ウェブサイト、ECサイト、アプリなどの顧客体験を分析するサービスを提供するContentsquare(コンテンツスクエア)は、デジタル顧客体験(CX)の最適化に取り組む実践者たちが登壇するカンファレンス「CX Cicrle Tokyo 2022」を2022年11月に開催。「デジタル世界の接点において、どうすれば顧客に愛される素晴らしい体験を提供できるのか」をテーマに、業界の識者たちが講演やパネルディスカッションを行った。
今回はContentsquare Japanから記事提供をいただくかたちで、同カンファレンスの書き起こし記事を掲載する(全6回中の4回目)。
本記事では電通デジタル CXトランスフォーメーション部門 CX/UXデザイン事業部 エクスペリエンスデザイン第2グループでグループマネージャー(当時)を務める亀和田慧太氏が「組織的にUXに取り組むポイント」について語った講演を紹介する。
亀和田氏は、システムインテグレータ、デザインファームを経て、2015年から電通グループに参画。日頃はサービスデザインやUXデザイン、組織・人財開発の支援などに携わっている。また、価値共創や世界観、プラットフォームなどをテーマに、学会などにも積極的に登壇しているという。
なお、コンテンツスクエアは2023年6月28日(水)に神田明神ホールにて「CX Circle Tokyo 2023」を開催する。キューサイ、三井住友カード、freeeなど各業界のデジタルリーダーが登壇し、顧客を満足させるための戦略や施策を共有。参加者同士がつながるためのアフターパーティも予定している。(参加登録はこちら)
UXは「目的」であり、DXは「手段」である
UXにはさまざまな定義があり、どれが正解・不正解ということはありません。しかし、今回の講演においては、認識をそろえるために「UXインテリジェンス協会」が定義しているものに沿って話を進めていきます。
UXインテリジェンス協会では、UXを「企業・サービス・製品」と「関わるあらゆる人々」との関係を形作る「相互作用の全て」と定義しています。
一見すると抽象的な定義で難しく感じられますが、企業が持っている全ての接点と、エンドユーザーやその周囲のステークホルダーも含めた人たちとの関係や相互作用と捉えられます。
企業の接点としては、ウェブサイトやアプリといったような画面越しのものもありますし、お店やカスタマーセンターなどのような対人的なものもあります。このような接点を通じて顧客が為す行動や、そこで感じる知覚・心理・感情を全て含んだものが、UXであると捉えられるのです。
このような意味合いからいえば、「UX=企業活動そのもの」であるといえます。UXというと、よくUI(ユーザーインターフェース)の話と思われがちですが、実際には企業の存在意義そのものに関わるテーマなのです。
このUXの定義からDXとUXの関係を捉えると、非常にシンプルです。「こういったシステムを導入しよう」「こんなデータを蓄積しよう」「それらを通じて新しいサービス/商品を提供しよう」「組織を変革しよう」という取り組みが何のために行われるかといえば、良いUXを提供するためといえます。つまり「UXが目的で、手段としてDXがある」と理解できます。
UXはなぜ重要なのか?
では、なぜUXが重要なのかをあらためて整理していきましょう。
まず顧客と企業の関係を整理します。顧客はある企業の製品やサービスに期待を抱き、それを入手し、実際に使用するという過程を体験しますが、その背景には顧客の日々の生活があります。一方で、企業は顧客に対してどのようにサービス/製品への期待を醸成し、販売を促進し、アクティベートを支援したり継続利用してもらうかを考えながら活動しています。そして両者の間に「顧客と企業の接点」があります。
このような全体観を捉えた上でなぜUXが重要になるのでしょうか。それは、良いUXを提供し(①)、その上で継続的に利用していただき(②)、ひいてはデータが蓄積され(③)、そのデータを活用してより良いUXを提供していく(①)というサイクルを回し続けることがポイントであり、その起点となるのが「良いUXを提供できるかどうか(①)」であるためです。最初に良いUXを提供できていなければ顧客に継続して使ってもらえず、顧客の嗜好性を含んだデータを蓄積できないため、ますますUXが悪化する悪循環に陥ります。
このサイクルを断ち切るためにも、良いUXを提供することが重要です。ここからは、組織としてUXに取り組んでいく際によくある失敗とその克服に向けたヒントをそれぞれご紹介します。
UXに取り組む際によくある失敗
よくある失敗①:外注に頼りすぎる/全く頼れない
UXの重要性を理解して、具体的な取り組みを始めようとするときに、UX戦略からUXリサーチ、UIデザインに至るまでの全ての工程をアウトソーシングしようと考える企業は少なくありません。
しかし、前述の通り「UX=企業活動そのもの」です。全ての工程をアウトソーシングしてしまうのでは、企業の存在意義が揺らいでしまいます。
一方で、UXが重要であることは理解しつつも、あるべき業務像が固まっていないために外注できないという企業も少なくありません。結果的に、UXに全く取り組めないという状況に陥ってしまいます。
これらの課題を解決するためには、前提として、UXに関わる5つのケイパビリティを認識する必要があります。
1:リサーチ
2:課題・定義
3:理想体験の構想
4:要件定義
5:デザイン具現化
上記の工程を全て自社だけでこなすには大変な手間と労力がかかり、困難を極めます。そこで、自社の事業特性や組織環境を踏まえた上で、内製化する部分とアウトソーシングする部分をはっきり切り分けることが重要です。
よくある失敗②:UX部署を新設して満足してしまう
昨今、UX関連の担当役員を任命したり、UX担当の部署を新設したりする企業が増えています。ただし、これはあくまでも「初手」でしかなく、どのような視点で組織的にUXに取り組むかが重要になります。
顧客の視点に立つと、Webサイトやプロダクト、カスタマーセンターやアプリケーションなど、企業との様々な接点が最適化されている状態が「良い体験」であると考えられます。
例えば、実店舗で店員から聞いた内容と、Webサイトやアプリケーションに記載されている情報が一致しているかどうかや、店頭で入力した情報がデジタル上でも引き継がれ、入力の手間を軽減できているかといったことが該当します。
あるいは、アプリケーションでできることとWebサイトでできること、店頭や書類記入でできることの明確化、つまり「それぞれの役割の違いを明確化する」という観点を持つことも大切です。
これらの観点を考慮すると、単純にUX関連の組織を一つ作ること自体はそれほど重要ではなく、あらゆる製品やプロダクト、サービスの一貫性や全体最適化を図れる組織構造になっているかどうかが非常に重要です。
よくある失敗③:組織内で総意を持てていない
UXの全体最適化を図れるUX組織構造を作っていくことは重要ですが、実はこれだけでは不十分で、専門家ではない人も含めて組織内の総意を持つことがとても大切です。
経営層やUXの専門家ではない人も含めて、しっかりUXに関する総意を持ち、取り組みを進めていくことが求められます。
そのために各社がどのような取り組みを進めているかを簡単にご紹介します。一つは研修や教育です。例えば中国のAlibaba社では、UXに関する大学を創設するなどの取り組みを行っています。また、UXに関する認定制度を作ったり、UXインテリジェンス協会の「UX検定」の取得を推奨したりする取り組みもあります。
ほかにも、評価制度としてアセスメントを行ったり、キャリアパスを作る取り組みも有効です。電通デジタルでは、このような評価制度づくりやそれに伴うアセスメント、、研修などのソリューションを提供しています。
まとめ
本講演では、UXの定義や重要性について概説した上で、よくある失敗とそれに対する処方箋を紹介しました。具体的には、内外製の方針立て、組織構造、UX人材育成について、電通デジタルのプログラムのご紹介も交えながらお話しました。
最後に、本講演でもたびたび登場したUXインテリジェンス協会について、あらためてご紹介します。UXインテリジェンス協会はUXの普及を推進している協会で、電通デジタルも事務局として参画しており、参画企業は現在40社様程度です。毎月、UXの事例を共有したり、組織開発について密に議論したりといった取り組みを行っていますので、ご興味のある方はお声がけいただくか、「UXインテリジェンス協会」と検索してみてください。
【お知らせ】
コンテンツスクエアは、2023年6月28日(水)に「CX Circle Tokyo 2023」を開催します。「和」×「デジタルの未来」をテーマに、神田明神ホールにて各業界のリーダーがリブランディング戦略や顧客体験向上に成功した施策を語ります。アフターパーティーでは和を感じられる演出、フィンガーフードと屋台メニュー、ここでしか配らないお土産などで参加者の皆さまをもてなします。
顧客戦略に携わるブランド運営企業の方は、ご同僚をお誘いの上、ぜひこちらからご参加登録ください。
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