ITEM | 2023/08/16

なぜ私たちは『テレ東のグルメドラマ』に癒やされるのか?そして井之頭五郎から学ぶべき仕事の流儀

11回目を数える「高橋晋平のアイデア分解入門」。普段はおもちゃやゲーム、遊びを作り出す仕事をしてる私、高橋晋平が、身の回...

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11回目を数える「高橋晋平のアイデア分解入門」。普段はおもちゃやゲーム、遊びを作り出す仕事をしてる私、高橋晋平が、身の回りにある物から、アイデアや工夫、発想の種を見つけ出そうという連載です。

今回のテーマは「テレ東系列のグルメドラマ」です。これまでは身近なものから「どのようにアイデアを引き出すか」ということを考えてきましたが、今回はこれまでとは少し異なるアプローチで考えてみたいと思います。

高橋 晋平 (たかはし しんぺい)

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おもちゃクリエーター、アイデア発想ファシリテーター。秋田県生まれ。2004年に株式会社バンダイに入社。第1回 日本おもちゃ大賞を受賞し、発売初年度に国内外累計335万個を販売した「∞(むげん)プチプチ」など、イノベイティブトイの開発に約10年間携わる。14年に株式会社ウサギを設立。玩具・ゲームの考え方を活かした事業を企業と共同開発し、企画アイデアの発想セミナーやワークショップを全国で実施している。得意なのは笑い・遊びのある企画を作り、話題にし、販売につなげること。TEDxTokyoでのスピーチは累計200万回再生。近著『1日1アイデア』(KADOKAWA)など、著書多数。

構成:北村有

アイデアが出るのは「一度机から離れたとき」

テレ東系のグルメドラマ、気がつけばすっかり定番のコンテンツとして定着しましたね。有名どころだと、やはり『孤独のグルメ』でしょうか。僕もこの作品からグルメドラマに入りました。他にも『昼のセント酒』『絶メシロード』『ワカコ酒』『きのう何食べた?』など、主に漫画を原作としながら、それぞれ趣向を凝らした人気作品がたくさんあります。

まずこのグルメドラマを観ていて強く感じることがありました。それは「癒し」です。ストーリーに起伏やサプライズはそれほどありません。キャラクターたちはどんなときでも美味しそうにご飯を食べているだけ。ですが、やはり「食」は多くの人にとって圧倒的なコンテンツパワーを持っていることは疑いようがないことを、この「癒され」から感じざるを得ません。

でも食べものを映しているだけでは、ここまでの癒やしは得られなかったと思います。テレ東のグルメドラマの「癒し」は、「肯定」する姿勢によって支えられているのではないでしょうか。

たいてい、主人公は独身。あるいは妻と子が留守にしている隙に、自由に食べて楽しんで……という設定が多いです。仕事もそこそこに、この至福の瞬間のために生きている、そんなふうに描かれます。

つまり、自分にとっては、仕事を通じた自己実現や、社会を動かす大仕事よりも、「最高のシチュエーションで最高のメシを食べること」こそがその人にとってのかけがえのない瞬間であり、そして作品は「それでいいじゃん」と全面的に肯定するように描かれる。そのことに私たちは癒されているのではないか、と思います。

僕も、仕事終わりの夜に『孤独のグルメ』を見ていたら、とても癒されすっかりハマってしまいました。心底美味しそうにご飯を食べているのを見ているだけで、脳内に幸せ物質が出ているのを感じます。

この「脱力」の瞬間は、自分たちのような企画を考えなければならない仕事をする人間にとって、非常に重要なもの。時間をかけていろいろ考えて、考えきって頭がぐちゃぐちゃしたあとにリラックス状態に入ると、アイデアは思いつきやすくなりますよね。机に向かうの大切ですが、一度机から離れた、息抜きや遊びも同じぐらいアイデアにとっては重要なものです。

井之頭五郎に学ぶ仕事の流儀

さて、ここで僕の一番好きなグルメドラマ、『孤独のグルメ』の主人公・井之頭五郎にフォーカスしてみましょう。彼の独特な流儀からは、学べることはたくさんあります。

まず、五郎はお店を探すときに「検索」をしません。お店の看板や店頭に置いてあるツボなどの装飾品から、センスを感じ取ったときに入店します。それで、良いお店を引き当てています。彼は輸入商、目利きを売りにする身としては、良い品を見極める目をお店選びに活かしていることはごく自然ですし、それが仕事力にも通じていると思うんです。

僕はそんな五郎に感化されて、このお店選びの手法を真似していたことがあります。検索でお店を探すのはやめて、「今の自分は何を求めているんだろう?」って自問しながら、お店の佇まいだけで引き当ててやろう! と。今も常連で通い続けている大好きなレストランがあるんですが、そのお店はこのやり方で引き当てました。そのときの喜びたるや、検索では絶対にたどり着けない人生にとって大切なことだと感じました。

そして五郎は、実にクールに淡々と仕事をこなします。でも、ご飯を食べているときは「これこれ」と、非常に豊かな表情を見せてくれますよね。そんな五郎の姿に思わず惹かれてしまうわけですが、僕はこの「ポジティブな感情を素直に表す」姿勢はみんなが仕事に取り入れるべきだと思っています。

相手がやってくれた仕事や、納品してくれた成果物に対して「嬉しい」「ありがとう」とわかるように示すと、それだけで相手は嬉しくなる。これはもう極めて自然なことですよね。仕事って、もっと楽しくやっていけるはず。僕も、五郎がご飯を食べて嬉しそうにしているのを見習って、やたらとご機嫌に仕事するようにしています。

良い仕事は「良い息抜き」と「良い感情表現」から。テレ東のグルメドラマは、実はYouTube等でもちょくちょ配信されています。是非作品を観て、良い仕事に取り組んで貰えればと思います。


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