ITEM | 2023/08/02

「UNDERTALEの素晴らしすぎる音楽」から考える、コンテンツやサービスにおける差別化のコツ

画像内の「UNDERTALE」画像は公式ページより
ついに10回目となる「高橋晋平のアイデア分解入門」。普段はおもちゃ...

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画像内の「UNDERTALE」画像は公式ページより

ついに10回目となる「高橋晋平のアイデア分解入門」。普段はおもちゃやゲーム、遊びを作り出す仕事をしてる私、高橋晋平が、身の回りにある物から、アイデアや工夫、発想の種を見つけ出そうという連載です。

今回のテーマはゲーム「UNDERTALE(アンダーテイル)」。すでに定番ともなった言わずもがなの人気っぷりのインディーズRPGゲームですが、僕にとっても大きなヒントを与えてくれたゲームでした。シナリオの良さや、「敵を倒さなくても良い」斬新なシステムなど、好きな点はいくらでも語れるんですが、今回注目したいのはアンダーテイルの音楽! 楽曲を聴きたいがためにプレイしていた方も多いはず。それではこちらのBGMとともにに、どうぞ!

高橋 晋平 (たかはし しんぺい)

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おもちゃクリエーター、アイデア発想ファシリテーター。秋田県生まれ。2004年に株式会社バンダイに入社。第1回 日本おもちゃ大賞を受賞し、発売初年度に国内外累計335万個を販売した「∞(むげん)プチプチ」など、イノベイティブトイの開発に約10年間携わる。14年に株式会社ウサギを設立。玩具・ゲームの考え方を活かした事業を企業と共同開発し、企画アイデアの発想セミナーやワークショップを全国で実施している。得意なのは笑い・遊びのある企画を作り、話題にし、販売につなげること。TEDxTokyoでのスピーチは累計200万回再生。近著『1日1アイデア』(KADOKAWA)など、著書多数。

構成:北村有

自分の“得意”を他ジャンルに活かす

「アンダーテイル」は、その大部分をトビー・フォックスさんというクリエイターが一人で作り上げたインディーズゲームです(アートデザイン部分のみ、共同制作者のテミー・チャンさんが担当です)。ゲーム内の楽曲も彼が手がけており、人気も高い。僕も、作業中はずっと聞いていた時期があったくらい大好きです。

小さいころにハマってたゲームの曲って、めちゃくちゃ覚えてますよね。それこそ「ファイナルファンタジー」とか「ドラクエ」とか、あとは「スーパーマリオ」も。曲を聞いたらそれに紐づいた思い出がよみがえってきます。言うまでもなくゲームにとって曲の重要性って、かなりのものなのだと思います。

もちろんゲームにとって、メインはストーリーやキャラクター、戦闘といった要素なのかもしれません。でも、アンダーテイルをプレイしていると「メインディッシュは曲かも?」と思えてくる。ここにヒントがあります。つまり本筋とは直接的に関係のない、「半歩ずれた」場所にある要素に力を入れることは、そのまま差別化につながるということです。

たとえば、ゲームがメインじゃないものに付録としてついているゲームがめちゃくちゃ面白かったりすると、それだけで意外性、話題性が生まれたりもする。「サイゼリヤのキッズメニューの間違い探し」は良い例だと思います。8個目ぐらいまでは順調に見つかるんですが、9個目、そして最後の10個目ともなると、大人でも見つけるのは至難の業。その異常なほどの難しさで人気になり、書籍化までされましたね。もしあの間違い探しが3分で終わるような簡単なものだったら誰も話題にしなかったでしょうし、ただの「難しい間違い探し」は出版社の企画会議にも通らなそうです。

まだ見たことはありませんが、例えば家電製品の説明書が、小説やエッセイ風になっていて、それ自体がコンテンツとして超面白かったらどうでしょう。ついSNSでシェアしたくもなりますし、機能性とうまく両立していれば、購入してくれたユーザーと強固な信頼関係を結ぶきっかけにもなるかもしれません。最近は見かけませんが、ゲームの説明書ってもしかしたらこれに近いかもしれないですね。

トビー・フォックスさんはゲーム作りと音楽作りの両方で才能を発揮した稀有な人物でしたが、会社やチームでものづくりをする際にも、製品の本質から半歩ずれた領域に大きなリソースを投下してみる、というのは面白いものづくりにつながるきっかけになるかもしれません。

「音楽」の語源、実は逆だった!?

ここで余談。音楽で思い出したエピソードです。「音楽は”音を楽しむ”と書くじゃないか!」ってよく言われるセリフですが、実はあれって逆なんです。

そもそも「楽」という漢字は、木にどんぐりをつけた楽器の形が由来になっています。その楽器を演奏するのが楽しいから、それが「楽」の語源になっていると言われています。つまり音を奏でる行為から「楽しい」という概念が生まれているとも考えられるわけです。

考えてみれば「楽団」「楽譜」「楽典」「神楽」「猿楽」……「楽」がつく単語を調べてみると、音楽に関連のあるものばかりですね。

話を戻しましょう。先程、「半歩ずらした」発想についてお話しましたが、やっぱりその中でも音楽は特別な要素かもしれない、とも思います。「楽しい」という概念すらも生み出しているのですから。そして「アンダーテイル」って、音楽の素晴らしさによってここまで人を虜にしたんとも言えるように思うんです。もちろんRPGとしても新しかったですし、キャラクターの人気も非常に高い。分岐も巧妙だし、ラストのサンズ戦は人それぞれ色々な感情をいだく。紛うことなき名作だと思いますが、でもやっぱり、曲の魅力がなかったらここまでハマれたかな? と思います。

もし仮にアンダーテイルの楽曲が全て平凡なものだったら、と想像してみてください。魅力的だったキャラクターたちはどこか間の抜けた印象になってしまうかもしれませんし、独特の戦闘システムは途端にチープに見えるかも。ドット絵で表現されたあの美しい世界観すらも「どこかで見たことある」と感じてしまう可能性すら有ると思います。

検証したわけではないので、あくまで推測の粋は出ませんが「ドラクエ」や「FF」の楽曲が誰の耳にも残らないものだったら、ここまで歴史あるタイトルにならなかったとも思うんです。それだけ音楽の力は大きいものだと思います。

こんなふうに、ものづくりに対して曲・音楽の重要性に着目してみると、少し変わった発想が生まれるかもしれません。

僕がたまに妄想するのは、車を運転しているときに海に差し掛かったら、それをカーステレオが感知して夏にまつわる音楽のプレイリストを流してくれるとか、雨が降り始めたタイミングで雨にまつわる素敵な曲がかかるようなサービスです。位置情報やセンサーとSpotifyとかのプレイリストを同期させればいいから、技術的にはもう可能ですよね。「音楽を聴くためのサービス」ではなく、「思い出を彩るサービス」とか「日常生活を映画みたいな素敵な雰囲気にしてくれるサービス」、というような発想の転換をすることもできるでしょう。

サービス、ゲーム、プロダクト、イベントなどを作る方々、機能やコンテンツの充実もですが、実は音楽を見落としているかもしれません。是非音楽に注目してものづくりをしてみてください。きっと多くの人の記憶に残るものになるのではないでしょうか。


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