起業も不動産も「自由にやりたいことをやる」ためのツール
―― 起業家に対して良い言い方ではないかもしれませんが、お金やビジネスに対する「ガツガツしていなさ」を感じるんです。山本さんはなぜ起業しようと思ったんでしょうか?
山本:R65不動産も業界からするとかなり異端なサービスですし、実際「なんでそんなカネにならないことを」とよく言われます(笑)。
起業したのは「自分のやりたいことをやりたいようにやるには、起業するしかないのかな」と思ったのがきっかけですね。僕はもともと愛媛にある不動産仲介・管理会社で働いていたんですが、先輩からの教えが良かったのもあってか、全社員中で売上1位になってしまい、入社2年目に新しくできた東京の支店に異動することになりました。
当時はその会社で留学生向けのシェアハウスをやりたいと思っていました。留学生は保証人を見つけるのが難しいので、留学生が通う大学の先生にお願いしたらOKをもらえて、「これでどうですか?」と事業計画を会社に提案したんですが、「リスクがあるから今のタイミングじゃないかなあ」とやらせてもらえませんでした。その時に「会社でも1位になっちゃったし、やっぱりやりたいことをやるには起業しかないな」と思って独立したんです。
―― 起業の動機としては、お金より「やりたいこと」の方が大きかったということですね。
山本:そうですね。僕らの世代の起業家はVCから調達する人が多かったと思いますが、僕は調達しませんでしたし、スタートアップ支援も含めて銀行融資も受けていません。やりたいことをやりたいようにやるためにこそ、「自分が責任を取れる範囲で仕事をする」ということは常に意識していますし、始めた時も「もしダメだったら諦めて就職し直せばいいか」と思っていました。正直自分がビビりだというところもあるんですが(笑)。
R65不動産もフリーランス不動産も「そういう立場になった時の僕がいつでも借りれる自由」がほしかったので立ち上げたという面が大きいですし、フリーランス不動産を立ち上げたのも、「このサービスを通じてもっとたくさんの面白いフリーランスの人と知り合えないかな」と思っていたからなんですよ。
―― それはどういうことですか?
山本:自分が何か「こういうことをやりたいな」と思った時に、フットワーク軽く「じゃあ一緒にやろうよ」と言ってくれるのがフリーランスの皆さんなんです。さっき話したスナックもそうですし、6月に入ってYouTubeを始めてみたんですが、その映像編集も手伝ってもらったりしています。
あと、松陰神社前で「スナックニューショーイン」という日替わりオーナーのスナックも運営しているんですが、ここも2カ月間営業ができなくなった間は、それぞれの曜日のオーナーからもらう、家賃代わりの利用料の徴収を一時ストップしました。どんな対応がベストなのかはわかりませんが、僕らはこれで良いと思っています。
松陰神社前で運営する「スナックニューショーイン」の店内
新型コロナの感染拡大があってから、東京以外の場所への移住がまた盛り上がってきましたよね。自分の周りでも逗子、葉山など海沿いに暮らしたい、別荘を作ろうかという話があります。そうした意味ではフリーランス不動産でも「むしろフリーランスの方にこそ積極的に入居してほしい!」という物件を増やしていきたいですね。
―― 山本さんはTwitterなどでもたびたび「自分はコミュニケーション能力が高くない」と書かれています。起業をするとより積極的に人と関わっていかなければならないと思うのですが、なぜ一見より難しく思えるような選択をしているのでしょうか?
山本:会社や組織から一方的にチームで仕事をするのが苦手だったんです。もっとコミュニケーション能力が高かったら今も会社員をやっていたと思います(笑)。自分が発起人になれば一緒に仕事をしたいと思える人とだけ仕事ができるのでむしろ楽ですね。
僕が東京に出てきて一番嫌だったのは、利害関係のない友達がいないということだったんです。上京は上司と一緒にしたんですが、「仕事の愚痴言えない」と(笑)。そこで居酒屋に入り浸ってみたりとか、知り合いが住んでいるシェアハウスに通ったりしたのが楽しかったという原体験があったので、事業としてもそういうことをしているのかもしれません。
―― そんな山本さんが今後手掛けていきたいことは何でしょうか?
山本:先日noteにも書いたんですが、「街の中に街を作りたい」と思っています。僕は満員電車とか不特定多数の人といるのが苦手なんですが、街中で「友達がやっているお店」をどんどん増えれば単純に楽しそうだなと思いますし、友達だけで成り立つ経済圏ができればもっと面白いんじゃないかと。
直近ですと、熱海の物件開発、元ホテル物件の開発、北千住の空き家改修などの話も来ています。やりたいことはやや流動的なんですが、衣食住の暮らしに関わる取り組みを増やしていきたいですね。