CULTURE | 2020/10/30

隆盛を極めるインフルエンサーの始祖「ブロガー」は本当に感度が高い人?イベントに参加し感じた界隈の空気感【連載】中川淳一郎の令和ネット漂流記(17)

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中川淳一郎
ウェブ編集者、PRプランナー
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かつてのあのブロガーたちの今

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私は2000年代中盤、アメーバブログと連携した出版社・アメーバブックスのPRを担当していた。それに加え、同社から出してヒットしたカズマ氏著・『実録鬼嫁日記』の編集をした。結果的に同作は連ドラ、ゲーム、パチンコ、コミックなどさまざまな展開をしたが、当時は「ブログ発書籍」が続々と登場。ブロガーがプロ文筆家への登竜門になったのだ。

『オカマだけどOLやってます。』の能町みね子氏や、『あの女』のゴマブッ子氏がその代表例だろう。そして若干後になるが、井上純弌氏の『中国嫁日記』もブログ発だ。出版社からすれば、キラリと光る才能を見つける手段が一つ増えただけに歓迎すべき事態だったのではないだろうか。当時、私たちも次に誰に書籍化のオファーを出すか、などを楽しく会議で議論したものだった。

そんな時代は過ぎ去り、ブログのみが一般人の情報発信ツールではなくなった今、あの時の彼らはどうしているだろうか、と見に行ったら皆さん健在だった。

グルメブロガーの皆様である。私が好きなのは『春は築地で朝ごはん』『自己ベスト更新中』『丼王への道』の3つ。かつては『食い道を行く』も好きだったが終了してしまった。こうしたグルメブロガー同士は知り合いということも多く、互いのブログへのリンクを貼り、トラフィックの交換をするケースもある。だからこのブログを起点とし、さまざまな人気グルメブロガーのブログをチェックできる。

話は冒頭のブロガーイベントに戻るが、かつてこのブロガーたちが一斉にシドニーへ行っておいしいものを食べまくった時期がある。恐らく航空会社からお金が出ていると思うのだが、さすがにこの人たちは洗練されている。写真も上手だし、何を書けばシドニーの食のPRになるかを分かっている。互いに互いのブログを紹介しあい、コメントをつけて返信をしている様は見ていて常に「常識人」といった気持ちにさせられた。何しろ人を傷つけたり罵倒することがまったくないのだ。常にポジティブな空気感が彼らのブログには漂っている。

その後、「ブログで一儲け!」的な風潮になっていき、アフィリエイトの貼り方を指南したり、ブログで稼ぐための情報商材を売りつけるなど、どことなくブログ界の一部では殺伐とした空気が流れていき始めた。

そんな中でもグルメブロガー界隈では淡々と日々食べたもの記録と店への感謝などを綴り続けている。今年のコロナ禍での自粛期間中はテイクアウトを食べたことなどが記されていたが、漂うポジティブな空気感は当時と変わっていなかった。2000年代中盤から15年、私も32歳から47歳になったが、彼らも同じだけ年を取ったのだろう。私より少し年上の人が多いと推測されるが、こうして長く続けられていることに対しては心からの称賛を送りたい。皆さんのお蔭で良い店をたくさん知ることができました、と。


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