LIFE STYLE | 2020/09/15

困ったビジネスパーソンに広がる「事例教えて症候群」 日本人の「考える力」がなぜ衰えているのか【連載】オランダ発スロージャーナリズム(28)

皆さんの中にも、ステイホームでお仕事をされている方もいると思います。こちらオランダでも、いまだに自宅での仕事が推奨されて...

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皆さんの中にも、ステイホームでお仕事をされている方もいると思います。こちらオランダでも、いまだに自宅での仕事が推奨されている状態です。オランダは周りの国に比べると比較的落ち着いている方ではありますが、それでも徐々にまた1日の新型コロナの感染者数は増えてきている状態です。

そんな状況の中、ヨーロッパで日本との仕事をしていて少し困ったことがありました。今回はそこから考察をしてみました。もし良ければ、皆さんも一緒に考えてみてください。

それは、弊社ニューロマジックで主催しているセミナーで感じたことがきっかけでした。

吉田和充(ヨシダ カズミツ)

ニューロマジック アムステルダム Co-funder&CEO/Creative Director

1997年博報堂入社。キャンペーン/CM制作本数400本。イベント、商品開発、企業の海外進出業務や店舗デザインなど入社以来一貫してクリエイティブ担当。ACCグランプリなど受賞歴多数。2016年退社後、家族の教育環境を考えてオランダへ拠点を移す。日本企業のみならず、オランダ企業のクリエイティブディレクションや、日欧横断プロジェクト、Web制作やサービスデザイン業務など多数担当。保育士資格も有する。海外子育てを綴ったブログ「おとよん」は、子育てパパママのみならず学生にも大人気。
http://otoyon.com/

「SGDs部署を作ったのに知識のある人がゼロ」というケースが多発 

いわゆるサステイナブルファッションブランドの配送に使われる段ボール。欧州ではサステイナブルはここまで徹底している。ゆえに自ずと産業の裾野も広い

昨年、つまりコロナ以前から、弊社では定期的にオランダのサーキュラーエコノミー(資源をなるべく廃棄せず、再利用する経済エコシステムを作ること)関連のセミナーを開催しています。この連載でも何度も触れてきましたが、オランダのサーキュラーエコノミーはかなり進んでおり、こちらではビジネスのメインストリームになりつつあります。近年起業したスタートアップは、この分野に何かしら関わっていることが圧倒的多数です。もちろん、フィリップス、ダッチシェル、ユニリーバなどのオランダの大企業も、こぞってサステイナブルへシフトしています。

そのサーキュラーエコノミーに関連するセミナーも、ご多分にもれず今年の3月以降は当然、オンラインに移行しています。ただ弊社としはむしろオンラインだとオランダからゲストスピーカーの登壇がしやすいこともあり、おかげさまで、かなり旬なゲストを迎えることができています。

が、ここでちょっと気になることがあります。それは「事例を求められる」ということです。質問は、「事例を教えて下さい」「事例は何ですか?」というものが非常に多いのです。

確かに、サーキュラーエコノミーとか、サステイナブルエコノミーは、かなりわかりにくいと思います。実際に日本の企業ではSDGs部署に配属されたものの、そもそもSDGsがどういうことなのかわからない。SDGsをどうビジネスに結びつけたら良いのかわからない。蓋を開けてみたら、部署はあるのに社内ではわかっている人が一人もいない、なんていう笑えない話も頻繁に起こっています。そういう方からの相談案件が非常に多いのです。

ということもあり、この手のセミナーでは事例を豊富に紹介しないと参加者の満足度が上がりません。なので、こちらも意図的に事例を豊富にこれでもかというくらい紹介するようになっています。

確かにサステイナブル周りは、まだわかりにくい、日本には事例があまりない、ということもあると思います。事例を聞きたがるというのもストレートな反応だとは思います。

ただ、ちょっと気になるのが、その事例を聞いた後に「それは日本とは前提条件が違うので、参考にならないな」とか「それは日本では実現不可能なので、他の事例を教えて下さい」というような態度でしょうか。つまり、事例を聞きたいというのは、安直にわかりやすい「これをマネすれば良いという答え」を求めているということだと思うのです。

現在、立命館アジア太平洋大学学長でもある出口治明さんは『人生を面白くする本物の教養』(2015 幻冬舎)の中で、ヨーロッパと比べて最近の日本の特徴を以下のように書かれています。

<最近は安直に「答え」を欲しがる傾向があり、それに応じてきれいに整えられた「答え」や、一見「答え」のように見える情報が、ネット空間などには溢れています。ランキング情報やベストセラー情報などは、その最たる例です。あるいは情報がコンパクトにまとめられたテレビ番組もたくさんあります。多くの人が、まるでコンビニへ買い物にでも行くかのように「答え」の情報に群がり、分かった気になっています。>

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