CULTURE | 2021/09/30

世界中で2億冊以上発行される「IKEAのカタログ」の環境負荷改善・コスト削減を同時に達成した「スゴいメソッド」【連載】オランダ発スロージャーナリズム(37)

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生産部門だけでなく、組織やビジネスモデルにも変革を促すメソッド「SiD」

なぜ他のコンサル会社やプロダクションが出した提案は、ことごとく採用されなかったにもかかわらず、Exceptの提案は採用され、成功を収めることができたのか。彼らはこういうことを考えるためのメソッド「Symbiosis in Development」(通称「SiD」と呼んでいます)を持っているからです。日本語に訳すと「共生可能な成長戦略」という感じでしょうか。このメソッドは、他のサステイナブルメソッドと違い以下の6つの特徴があります。

1:ある一つのモノだけ、側面だけを対象とするのではなく、全体として包括的に、システムの一部として、あるいはシステムそのものとして、対象を捉えること
2:多くのプロジェクトに応用可能だということ
3:プロジェクトの変化に合わせて柔軟に対応できるということ
4:解決策の提示のみならず、それを実行して検証するところまで包括していること
5:多くのステークホルダーや専門家を巻き込み、共創できること
6:実現しやすい環境づくりができること

SiDはこの特徴を網羅しつつ、準備・情報収集・ソリューション創出・実行の4フェーズにおいて「具体的に何をしていけば良いのか」を示しています。

SiDを用いることで、サステイナビリティを単なるモノやエネルギーの問題としてではなく、社会・環境・経済・政治など、さまざまな側面から多角的に捉えることができるようになります。特に、近年はすべての物事が複雑に関わり合っており、一つの側面だけを見ていても、真にサステイナブルな社会を実現することはできないとされています。時に共栄が難しい複数の分野に同時に取り組んでいくことが欠かせないのです。そして、ここにこそSiDの効果が発揮できるというのです。

このメソッドを10年かけて作ったExcept創設者のトム・ボスハートは、「なぜSiDが必要か?」という質問に、以下のように答えています。「近年、世界中の組織がサステイイナブルな社会を実現するための努力を重ね、そのための方法も多く生まれてきました。 しかしこれらの多くは一面的な側面しか見ておらず、真のサステイナビリティを実現できてはいません。

 たとえば、生産部門の環境負荷の改善。それだけでは本来多面的な概念であるはずのサステイナビリティの、 環境効率というほんの一点しか解決しません。 本当にサステイナビリティを実現しようとすれば、さまざまな側面を同時に考慮し、包括的に取り組む必要があります。 そしてそのためには、事業を行う際のシステム全体(組織やそれを取り巻くネットワーク、ビジネスモデルなどすべて)を考える、 今までとは異なるアプローチが必要になるのです」と答えています。

先にご紹介したIKEAの例のように、世界では、すでにこの手法を用いた多くのプロジェクトが存在しています。おそらくいまだに全米一の予算規模(約22.6億ドル)で行われ、そして世界一大規模なルーフトップバルコニーとなった、サンフランシスコにあるバスターミナル「セールスフォース・トランジット・センター」の改修プロジェクト(命名権をセールスフォース社が購入していますが、市の公共施設です)などは、その代表例になっています。

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Exceptは再開発に初期から携わる中心メンバーとして、サステイナブル戦略を立案しています。本プロジェクトは「バスターミナルの機能を維持しつつ巨大な公園に生まれ変わらせよう」という考えのもと、新たに地下鉄の駅、ショッピングモールを作り、屋上を公園化しています。周辺のオフィスビルで働く人の健康指数をリサーチして公園化がもたらすであろう効能データを示したうえで、近隣企業の出資も取り付けました。

トムは「SiDを開発したのは、必要に迫られてのことでした。既存の『サステイナブル』なソリューションの多くが、単純にA地点からB地点へとダメージを転嫁することで結局は事態を悪化させている」とも言っています。善意で行ったサステイナブルなプロジェクトが、実は物事を悪化させているという事例は、数多くあります。

例えば、小売店レジでの使い捨てのビニール袋が有料になったことで、エコバックの利用率が上がった。一瞬、これは環境的には良いことのように見えますが、エコバックはどのように作られているのでしょうか?もしかすると、使い捨てのビニール袋よりも、環境に負荷を与えているかもしれません。そして、「エコバックを忘れてしまったために、新たなエコバックを買うことになった」という人も多いのではないでしょうか?結果として、家には使わないエコバックが溢れている。エコバックは使われたとしても、今まで使っていたビニール袋は結局、どのように処理されるのでしょうか?エコバックを何万回使用すると、使い捨てのビニール袋を使うよりも、「エコ」になるのか?などなどと新たな問題が出てきます。現に、イギリスではエコバックは環境悪化を促進した、というリサーチ結果が出ていたりします。

実は今回、筆者の経営しているニューロマジックアムステルダムでは、このトムのExceptと協働して、日本でのプロジェクトにも関わっているのですが、この度、SiDを日本語に翻訳して、しかも無料で公開することができました。これは今まで、日本には存在していなかった類のメソッドでもあります。

今は「SDGs関連で何かやらなければならないのだけど、何からやればいいのか分からない」という企業が多いのではないか?と思います。そんな企業や自治体の皆さま、あるいは個人でも興味がある方、サステイナブルを事業ドメインの真ん中にしたいスタートアップの方など、この機会に、ぜひお目通しいただければと思います。サステイナブルへのシフトは、全員で、かつ今すぐ行わなければならない、という想いから、無料公開させていただいております。以下の特設サイトからぜひダウンロードしてみてください。


過去の連載はこちら

サステイナブル戦略ガイド『SiD』入門編発行記念セミナー
「欧州事例でみる『ほんとう』のSX」開催のお知らせ

「サステイナブルは儲からない」 「SXどころじゃないし、やり方も分からない」
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サステイナビリティ先進国オランダでは、急ピッチでサステイナブル・トランスフォーメーション(SX)が進んでいます。 その背景には、サステイナブルではないビジネスは「売れなく」なってしまうというおサイフ事情も。

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※全プログラム通訳あり(質疑応答含む)

開催日:10月14日(木)
開催時間:19:00~21:00
参加費:無料

セミナープログラム
1. イントロダクション (Speaker:吉田和充)
2. サステイナブル戦略ガイドSiDとは? (Speaker:トム・バスチャート氏) 
3. 世界各国企業・自治体のSiDを利用したサステイナブルトランスフォーメーションの事例
4. Q&A

こんな方におすすめ
・会社・組織・地域のSXを考えている
・SXを進めているが、もっといい方法を知りたい・過去に上手くいかなかった
・負担なく継続できるSXの方法を知りたい
・サステイナビリティと利益を同時に追求したい
・海外市場に一歩先を行く日本企業であることをアピールしたい
・ビジネスにキャッチーな特色が欲しい
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