カザフスタンの首都 ヌルスルタン Photo by Shutterstock
日本人にとって近くて遠い存在、中国への理解を深め、ビジネスのヒントを見つけだす当連載。第2回は「地下資源」を通じて中国と中央アジア諸国の関係を解説していく。
昨今、中国の電力不足やカーボンニュートラル、エネルギー価格、半導体、EV事業の話題が世間を賑わしているが、これらのカギを握るのが石油、天然ガス、石炭やレアメタルといった「地下資源」だ。
そんなたくさんの「お宝」が眠る中央アジアは、世界経済の覇権を争う中国にとって重要な隣国。中国は中央アジアのほとんどを「上海協力機構」という枠組みに入れており、ここで投資やインフラ整備など「一帯一路」について話し合っている。
一方で、いわば「土地ガチャ」の当たりを引いた中央アジア各国にとってはそれぞれの懐事情や中国との商売の仕方も異なっている。日本ではほとんど報道されないが、各国の動きは非常に面白い。順に見てみよう。
荒木大地
Shenzhen Fan Founder
深セン最大級の日本人情報サイト「深セン ファン」管理人。Webエンジニア兼ライター、また講師として中国・テック関係の情報を発信中。合計2,700を超えるメンバーを抱える中国各地の渡航情報共有グループチャットの管理も行っている。
Twitter : @daichiaraki
天然資源以外にも「線路の幅問題」で利益を得るカザフスタン
まず、周辺国の中で地理的にも中国との関わりが最も強いのはカザフスタン。主にカスピ海沿岸で産出される原油や豊富な鉱物資源があり、典型的な天然資源依存型の国である。
例えば、カザフスタン国営のウラン企業と中国の原子力企業が権益を所有しているウラン鉱山からは年間750トンものウランが生産されており、中国の原子力発電へと供給されている。
中央アジア・中東から中国に原油と天然ガスを引き入れるためのパイプラインや、年々運行本数が増加中の鉄道路線「中欧班列」(中国〜ヨーロッパ)、「中亜班列」(中国〜中央アジア)など一帯一路に欠かせない重要インフラはこのカザフスタンが入り口となっている。
特に鉄道路線はコロナ禍において空運と海運の停滞による代替手段としても利用が拡大。この輸送ルートを使うとわずか1〜3週間で中国内陸から東アジア、ヨーロッパ各国に輸送できる。中欧班列だけでも2021年上半期(1〜6月)の運行本数は7300本以上。実に1日あたり40本ほどが運行している計算となる。
実はこの鉄道路線の「規格」を巡る攻防も展開されている。中央アジアの線路幅(軌間)はロシア式の1520ミリである一方で、中国側は「標準軌」と呼ばれる1435ミリ。このため国際列車はカザフスタンの国境を通過するたびに乗客を降ろして全客車の台車を交換するといった大掛かりな作業を行っている。
今後新しい鉄道路線を敷設する計画は進行中であるものの、線路幅をどちらに合わせるかで合意が取れず難航しているケースが見受けられる。中央アジアのインフラ基盤はソ連時代に作られたものが多く、新しい線路幅を中国側に合わせてしまうと中国軍の動きを利することになるというロシア側の懸念が背景にある。
現在は車軸幅を自由に可変できる「フリーゲージ式車両」の開発が中国企業によって進められているが、カザフスタンとしてはこの台車交換作業で多額の手数料が手に入るため、このままの状態が続くことを願っているという。
中国製品を周辺国に転売するキルギス共和国
美しい自然に囲まれ、ソ連時代は政府高官たちが保養所としてたびたび訪れたキルギス共和国。同国の経済は半数以上が金などの鉱物資源に依存している。そして中国企業はキルギス国内の道路建設の見返りに金やウラン鉱山などの採掘権を手に入れている。
キルギスにはもう一つ、ものすごく重要な経済がある。それは、衣料品など中国製の消費財を周辺国に再輸出する「転売業」だ。ビシュケクの「ドルドイ・バザール」はカザフスタン・ロシア向け、そしてオシュの「カラスウ・バザール」ではウズベキスタン・タジキスタン向けの市場として栄えているが、これによる年間売り上げは五千億円にも上り、中央アジア経済にも大きく影響を及ぼしている。
ビシュケクのドルドイバザール Photo by Shutterstock
また、キルギス国内には「孔子学院」や「中国学術院」といった中国の教育施設がいくつもあり、就職に直結することから中国語学習者も多く見受けられる。
中国製品はキルギスのバザールを経由して中央アジアへ流れていく
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