閉塞する世界には、アートが必要だ
『目 in Beppu』『西野 達 in 別府』ともに、担当者はこれほど大きなプロジェクトを任されるのは初めてです。しかし、アーティストが10人いれば全員が異なる作品を作ります。マネジメント側は常に初めての経験に飛び込み、それがより良いものになるよう全力を尽くさなければならないのです。市の職員も、ロッククライマーも、そんなことに関わることになろうとは思ってもみなかったでしょう。しかしながら、アートとの邂逅は新しい可能性や、異なる世界の存在に気付かせてくれます。
僕らが当たり前だと感じているこの風景や世界を、全く違う角度や視点で見つめ、異なる可能性に気付かせてくれるのがアーティストです。これはこうでなければならないという固定観念を打ち破っていくのが、アートの大きな役割です。閉塞感を自分自身の手で切り拓いていくのが困難なときこそ、世界にはアーティストの突飛なアイデアやビジョンが必要なのではないでしょうか。
【目】のメンバーと別府市役所の屋上で仰向けになって空を見あげる筆者
【目】のメンバーの1人である荒神明香さんは、こんなことを言っていました。「校舎の屋上で仰向けになっていたら、空しか見えないことが突然怖くなったんです」。僕が「空から何か降ってくるって思ったんでしょう?」と聞くと、彼女は「いいえ。自分が空に落ちてしまうんじゃないかと思ったんです」と答えました。彼女は地球が宇宙に浮かぶ惑星であるということを知り、もしも自分が地球の下側にいたとしたら、落ちてしまうのではないかと考えたのです。「手を床につけて、ああよかった、私はまだ地上にいると安心しました」こんなことを話すと、大抵は「変わっているなぁ」と一蹴されてしまうでしょう。しかし「地球には引力があるから大丈夫と言われても、それがいつまであるかなんて誰にも答えられませんよね」と彼女が言う通り、目の前のことは全て不確かです。少し先の未来すら不安に感じることもあるけれど、逆に捉えれば、それはいろんな可能性があるということです。
僕は彼女と対話しながら、世界にはまだまだ余白があるなと感じました。
BEPPU PROJECTからのおしらせ
『梅田哲也 イン 別府』開催決定!
『りんご』札幌国際芸術祭 2017(札幌市、2017年) 撮影:小牧寿里
毎年、国際的に活躍する1組のアーティストを招聘し、地域性を活かしたアートプロジェクトを実現する個展形式の芸術祭『in BEPPU』。本年は、音楽、美術、舞台芸術など、分野を軽やかに横断しながら活躍するアーティスト・梅田哲也を招聘します。
梅田は、展示空間や周囲の環境を取り込み、その場所にあるもので構成される光・音・動きを伴うインスタレーションや、そこにいる人たちとともに作りあげるパフォーマンスを国内外で発表し、国際的に高く評価されています。場や状況にしなやかに介入する梅田の作品は、目の前の風景を起点に、既存の価値観や固定観念の基準が少しずれたような空間・時間へと鑑賞者を誘います。
今回別府では、複数エリアを舞台に長期的に展開する回遊型のプロジェクトとして、会場や会期のあり方を柔軟に捉え直し、新たな展覧会の形を模索します。
私たちは今、数カ月前には想像もしなかった事態に直面しています。本展の開催が、さまざまな困難を乗り越えるための活力となることを願い、準備を進めてまいります。
会期:2020年12月12日(土)~2021年3月14日(日) ※年末年始休み
会場:別府市内各所
主催:混浴温泉世界実行委員会
※詳細は10月下旬公開予定
市民芸術祭『ベップ・アート・マンス』も12/12(土)-1/31(日)の期間で開催決定! 今年はオンラインイベントも開催されます。