EVENT | 2023/07/19

「三菱地所のレジデンスクラブ」の会員数やクリック率をアップさせた「3つの施策」

ウェブサイト、ECサイト、アプリなどの顧客体験を分析するサービスを提供するContentsquare(コンテンツスクエア...

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ウェブサイト、ECサイト、アプリなどの顧客体験を分析するサービスを提供するContentsquare(コンテンツスクエア)は、デジタル顧客体験(CX)の最適化に取り組む実践者たちが登壇するカンファレンス「CX Cicrle Tokyo 2022」を2022年11月に開催。「デジタル世界の接点において、どうすれば顧客に愛される素晴らしい体験を提供できるのか」をテーマに、業界の識者たちが講演やパネルディスカッションを行った。

今回はContentsquare Japanから記事提供をいただくかたちで、同カンファレンスの書き起こし記事を掲載する(全6回中の6回目)。

最後のセッションでは、「三菱地所が実践した住まいのプラットフォーム構築の軌跡」をテーマとして、三菱地所 住宅業務企画部 顧客リレーションユニットでユニットリーダーを務める、小菅光裕氏が登壇。同氏は三菱地所に入社後、空港コンセッションにおける高松空港の立ち上げなどを経験した後、2020年から住宅業務企画部に勤務している。住まいのプラットフォームを構築するまでのUX改善事例などについて、具体例を交えながら詳しく解説していただいた。

既存の住宅やリフォームには伸びしろがある

※上記資料の各種数値は三菱地所から提供を受け、2023年版に更新している

三菱地所の住宅事業には、主要な子会社に新築マンション販売を行う三菱地所レジデンス、注文住宅を扱う三菱地所ホーム、マンション管理のコミュニティ、仲介の三菱地所ハウスネットなどがあります。それぞれの業界には売上上位に複数社の競合があり、その中でトップを目指しています。

近年、日本の人口が減少しつつあり、住宅マーケットはその影響も受ける分野です。今後、人口減少の観点からいくと、残念ながら一口に明るいマーケットであるとはいえない環境下でいかに勝ち抜くかを模索しています。 

一方で、既存の住宅やリフォームは、今後伸びていく分野であると予測されます。そこで、三菱地所ではWebの力を借りてシェアを高めていきたいと考えています。

三菱地所のレジデンスクラブにおけるUX改善施策

三菱地所は、「三菱地所のレジデンスクラブ」という会員組織を有しています。簡単にいえば、マンションや戸建てのオーナー、入居者や仲介で取引した顧客などが入会できる組織です。これに検討客としてのレジデンスクラブ会員を加え、3つのセグメントの会員と接点を持っています。代表的な接点としては、Webサービスや会報、会員向けのイベント、優待割引サービスなどがあります。

レジデンスクラブの立ち上げは、2019年~2020年にかけて複数組織の会員のデータ統合を行うところから始まりました。このときにさまざまなエラーが出たため、バケツの穴をふさぐような感覚でエラーの解消を行いました。ABテストなども活用しながら、サイトの土台づくりを行ったのがこの時期です。

2020年~2021年にかけては、パーソナライズを意識し始めました。サイトの土台がおおかた完成して、会員の属性や趣味・関心、思考に合わせた最適化をちょうど模索していた時期でした。

併せて、2021年にはWebのVOC収集にも取り組んでいます。2022年現在は、三菱地所で共通するID・パスワードの「Machi Pass」に切り替えている最中です。

 累計の施策は500回を超えていて、UX改善施策にはかなりの工数をかけています。そこで、具体的なUX改善施策として、次の3つの事例についてご紹介します。

・ユーザーの声を活かした改善事例
・カスタマージャーニーを意識した改善事例
・会員情報の統合に向けた改善事例

UX改善事例①:ユーザーの声を活かした改善事例

最初に、ユーザーの声を活かした改善事例をご紹介します。三菱地所では、ユーザーアンケートを実施しています。このアンケートには1万件超の回答があり、推奨者がレジデンスクラブへの入会を勧める理由の第1位は「Webサイトが充実している」からとの結果が出ました。

この結果から、ユーザーが現状のWebサイトに満足していることは明らかになりました。しかし、「いつ」「どこで」「何が」満足・不満足なのかを知ることはできなかったため、新たにオンラインアンケートを実施して、顧客の声を収集するためのVOCツールを導入しています。

オンラインアンケートの結果、「キャンペーンアンケートに回答したのに送信できなかった」「アンケートをかなり記入したのに送信ボタンを押せなかった」などの不満が浮き彫りになりました。これらの課題を前提として、コンテンツスクエアのリプレイ動画へリンクさせ、原因の特定を始めたという経緯があります。

送信ボタンを押せない事象が具体的に何名のユーザーに出ているのかは不明だったため、定量化したところ、アンケートの送信を完了できなかった人が全体の5.6%いたことが判明しました。この結果を受けて根本原因を解決したところ、エラー率が85%改善し、UXの改善につながりました。

UX改善事例②:カスタマージャーニーを意識した改善事例

2つ目は、カスタマージャーニーを意識した改善事例です。三菱地所でも、各グループ会社への送客を意識しています。

例えば、レジデンスクラブの既存会員に対して、メインビジュアルを査定バナーに変更してみるという取り組みを行ったことがあります。すると、最初のクリック率は5.4%でした。 

そこで、今度は購入物件の名称をバナーに入れたところ、クリック率は5.4%から11.35%に跳ね上がり、大幅なUX改善につながりました。

この取り組みによって、グループ会社への遷移には成功しましたが、残念ながらコンバージョンに至るほどの成果は出ていないという新たな課題が発生します。

この課題には、コンテンツスクエアの分析機能を活用して、どの部分がボトルネックになっているのかを明らかにするための調査を行いました。

すると、そもそもフォームに触れていない人が4割、フォームに触れてから離脱する人が2割に上ることが判明したのです。さらに、項目に触れて離脱する人の約半数は個人情報の部分で離脱していました。すでに会員になっているのに、再度個人情報を入力するのが煩わしいというのが離脱率を高めている理由だったと考えられます。 

そこで、個人情報を入力する項目を削除すると、コンバージョン率は1.5倍にまで向上しました。

UX改善事例③:会員情報の統合に向けた改善事例

3つ目の事例は、会員情報の統合に向けた改善です。

三菱地所では、Machi Passという新たなサービスを打ち出しています。三菱地所のさまざまなサービスを横串でつなぐデジタル共通IDで、Machi Passに登録することで、今までは個別にログインしなければならなかったサービスに、同じID・パスワードを使ってログインできるようになりました。

2019年に最初に会員統合に取り組んだ際は、エラーが頻発し、バケツの穴をふさぐことから始めたという経緯がありました。当時は4つあった会員サイトを1つに統合する作業でしたが、移行方法がバラバラで、さらに会員登録の方法が異なり、複雑な状況にありました。

このような背景によって登録導線が複雑化し、クリックが分散するという問題が起きていたのです。そこで、ユーザーが迷うボタンは全てアコーディオンで初期非表示にすることにより、会員登録数を152.6%アップさせることに成功しています。

今回のMachi Passによるサイト統合でも、同様の問題が起きている可能性があり、4つのログイン画面が存在するためにクリックが分散していました。そこで画面を変更し、不要な導線を削除してシンプルにするテストを行ったところ、エラーを繰り返す人を大幅に減らすことができました。

今後は既存顧客へのサービスだけでなく、検討客や見込み客向けのサービス展開も

Webサイトの運用を行うにあたって、常にお客さまにとって快適で心地よいサイトであることを我々としても目指しています。しかし、結果としては、いつも前向きなことばかりではないのが実情です。

バグやエラーは、完全になくなることが理想ではありますが、実際には常に付きまとうものなので、継続的に向き合っていくことが大切だと思います。できるだけネガティブなことをなくしていく努力と、ポジティブなことを増やしていく努力の両方が、Webサイト運用には欠かせないのではないでしょうか。

三菱地所のレジデンスクラブは、現在、66万世帯の会員を抱えており、不動産業界では最も大規模な組織に成長しています。今後は既存顧客へのサービスだけでなく、検討客や見込み客へのサービスも充実させたいと考えています。


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