EVENT | 2020/11/06

トラブルの8割は5000万円以下の遺産。他人事ではない相続対策【連載】FINDERSビジネス法律相談所(26)

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相続で揉めないベストな予防策

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ベストな予防策としては、親と相続人となる子どもたち全員で、相続前から話し合い、意見交換して納得の行くかたちを決めておくことです。さらにセットで「遺言書」を作成しておけば間違いないでしょう。

人は、事後に不意打ちのようにふりかかることには反発を覚えますが、あらかじめ決められていること、しかもその内容に自分の意見も反映されている場合であるほど、その内容に従おうという気持ちになるものです。

生前の遺言書が「争族」防止の有効手段

それでも、現実的には関係者全員で話し合って決めるのはなかなか難しいという声は多いです。その場合、親が生前に遺言書を作成しておくことで、子や孫たちが「争族」で苦しまないための有効な手段となります。

ただし、遺言書さえあればOKというものでもありません。遺言書があったとしても、その内容次第では、かえって「争族」化させてしまうこともあるからです。

遺言書をどのような内容にするかは、残された相続人を「争族」化させないために極めて重要な点です。ここでは詳しくは触れませんが、遺言書の「要式」次第では、どんなに内容がすばらしくても、法的に「無効」とされてまったく無意味になってしまうことがあるので、注意が必要です。

書かない派が多数。親に遺言書を書いてもらうコツは?

「うちは大した財産がないから」「うちの子たちは兄弟仲がいいから心配していない」といった“うちの子に限って”的な発想の親がまだまだ多いのが現状です。

そこで、親に遺言書を書いてもらうコツをご紹介しましょう。

(1)「争族」化のデメリットや遺言書のメリットを説明する

まずは率直に、遺言書の必要性を親に理解してもらうことが大切です。遺言書がないことで、前述したような「争族」化のデメリットがある可能性を理解してもらいましょう。人間関係のデメリットだけでなく、相続税などでの損失といった経済的なデメリットについても説明しておくことです。

遺言書があることでこうしたデメリットを回避できることはもちろん、実は相続手続きの面でも非常に大きなメリットがあります。

遺言書がない場合の手続きはかなり大変です。相続開始後、相続人は遺産調査のために、故人の財布や預金通帳、クレジットカード、金庫などを調べ、不動産がありそうな自治体にはあたりをつけて名寄帳を取り寄せるなどして、財産・負債をすべて明らかにし、財産目録を作成します。

その上、故人の一生分の戸籍謄本、相続人の戸籍謄本、住民票、印鑑証明書、不動産の登記簿謄本などの書類を集めて、相続人関係図を作成します。

さらに、相続人全員で話し合った結果としての、遺産分割協議書を作成し、必要書類をもとに、預貯金の解約手続きを行い、不動産の名義変更をしていくという長い工程が生じます。

話し合うために集まったり、仕事を休んで役所を行き来したり、相続人全員の同意書を揃えたりする必要もあるでしょう。遠方に住んでいる相続人がいれば、交通費などの経費もかかるほか、こうしたことに割く時間も膨大です。

その点、遺言書を作成し、財産の分け方の詳細を定めた上で、手続きを進める権限を持つ「遺言執行者」を指定しておくことで、こうした負担から相続人が開放されることは、極めて大きなメリットです。

(2)まずは自分でも遺言書を作成してみる

人は誰でも、経験者の話の方が腑に落ちるし、素直に耳を傾けたくなるものです。親に遺言書を書いてもらう前に、まずは自分自身でも遺言書を作成してみることをお勧めします。

遺言書を作成する過程では、色々なことを考えるものです。自分にとって大切な人たちに財産を相続させることで、どんな思いを託し、どんな人生を送ってほしいのか。そんなことまで真剣に考える機会になるのです。

遺言書を作成した人の声で多いのは、「肩の荷が下りた」「家族のことに思いを馳せるいい機会になった」というもの。遺言書を作成される方自身にとっても、実はとても心地よく達成感のあるものだということでしょう。

そのような経験をまずは自分でしてみることで、親にも、「遺言って書いてみると、実は気持ちがスッキリするものなんだよ」などと具体的に伝えることができるのではないでしょうか。

(3)「面倒くさい」を解消してあげる

人は誰でも、分かりにくいことに手を出すのは、億劫です。高齢になればなるほど、事を起こすのが面倒になってきます。特に、遺言書を公正証書で作成する場合、公証役場に出向くなどの手間もあります。

そこで、まずは自分自身が遺言書というもの、そして作成方法について十分に理解し、親が遺言書を作成する過程に寄り添ってサポートできると理想的です。そういう意味でも、(2)に挙げたように、自分で遺言書を作成した経験が役立つでしょう。

ただし、ほかに兄弟が居る場合は、後から、「兄(弟)が親を誘導して自分に有利な遺言書を書かせたに違いない」などと、あらぬ誤解を招かないように、事前にほかの兄弟にも伝えておくといいでしょう。

ほかに遺言書作成時のNG事項としては、相続人の意向に沿ったものを無理強いして作成させたら、遺言が無効になることもあるのでご注意を。また、無理やり押し付けた内容で、遺言の内容が偏ったものであれば、かえって「争族」化を誘発してしまい、本末転倒であることは言うまでもありません。


弁護士として、相続分野に限らず、さまざまなシーンでトラブルに発展したケースを多々扱ってきました。その中でも、相続トラブルについて強く思うのは、生前にしっかりと準備していれば、間違いなくトラブルは回避できていたようなケースがほとんどだということです。

それもそのはずで、他分野のトラブルはたいてい、「取った・取られた」「損害を受けた・与えた」「約束どおりに行った・行かない」など、発生のきっかけが不運やアクシデントですが、相続トラブルの場合は、発生のきっかけが故人から相続人への遺産というプレゼントだからです。

つまり、本来はハッピーなきっかけであるはずが、その分け方を巡ってケンカになり、挙げ句の果てには長期化してそのプレゼントにありつけないという皮肉なことが起きてしまうわけです。

親が子どもたちに美味しいケーキをプレゼントしたら、本来は子どもたちがみんなで美味しくケーキを分け合ってハッピーエンドになるはずでした。そこで親が、子どもたちにわかりやすく「遺言」というかたちでひと言添えてあげれば、後々のケンカを避けられるのです。


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