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渡邉祐介
ワールド法律会計事務所 弁護士
システムエンジニアとしてI T企業での勤務を経て、弁護士に転身。企業法務を中心に、遺産相続・離婚などの家事事件や刑事事件まで幅広く対応する。お客様第一をモットーに、わかりやすい説明を心がける。第二種情報処理技術者(現 基本情報技術者)。趣味はスポーツ、ドライブ。
大した財産もなければ相続で揉めることもない?
「争族になって揉めるのは資産家の話でしょう」
こうした言葉は多くの人からよく聞かれます。一般的なイメージとして、争族で骨肉の争いになるのは、ドラマなどに出てくるような大富豪や資産家の相続の場合だと思われています。
近年の司法統計データを見ると、実はこうしたイメージとは大きくかけ離れているのが実情です。
全国の家庭裁判所に持ち込まれた遺産分割事件、つまり、相続人だけで折り合いがつかずに揉めた件数をみると、遺産額が1000万円以下の事件が全体の33%を占め、5000万円以下が44%。遺産額5000万円以下の案件が全体の約8割弱を占める結果となっているのです(平成30年司法統計)。
故人の自宅の土地と建物に加え、多少の現金があれば遺産評価額が5000万円弱になることは珍しくありません。つまり、ほとんどの人にとって「争族」は他人事ではないのです。
相続争いによくあるケース
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実は、遺産総額以外でも、大きく分けて「争族」になりやすいケースがあります。
・財産が分けにくいもののケース(不動産や会社の株式など)
・亡くなった親と同居していた相続人と同居していない相続人がいるケース
・二次相続のケース
二次相続とは、両親のうち後に亡くなった方に発生する相続のことをいいます。たとえば、父親が先に亡くなり(一次相続)、後に母親が亡くなった場合の相続です。
一次相続の場合、配偶者がまだ生きていますが、二次相続の場合は相続人の子ども同士で争いに発展しやすい状況と言えます。
遺産の大部分をひとつの不動産が占める場合、売却するにしても、そこに住む人がいると処分しにくくなるなど、スムーズにいかないケースが多いです。
また、親と同居している子どもとそうでない子どもがいる場合、同居する側からすれば「親の面倒を見てきたし、色々と我慢してきたのだから、(法定相続分よりも)多くもらって当然だ」という主張が出てきます。
これに対し、同居していない側からすれば、「そっちは同居して家賃もかかっていないし、親から生活費などの支援もあるはず」という主張も出やすいです。
まとめると、争族が起こりやすいケースには以下の傾向があります。
・財産が不動産しかない
・兄弟のうち兄が親と同居中
・父親は既に亡くなって母親だけが生きている
多くの人が、どれかひとつくらいはあてはまっているのではないでしょうか。
相続が「争族」となることのデメリット
誰でも、「争族」は避けたいという漠然とした思いはあるでしょう。
争族が長期化すると、精神的負担だけでなく、訴訟費用も含め、相続税での損失の可能性があることを頭に入れておくべきです。相続税の控除や相続税評価を下げることのできる各種特例が使えなくなる可能性が出てくるからです。
相続税には相続開始から10カ月間以内での申告期限があるため、それまでに話がまとまらないと、より多額の納税が必要になることがあるのです。
生前対策として相続税対策をする人は多いですが、究極の相続税の節税対策は、相続人同士が揉めないことに尽きるでしょう。
また、争族が長期化することで、財産の処分や活用の妨げにもなります。
最終的に相続人間で合意した「遺産分割協議書」が作成できなければ、故人の遺産である預貯金の解約さえできません。決着が付くまで銀行に預けられ、凍結されたままの状況が続いてしまうことになります。
不動産については、当然ながら誰が取得するかが決まらなければ売却などの処分もできませんし、建替えや修繕も基本的にはできません。それでも不動産には固定資産税が発生します。使うことのできない不動産の固定資産税を払い続けることは、経済的にも精神的にも負担となります。
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