環境・政治・人種問題…移住で家族に考えの振れ幅ができた
―― コロナでお子さんの変化はいかがでしたか?
松原:長男はコロナ禍で小学校がオンラインの授業になるし、最初の1年間は特に苦労したと思います。あとはBlack Lives Matterの活動を間近に見たのが大きかったでしょう。大統領選挙もありましたし。それは子どもたちに刺激になっていると思いますね。
ポートランドでママ友と会うと環境や政治やジェンダーギャップの話で「これどっちだと思う?」とか聞かれるわけですよ、公園で。子どもたちも小さなころから自分の意見を言うように教育されている。
―― 日本じゃあまり考えられないですね。特に日本にいたら人種差別の本質的な部分の肌感は分かりにくいかもしれないですよね。
松原:私も環境や人種差別や政治のことを学んだ2年間でした。振れ幅ができたのが良いなって、家族全員を見ていて思います。正解が何かは時代によって変わる。でも振れ幅として選択できる価値観や考え方は増えていく。
何も事件がなくても、移住には2年ぐらい「ゴールデンタイム」があると私は思っていて。移住に限らないかもしれませんが、大きな変化が起こったときって、自分の知覚、パーセプションがすごく開いた状態になると思うんです。そこで感知したものをどう自分の中に消化するか、落とし込むか。
もしかしたらコロナで全人類がそういう経験をしているのかもしれません。ここからゴールデンタイムが始まると思うんですよ。いろいろな革命が起きていくんだと。
―― DXも、奇しくも新型コロナウイルスによって一気に10年分ぐらい進みましたからね。
松原:みんながZoomを使う時代が来るとは思わなかったですからね。
―― 僕もコロナ禍でもオランダ、アメリカ、東南アジア、中国の深センとか、世界中の人と毎日のようにビデオチャットやClubhouseをやっているので、まったく距離も感じない。逆に東京にいた方が会話が少なかったかもしれない。新しいワクワクする10年が、2020年代に始まったなという気がすごくしています。
今後はバンブーロールを国内で生産したい
―― 今後やってみたいことはありますか?
松原:まずは「失われた1年半」を再構築したいですね。
1年半、私は自宅保育をしたんです。育児だけじゃなく暮らしの中で手放していたものを、全部自分の中に取り戻した1年半だったんですよ。日本にいた時は、保育園に行かせるとか、忙しい時は家事代行サービスを使うとか、全部アウトソースしていたわけです。今は食べたければ野菜を買わずに作るようになりました。
すべてのものを一回取り戻した後、それを全部また手放したら一緒。どう大事なものとそうじゃないものを切り分けて再構築していくのかが大事です。どう私がこの街の人と関わりを作っていくのか、まずはそこから模索している最中です。
―― まだアフターコロナと呼ぶには早い。
松原:そうですね。日常もまだ全然戻っては来ていない。ただ最近は徐々にまた手の中から手放す日々が来ているから、それによって自分の新しい時間が生まれるわけですよ。それをどう活用し、それをどういうふうに社会と結びつけるか。
気が付いてみると、移住の事業をやった時も、バンブーロールの事業を始めた時も、自分の暮らしのシフトチェンジを、事業につなげてきました。今から起こる変化をいかに事業に活かしていくかが、次のチャレンジかなと思っているんですよね。
―― バンブーロールの事業はこれからどんな展開を考えられていますか?
松原:バンブーロールは今、中国で生産しているんです。ただ今後はできれば国産に本格的にチャレンジする、日本のパートナーを探すフェーズに入りたいと思っています。
素材としての竹を気にかけるようになってから、日本の放置竹林の問題を知りました。竹が増えているのに産業につながらないから伐採も運搬もされない状況がある。多くの地域の生活者が困っているんです。放置竹林の竹からバンブーロールを作ることで、問題が少しでも変わるきっかけにしたい思いがあります。
ただそもそも竹のトイレットペーパーを使ったことがない人が多い中で、まずはマーケットに商品を置くところが私たちのスタートになりました。竹を繊維化して紙を作った実例は日本では多くない。。木でずっとつくられてきた。東南アジアや中国は竹をはじめ非木材の製紙に長い歴史があります。
でも国内での生産は諦めていません。いきなり同じクオリティのバンブーロールを作り出すのは難しい可能性がある。でもやる価値はあるし、ぜひやりたいと考えています。