9回目となる「高橋晋平のアイデア分解入門」。普段はおもちゃやゲーム、遊びを作り出す仕事をしてる私、高橋晋平が、身の回りにある物から、アイデアや工夫、発想の種を見つけ出そうという連載です。
今回のテーマは「ぶんぶんチョッパー」です。容器に玉ねぎやにんじんなどの野菜を入れ、蓋をして紐を引っ張るだけであっという間にみじん切りができる、あの超すぐれもの。子どもでも安全にお手伝いしやすいこともあり、発売されるや否や話題になりましたよね。あれって、シンプルなようでいて、実は今後のものづくりにまつわるヒントが詰まってるんです。
K&A みじん切り器 ふたも洗える ぶんぶんチョッパー ホワイト
高橋 晋平 (たかはし しんぺい)
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おもちゃクリエーター、アイデア発想ファシリテーター。秋田県生まれ。2004年に株式会社バンダイに入社。第1回 日本おもちゃ大賞を受賞し、発売初年度に国内外累計335万個を販売した「∞(むげん)プチプチ」など、イノベイティブトイの開発に約10年間携わる。14年に株式会社ウサギを設立。玩具・ゲームの考え方を活かした事業を企業と共同開発し、企画アイデアの発想セミナーやワークショップを全国で実施している。得意なのは笑い・遊びのある企画を作り、話題にし、販売につなげること。TEDxTokyoでのスピーチは累計200万回再生。近著『1日1アイデア』(KADOKAWA)など、著書多数。
構成:北村有
ぶんぶんチョッパーの凄さは“作業の遊び化”
紐を引っ張るだけで、わずか8秒で野菜のみじん切りができる「ぶんぶんチョッパー」、皆さんは使ったことがありますか? 電源なしで安全にみじん切りができる、超絶にすごい発明だと思うんです。初めて使ったときの感動たるや! 僕、割と大学時代から料理をする人生なのですが「これまでのみじん切りに対する苦労はなんだったんだろう……」って思うほどでした。
要はあれって、ぶんぶん駒の要領です。子どものおもちゃの構造を、大人が使う調理器具に生かすっていう発想がまあすごい。 おもちゃの理屈で超便利グッズを開発した背景に、めちゃくちゃ興味がわいてしまいました。子どもからしたら「面白いからやりたい!お手伝いしたい!」って動機になるし、大人も楽しいじゃないですか。僕みたいにおもちゃを作ってきた人間からすれば、実用品をおもちゃ化して、子どもだけじゃなく大人まで「楽しい」って思えている状態って、すごいことなんですよ。
ぶんぶんチョッパーの凄さって、いわばこういう「作業を遊び化」したところにあるんだと思います。
他の例を挙げるとすると、まずは掃除に使う「コロコロ」ですね。カーペットの上などをコロコロさせて、汚れたら1枚剥がして、またコロコロする……。遊び心も感じるし、純粋に楽しいですよね。他にも卓上の消しゴムカスを掃除する機械も、とても気持ちいいなと思っています。我が家でも重宝してるんですが、紙コップを逆さにしたような形で、卓上をシュルシュル滑らせるとカスが消えていくんですよ。
これらの共通点を考えると、「利便性を追求した先にある遊び」的な気持ちよさが見えてきます。これまで「実用」と「遊び心」って、相反するものとして捉えてきましたけど、ぶんぶんチョッパーを見ていて「この二つに違いはない、一緒なのかもしれない」って思ったんです。遊びと利便性は両立する、というか本当の「利便性」を追求することで自然と「気持ちさ」「楽しさ」に到達していくのではないかと思うんです。
テクノロジーに頼らない“発想”がカギになる
ここでもう一つ視点を変えてみましょう。
おもちゃはさまざまなギミックが詰まっている、まさにアイデアの宝庫です。それらをヒントに実用品を開発すれば、子供も喜んで家事を手伝うようになるし、大人も楽しみながらストレスなく作業を遂行できるのではないかと思います。おもちゃって、今すでにある実用的なグッズを、さらに楽しいものにする手段なんじゃないかと思うようになりました。
たとえば、日ごろから「めんどうだな〜!」と思っている家事を思い浮かべてみてください。僕はアイロンがけです。アイロンって重いし、スチーム機能つきのものだと、水がぼたぼた溢れてくるし、当然熱いので扱いは慎重になるしで面倒くさいんですよね。
あとは網戸や窓掃除も本当に嫌いですね。 使った雑巾を洗いたくないからワイパーでやりますが、どうしても取りこぼしがあるし、しかも全身運動だからシンプルに疲れる。
それこそ、ぶんぶんチョッパーみたいに、軽く紐を引っ張ってアイロンがけ……はちょっとむずかしいかもしれませんが、モップがブンブンまわって、一瞬で窓が綺麗になる掃除用具なんかがあったらどうでしょう。「窓拭き、めっちゃ楽しい」ってなって、子どものお手伝いの定番になるかもしれないですよね。
そして一つ重要なポイント。今窓拭きを効率化していくためには「窓拭き・網戸掃除ロボットを作って自動化する方法」をつい考えてしまうような気がします。当然ロボットやAIへの期待は高まっているわけですが、でもそうじゃなくて、人が積極的に楽しんで行動できるような仕組みを作る方が実は「真に効率的」ではないでしょうか。
どうしてもイノベーションを起こすためには「テクノロジー」の視点から考えてしまいますが、そうなると莫大な費用や人の手が必要になる。でも、「発想」を起点にすれば違った方法でイノベーションを起こすことができる。「ぶんぶんチョッパー」だって「AIが内容物の形や大きさを検知して、メニューに合わせて食材を自動で理想的な状態にしてくれるフードプロセッサー」みたいなことだって考えられたわけです。でもそれですごく高額な製品になってしまったら、きっと流行らなかったですよね。
仕事・生活に関わらず効率化は常に考えるべき、または考えたくなるお題の一つだと思います。でもその効率化は本当に求めるべきものなのか一度立ち止まって考えてみても良いはずです。もしかしたら「作業を楽しくする」ことのほうが大切だったりするかもしれません。
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