そんなことするワケねぇだろ。言いがかりはやめろ。ランキングの原理、お前知ってるのか?〉

これで本来は「申し訳ありません。貴サイトのアクセスランキングの原理を知らないまま憶測に基づく発言をしてしまいました」と私に謝罪をすれば終わったのに関羽は一切自分の非を認めない。100回超にも及ぶやり取りを経たが、私がアクセスランキングの原理は知っているのに、関羽はこんな言い分を言い続ける。

〈昨日はフィフィさん記事が人気1位だったけど、編集部はあまり望んでいないらしく、いまはランキングからおそらく手動で28位まで落とされているw〉

〈なにか誤解されているような気がします。ランキング操作の疑いは合理的な推論に基づくものですが、それはただちに操作の事実があることを意味しません。そこに中川淳一郎さんとの争点があるわけですが、かれがお酒に酔っているようなので醒めるまで待ちたいということです。〉

〈オレはNEWSポストセブンの人気ランキングの選定基準には不審の念を抱いていて、説明を求められるならば、その疑いの根拠を合理的に説明できる。しかし、疑いが合理的であるかどうかと、疑いの事実があるかどうかは別問題。オレの疑いが真実を言いあてている可能性は100%ではない。確証がない。〉

あまりにウザいのでブロックしていたのだが、ここまで言われたので私は関羽へのブロックを解除。まさかの「事実かどうかは分からないが、私は正しい可能性があるため、その推論を述べることは問題ない」と主張したのだ。この呆れたツイートに対し、私はこうツイートした。

〈ブロック解除しました。で、ポストセブンがアクセスランキングを不正にコントロールしてる根拠を教えて下さい。私が運営の本丸なので、あなたが何を言おうが反論可能ですが「オレはNEWSポストセブンの人気ランキングの選定基準には不審の念を抱いていて」の説明お願いします〉

その後も関羽は自身が疑いを持つことは合理的であるとのらりくらりとかわし続ける。だから私はこうツイートした。

〈様々な推測、ありがとうございます。我々のランキングの原理は「過去12時間」です。古い記事が出てくるのは先ほど申した通り「とあるきっかけにより突然復活する」ということだけでしかありません。で、いくら推測を重ねても、もう仕方ないと思います。なぜならオレが運営なので〉

もう、これは「アクセスランキング改竄」を意図的にやっているわけではない、という結論だ。だが、関羽はまだ歯向かって来る。そして、こう来た。

〈オレと、中川淳一郎さんとの争点はただの1点しかなくて、それは、推測を外すことが謝罪に値する罪過であるかどうか、ただそれだけだね。〉

これにはこう答えた。

〈勝手に結論づけるんじゃねぇバカ。オレとお前の論点は「テキトーな憶測で媒体の評判を毀損したことに対して説明しろ、オラ」だけだ!〉

完全に「アクセスランキング改竄疑惑」については、運営である私が述べていることが正しいにもかかわらず、推論で関羽は「アクセスランキングを改竄しているというオレの推論は合理的である」と言い続けたのだ。事実は事実であり、「推論が正しい」よりも事実が上回るのである。

〈てめぇ、いい加減にしろ、このボケが。お前はなんで「ごめんなさい」と一言言うことができねぇんだよ。くそったれが。お前は自分のことを頭いいかと思ってるのかもしれんが、いい加減に、その思い込みを辞めやがれ。アクセスランキングに関しては完全にお前の負けだ。認めろ〉

その後も関羽は私に一切謝罪をせず、他の人から諫められ、ようやく最後に謝罪をした。5月8日に開始した騒動、終了したのは13日だったのだ。騒動発生の初日である5月8日段階で私に対して一言謝れば終わった話を、関羽は5日も引き延ばしたのだ。理由はすべて「謝ったら死ぬ病」である。

ネットの場合、オーディエンスがいるため引き下がれない面がある。特に、普段から「〇〇さんの論は鋭いです!」なんて絶賛キャーキャーコメントを浴びせられている人からすれば、自分が論破される姿や答えに窮する姿は見せたくない。そして謝る姿は最も見せたくないのである。

選挙期間中の江田氏と枝野氏も当然、NISA発言は失言であり、無知が招いたものであることは把握しているだろう。だが、大事な選挙期間中、支持者を失望させるのを避けるためには失言を認めるわけにはいかなかったのだ。

ただ、これまでの経験上、さっさと謝った方が評価は上がることが多い。お笑いコンビ・EXITの兼近大樹が過去の過ちを週刊文春に報じられた際はツイッターに長文を掲載。過ちを認めた上でお詫びをし、それでも前に進んでいくこと、過去の境遇について同情してほしくないこと、過去があるから今があると将来思えるようになりたいなどと述べた。さらには、文春の内容については事実ではない部分もあるとはいえ、購入して全文を読んでもらいたい、と述べた。相方のりんたろー。もお詫びはしたうえで、応援してくれる人がいる限り活動を続けていきたいと述べた。

この態度は「謝ったら死ぬ病」とは正反対で、「むしろ兼近を応援したくなった!」「過去に過ちを犯したことがない人間なんていない」といった形で高く評価された。そして現在、若手芸人ではEXITは屈指の人気を誇っている。りんたろー。は兼近へ日々感謝の気持ちを述べているが、そうしたコンビの支え合いも現在の高評価につながっているのだろう。

次ページ:新型コロナと「謝ったら死ぬ病」

新型コロナと「謝ったら死ぬ病」

さて、最後は現在進行中の「謝ったら死ぬ病」を見てみよう。新型コロナ騒動である。今の日本の「感染症の専門家」「メディア」「政治家」はもはや東氏が指摘する通り、訂正を過度に恐れている状態にあるのではないか。「人流と酒と若者が悪い」という設定が専門家の間では確固たるものとなったが、「第5波」の急激な減少はこの3要素では説明がつかない。専門家はそこを突っ込まれても「マスクをピタッとした」などと逃げるだけ。

初期の頃、思い出すのは加藤勝信厚労相(当時)が、2020年2月17日に「37.5度以上の熱が4日続いた場合」にコロナの相談をするよう発表。すると、「4日」以前に重篤になったり、本当に苦しいのに相談に乗ってもらえない例も見られた。そのため5月12日に加藤氏は「目安ということがですね、何か相談とか受診の一つの基準のように、われわれから見れば誤解ですけれども」と言い放ったのだ。

自身で方針を示し、それに国民も保健所なども従ったのに、いざ問題が発生すると「誤解だ」と言った。いや、国なり厚労省のトップがこの場合にしても「当初は分からないこともあったのであのように伝えましたが、4日待たないでいいです。キツかったらすぐに保健所や病院へ相談してください」と、悲鳴が聞こえてきた3月にもう宣言していてよかったのだ。

ワクチンについてもそうだ。接種券に書かれているのは「新型コロナウイルス感染症の発症を予防します。本ワクチンの接種を受けた人は、受けていない人よりも、新型コロナウイルス感染症を発症した人が少ないということが分かっています」に加え、表組の中の「効果・効能」には「SARS-CoV-2による感染症の予防」と書かれている。

しかし、もともとワクチン接種開始が遅かった日本では政権批判派がその遅さを批判の材料にする。当初は最優先対象である「医療従事者・高齢者・ハイリスク層」が打ち終わったあと、陽性者の数が多かった20〜30代を次に優先する方針としていたが、少しずつ「50代が重症化する」という説が広がり始め、小池百合子・東京都知事が「50代問題」と言い出し、40・50代への接種を急ピッチで進める混乱もあった。

その間、ワクチンの効果については「発症予防」「重症化予防」だったのに接種券の注意書きに記載されていない「利他的に打つべき」「大切な誰かを守るために打つべき」に加え「感染予防効果がある」ということになった。

しかし、世界屈指の接種率を誇るイスラエルとシンガポールで、さらにはイギリスでも陽性者が激増すると「感染予防効果がある」論者は次第に元気をなくしていく。ツイッターでそのことを指摘されると「バリバリ最初からその主張なのですが…」と某医師は答えたが、これに対しては、続々と過去の発言のスクリーンショットが晒され、矛盾が突かれまくっている。

恐らく同氏も「謝ったら死ぬ病」なのだろう。「当初の見込みと違いました。ごめんなさい。当時の発言については撤回します」と言えばいいのに、「バリバリ最初からその主張なのですが…」と来た。今後、同氏の過去発言との矛盾は次々とスクショ保管され、同氏はますます謝れない状態に追い込まれていく。

私のように「謝るのなんてタダじゃん」と思う人間からすれば、なんで「謝ったら死ぬ病」にかかるのかよく分からない。結局プライドが高過ぎるのであろう。人生を楽にするのは、無駄なプライドを捨てることに尽きる。