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EVENT | 2023/03/20

半導体研究から「南部鉄器ゴジラ」まで。伝統分野に先端技術盛り込む 岩手大学 ものづくり技術研究センター

文:黒澤結衣
伝統技術と最新技術の融合で国内の金型・鋳造の研究を牽引

写真左:西村文仁氏(金型技術研究部門長)、...

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文:黒澤結衣

伝統技術と最新技術の融合で国内の金型・鋳造の研究を牽引

写真左:西村文仁氏(金型技術研究部門長)、写真中央:平塚貞人氏(ものづくり技術研究センター長・鋳造技術研究部門長)、写真右:長田洋氏(生産技術研究部門長)

岩手大学ものづくり技術研究センターは、金型・鋳造・デバイスの研究開発を複合的に行っている。今回は鋳造技術研究部門長の平塚貞人教授、生産技術研究部門長の長田洋教授、金型技術研究部門長の西村文仁教授から話を聞いた。

同大学は地域の市町村と相互友好協定を結び、2002年・北上市に金型技術研究センター、2005年・奥州市(旧水沢市)に鋳造技術研究センター、2006年・花巻市に生産技術センターという3つのサテライトを設置。2016年からはこれらを「ものづくり技術研究センター」と改め、地域連携型の研究拠点として日々活動している。

岩手県には自動車メーカーの工場も多く存在するため、強靭で軽量、品質のよい金型・鋳造の研究が進んだ。現在では地域からの要請を受け、日用品を開発する技術や農業分野も取り入れた研究を行っている。

「もともと奥州市では伝統工芸の南部鉄器を作っており、鋳造の研究は郷土研究を発端としています。実は鋳造を研究している大学は数少なく、県内のみならず全国、時には海外からも問い合わせをいただきます。そのため、施設での研究は地域に限らず展開しています」(平塚氏)

サテライトで誕生したシーズを製品化

各サテライトでは基礎研究部門で誕生したシーズをもとに、技術相談を受け製品化を目指している。近年の実績の中から、経済産業省のサポイン事業(現在の名称はGo-Tech事業)として採択された研究を紹介する。

(1)金型技術研究センター

写真左:リファインドアンバー(琥珀)で作られたボールペン(グリップ部)
写真中央:リファインドアンバー(琥珀)で作られたジュエリー(ピアス)
写真右:リアファインドジェット(黒玉)で作られたジュエリー(ネックレス、ピアス)

世界をリードする金型技術の開発拠点を目指している。強度が強くコストパフォーマンスに優れた厚板ハイテン材のプレス成形技術の確立など産業ニーズに沿った開発に取り組んでいる。また、地域課題にも取り組んでいる。岩手県北に位置する久慈市は世界有数の琥珀の産地だ。最近では、ジェット(黒玉)の原石も産出が確認された。これらの貴重な資源を無駄にしないために、宝石に出来ない小さな破片を、金型技術を使って純度100%の琥珀やジェットとして再成型する「リファインドアンバー、リファインドジェット」の技術開発に取り組んでいる。

「金型は自動車などの工業技術にとどまらず、これまで蓄積してきた技術を応用し、日用品や宝飾品の製品化といった展開を見せ始めています」(西村氏)

(2)鋳造技術研究センター

いわて戦略的研究開発推進事業の1つとして、南部鉄器の鉄瓶の型を3Dプリンタでデザインするという取り組みを実施。2020年には、ゴジラ65周年を記念して南部鉄器ゴジラを制作。その年の優れた鋳物製品を表彰する日本鋳造工学会の「Castings of the Year賞」にも選出された。

「鋳造で使う鋳鉄は鉄と炭素の合金で、一般的に強度が強くなると伸びが悪くなります。ここでは、強度が強く、かつ伸びも良いもの、つまり強靭鋳鉄を作る研究を進めており、自動車部品に応用していきたいです」(平塚氏)

(3)生産技術研究センター

ドローンを用いた水田モニタリングで生育度合いを表示する

農業分野の研究として、花巻市と共同でドローンを用いて広大な水田をモニタリングする実証実験を展開。様々な波長の光を計測し、葉内の窒素含有量などを測ることで、育成状況を見える化、肥料と土の改良についての指標を与えた。食味値(おいしさ)との相関性も確認している。また、地域の企業と組んで光通信に関するデバイスの研究を行っており、2023年の米・OFCカンファレンスに出展予定だ。

「これからはZnO単結晶基板を使った半導体デバイスの基礎研究をさらに進めていきたいと考えています。現在はシリコンなどの可視光より長波長領域の半導体が主流ですが、ZnO単結晶は熱に強く、より波長が短くエネルギーの大きな紫外線領域を扱える素材です。安定した技術が確立できれば、次世代の半導体デバイスにすることができると考えています」(長田氏)

岩手発の産業地域「キャスティングバレー」を目指す

2014年に大学キャンパス内に竣工したものづくり研究棟

センター全体では学術的な研究のほか、ものづくりの技術の高度化、新製品の創出などを国際的に展開したいと考えているという。そのために注力して取り組んでいるのが半導体分野の人材育成だ。岩手県には半導体関連の企業が工場を拡張しており需要も高まる一方なので、東北経済産業局と共同で今後の人材育成を検討しているという。

「岩手県は北上川沿いにものづくりの工業地帯が広がっています。アメリカのシリコンバレーのように全国にものづくりの技術を発信する『キャスティング(鋳造)バレー』を作るのが野望です。岩手大学と地域の企業が連携して、未来の工業製品の開発拠点にしていきたいと考えています」(平塚氏)


岩手大学 ものづくり技術研究センター

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