EVENT | 2023/07/14

「日本経済にとって円安は良い」と言われてたのに今はなぜ「異常な円安」と問題視される?有名予備校講師がわかりやすく解説

Photo by Shutterstock
2022年から今年にかけて「値上げラッシュ」がたびたび話題になったが、同様...

SHARE

  • twitter
  • facebook
  • はてな
  • line

Photo by Shutterstock

2022年から今年にかけて「値上げラッシュ」がたびたび話題になったが、同様に22年秋から「異常な円安」も騒がれていた。実際にこの半年、米ドル/円の為替レートを見ると150円から120円台後半まで乱高下が続いている。

だが、そもそも「円安」はどのようなメカニズムで起こるのか。「円安の問題点」とは何か。あと円高気味の時はそれはそれで「輸出企業に悪影響が〜」などと言われていなかったか?

本稿ではそんな「今さら聞けない疑問」にお答えする。

※本記事は7月1日に出版された清水雅博『今さら聞くのは恥ずかしい 大人のための政治経済入門』(徳間書店)の内容を再構成して掲載しています。

こちらの記事もぜひお読みください↓↓↓
「不況を脱する仕組み」「インフレになる条件」って説明できる?有名予備校講師がゼロからわかりやすく解説

ロシア・ウクライナ戦争で生じる「日本の危機」とは何か。これまでの経緯と日本の安全保障問題をわかりやすく解説

undefined

undefined

undefined

清水雅博

予備校講師

東進ハイスクール・東進衛星予備校、駿台予備学校にて、「政治・経済」「倫理」「現代社会」「公共」を指導。年間1万人もの生徒が受講する超人気講師。政治と経済のメカニズムを明快に分析する論理的な指導にユーモアを含む授業は、受講生から圧倒的な支持を獲得。入試頻出ポイントや時事問題の本質を明確に示す情熱的な指導で生徒をグイグイ引き込み、難関大学への合格者はのべ30万人を超える。著書『政経ハンドブック』と『一問一答』は、政経受験者の80%が愛用しているといわれる大ベストセラー。ニュース時事能力検定(N検)の創設メンバーでもあり、検定委員を担当。YouTubeでは社会人・就活生・受験生に役立つ最新時事ニュースの解説動画や受験関連情報を発信。
YouTubeチャンネル「清水政経塾」
https://www.youtube.com/@ShimizuSeikeiJuku

極度な円安の進行でインフレが加速

2022年は、極度な円安が進行しました。輸入資源や輸入食料が急激に値上がりし、消費財全体のインフレが深刻化。2022年度の企業物価指数は前年度比で9.7%上昇し、比較可能な1981年度以降で過去最高を記録しました。消費者物価指数も、2022年度は前年度比で3.0%上昇と1981年以来の記録的なインフレに見舞われてしまいました。

企業物価指数は、原材料となる原油や天然ガスといった資源の価格が大きなウェイトを占めているので、戦争の影響で激しく上昇しましたが、消費者物価指数を構成する消費財やサービスの価格にはすぐ反映されづらいため遅れて上昇しました。電気料金、ガス料金の値上がりや輸送コストの値上がりなどで、消費者物価はじわじわと値上がっていきます。消費財の値上がりはボディブローのように経済の体力を奪っていきます。 

日本にとって不幸だったのは、ウクライナ侵攻の制裁としてロシアからの天然ガス輸入を西側先進諸国が制限した結果、天然ガスや原油など輸入資源の国際価格が上昇したところに、急激な円安が重なったことでした。その結果、為替面でも円支払いの輸入価格が上昇してしまいました。

我が国の資源は、ほとんどが輸入に依存しています。原油自給率は0.2〜0.3%、液化天然ガス(LNG)自給率も2.5%にすぎません。 食料自給率もカロリーベースで37%と低下傾向にあります。極度な円安が進行すると、輸入資源や輸入食料の値上がりを招き、国民生活を直撃してしまいます。

為替(円高・円安)レートはどうやって決まるのか

原則として日本の国際収支が黒字(日本にマネーが流入)すると、円高が進行します。逆に、日本の国際収支が赤字(日本からマネーが流出)すると、円安が進行します。このルールを覚えておけば、円高・円安の進行は予測できるでしょう。

さて、2022年になぜ極度な円安の進行が起こったのかを解明してみましょう。 

キーポイントは、日米金利格差の拡大にあります。 

2022年中には、以下のチャート図にある通り、アメリカの預金金利が高く、日本の預金金利が低い状況が生じたため、日本人が金利の高いドルで、預金するために円をドルに変換する動きが起こり、円安=ドル高が進行しました。

しかも、年間で1ドル=110円から150円と35%も円安が進行しましたから、日本人から見ると1ドルの米国商品が円建て(円支払い)で35%値上がりすることになりますよね。つまり、 1ドルのアメリカ産パンが110円から150円に値上がりしてしまう。さらに、ウクライナ侵攻の影響で起きた穀物値上がりでパンそれ自体も値上がりしていますから、より値上がりしてしまいます。

こうなってしまうと、日本の資源価格や食料品価格が値上がりするのは無理もないこと。特に輸入で賄っている電力、ガス料金が極端に値上がりするのは困ったものです。 

極度な円安の進行は、日本にとって輸出力を伸ばして景気を回復させるメリットがありますが、輸入品のインフレを加速させて国民生活を圧迫させてしまうデメリットももたらします。 

ですから、極度な円安状態を解消して、適度な円安状態に誘導するのが望ましいということになります。

円安は日本にとって本当はいいもの?

円安=ドル高は、日本にとっては輸出品のドル建て(ドル支払い)価格を低下させ、輸出を増加させるという良い側面を持ちます。特に日本を支える輸出企業にとっては、円安が進行すると輸出が増加し、収益も増加することになります。 

トヨタをはじめとした自動車産業や、家電・パソコンなどの電子機器を輸出する企業にとっては、円安で輸出が伸びれば収益が増加することになるでしょう。

円安は日本の輸出を有利にし、景気を回復させるという良い側面を持っていることがわかります。ですから、極度な円安を阻止し、適度な円安に誘導できれば、日本の輸出は増加し、景気の回復が期待できるのです。 

日本経済を立て直すために、政府・日銀が行う為替政策は極めて重要な鍵を握っています。 

日米金利格差の拡大を防ぎ、その差を縮小すれば、アメリカへの預金流出を防ぐことができ、極度な円安を防止できるという考え方が登場するのは無理もないところです。

デフレ・不況対策を徹底してゼロ金利にこだわりすぎると、日米金利格差を拡大させ、マネーを流出させ、国内通貨量が減って、不況を招く可能性もありますし、極度な円安を進行させ、資源の輸入インフレを激化させる恐れもあるのです。日米金利格差や日欧金利格差も考慮しながら、国内の金融政策を実施しないと大きな政策失敗を引き起こしかねないのです。


今さら聞くのは恥ずかしい 大人のための政治経済入門

こちらの記事もぜひお読みください↓↓↓
「不況を脱する仕組み」「インフレになる条件」って説明できる?有名予備校講師がゼロからわかりやすく解説

ロシア・ウクライナ戦争で生じる「日本の危機」とは何か。これまでの経緯と日本の安全保障問題をわかりやすく解説