連載「高橋晋平のアイデア分解入門」も4回目。普段はおもちゃやゲーム、遊びを作り出す仕事をしてる私、高橋晋平が、身の回りにある物から、アイデアや工夫、発想の種を見つけ出そうという試みです。
今回のテーマは「掃除機」です。必ず一家に一台はある家電ですが、最近ではロボット掃除機も一般的になり、日々目まぐるしく進化しています。すでに行き着くところまで到達しているような気もしますが、そんな掃除機の進化はどこまでいくのでしょうか?
高橋 晋平 (たかはし しんぺい)
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おもちゃクリエーター、アイデア発想ファシリテーター。秋田県生まれ。2004年に株式会社バンダイに入社。第1回 日本おもちゃ大賞を受賞し、発売初年度に国内外累計335万個を販売した「∞(むげん)プチプチ」など、イノベイティブトイの開発に約10年間携わる。14年に株式会社ウサギを設立。玩具・ゲームの考え方を活かした事業を企業と共同開発し、企画アイデアの発想セミナーやワークショップを全国で実施している。得意なのは笑い・遊びのある企画を作り、話題にし、販売につなげること。TEDxTokyoでのスピーチは累計200万回再生。近著『1日1アイデア』(KADOKAWA)など、著書多数。
構成:北村有
ボツになってしまった“お掃除しロボット”
Photo by Shutterstock
「ルンバ」に代表されるロボット掃除機。段差にひっかかったり、床に物が置いてあるとぶつかったりしていたりと、特に最初期はどんくさいけれど、愛らしい、ペットみたいな存在でした。最近はかなり優秀になってきていますし、水拭き機能や、窓を拭いてくれるやつも登場しています。
ロボット掃除機はこの調子で進化し続けたらどんな風になるんでしょうか。たとえばカーテンレールの上や、トイレやエアコン、そしてお風呂など、これまでは人の手じゃなければ掃除できなかった細かいところをカバーしてくれるロボットが開発されるかもしれません。
そうなってくると、究極形は「人間型のお手伝いロボット=ヒューマノイド」でしょうか。もはや掃除機の域を超えている気もします。そう考えると、ロボット掃除機の未来とは少し違うような気もします。
僕は「人間との共同作業」や「お互いの苦手分野を手伝い合う」のが得意なロボットを開発したほうがいいと思っています。
おもちゃ会社で働いていた社会人時代に「お掃除しロボット」という企画を出しました。まさにルンバみたいなお掃除ロボットに、顔が描いてあるようなものなんですが、まったく動かないし、なんなら掃除機能もついていません。あるのは「喋る機能」と「タイマー機能」だけ。つまり「お掃除しろ」と人間に促すためのロボットです。
高橋さんが自分用のアイデア帳にスケッチした「お掃除しロボット」のイメージ。掃除はしてくれないのにどこか憎めない雰囲気がある
たとえば、エアコンを掃除しなきゃならない時期になったら「そろそろエアコンを掃除するタイミングですよ〜」などとリマインドしてくれる。今どこを掃除したら最適かを教えてくれるロボットなんです。たった数千円で、家が綺麗に保たれるお得なおもちゃとして提案しました。けれど「誰も自分で掃除したくないだろう。ロボットである意味がない」と言われて、ボツになりました。
僕自身、やたらとこの「お掃除しロボット」のことが面白く感じて、すぐにバージョン2を再提案。次は、掃除はしてくれるけれど、人間にも共同作業を頼んでくるロボットです。たとえば「床掃除をやるから、壁をお願いします」などと言って、人間と共同で掃除をするように呼びかけてきます。
でも、結果的にバージョン2も、非現実的だろうと言われてボツになってしまいました。音声機能をつけるだけで、一般的な掃除機よりもコストが高くなってしまいます。そもそも、掃除機を開発するなら掃除機メーカーがつくったほうが、良いものができるに決まってますからね。
目指すは「人間との共同作業」ができるロボット
「ChatGPT」などのチャットAIが台頭したことによって、ついに人間の仕事が奪われるのでは、と懸念している方も多いかもしれません。でも僕は、AIの進化は「人間との共同作業ができるかどうか」がポイントだと思っています。
ChatGPTもそうですが、現時点でのAIって結局は人の使い方次第だと思うんです。質問の仕方が悪かったら、とんでもない答えが返ってくることもある。反対に、上手い使い方をすればものすごい力を発揮してくれます。これからは、AIを上手く使いこなせる人が活躍するのではないかと思います。
だから、お掃除ロボットも、ただ人間が何もしなくていいような進化の仕方をするんじゃなくて、人間と共同作業できるように進化したほうがいい。床や窓の掃除は面倒だからロボットに任せて、浮いた時間で別のところを掃除する、とか。そういう役割分担、チームワークを考えるのも、遊びにもなるんじゃないかと思います。
今までのビジネス組織論は人間同士のチームワークについて議論が重ねられてきましたが、今後はAIやロボットの活用も前提となることが増えるのではないでしょうか。そしていかに人間同士が良いチームワークをとっていくかを考えたときに、AIの存在意義は「人間を気持ち良くさせること」に帰結するのではとも思っています。役割分担しながら私たちのモチベーションを上げて、一緒に掃除できるロボットが開発されたら、きっと楽しいですよ。
これは何もAIに限った話ではありません。製品、サービス、僕が作っているおもちゃなど、何においても「人間をより活躍させ、気持ちよくリラックスさせる」考え方でものづくりをしたいですよね。人の頭や体を適度に動かさせ、より得意なことに時間を使える世界にしたい。そんなプロダクトを作りたいし、ぜひ皆さんにもそんな視点を持ってほしいと思います。
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