「反人種差別」を掲げる本がベストセラーランキング上位に浮上
また、抗議デモが広まり始めてから、ハードカバーの全米ベストセラーリストにも変化が起きた。
ニールセン・ブックスキャンのデータによると、BLMの抗議デモが始まる前の週(5月17日〜23日)のハードカバー・ノンフィクションのベストセラー上位5冊は、
だった。1位と2位は自己啓発本で、3位は「反ワクチン派」として知られる政治家と科学者らによる正道の科学と科学者を批判する “科学”本、4位はライフスタイルのグルによる料理本、5位は保守系メディアのFOXニュースの出演者によるリベラル批判とトランプ擁護の本だ。すべての作家が、テレビ出演などでよく知られている人物であり、2位の作者である黒人牧師のほかは白人である。
抗議デモ勃発から3週め(6月7日〜13日)のベストセラー上位5位は
に変わっている。1位のCountdown 1945は、第二次世界大戦でアメリカが日本への原爆投下をするまでの経過を描いた歴史ノンフィクションで、著者はFOXニュースの政治番組司会者のクリス・ウォレスだ。5位のThe Splendid and Vileは、第二次世界大戦でドイツからの爆撃に遭っていたロンドン市民の心理を巧みにコントロールしたウィンストン・チャーチルについての歴史書で、著者はベテラン作家のエリック・ラーソンだ。
この中で注目すべきなのは、2位になったHow to be Antiracistだ。著者のイブラム・X・ケンディは、全米図書賞の受賞者でもあり、ボストン大学が「反人種差別研究センター」を設置するためにこの夏から教授として迎え入れた。
人種差別の歴史、倫理、法、科学に著者自身の体験を含めた同書がベストセラーになったのは、「人種差別者にならないためにはどうしたらいいのだろう?」と思い、勉強したいと考える白人が増えているからでもある。アメリカの白人はよく「the right side of history(歴史の流れとして正しい立場)」という表現を使うが、in the wrong(不正、不道徳)の立場ではなく、正しい立場を選びたいという動機を持つ人は少なくないと思う。データに基づいた予測で有名なFiveThirtyEightによる最新(6月18日)の世論調査の総計で、トランプ大統領の不支持が55%を越えた(支持は41%)。これを見ると、どちらを「歴史の流れとして正しい立場」だと思っているアメリカ人が多いのかがわかる。
また、人種差別者だと見なされるとビジネスで失敗することも明らかになってきた。その一例が、人気フィットネスジム「クロスフィット」のCEO(最高経営責任者)グレッグ・グラスマンだ。ワシントン大学保健指標評価研究所の「人種差別は公衆衛生問題だ」という6月7日のツイートに対して、グラスマンは、ミネアポリスで殺されたフロイドとCovid-19をかけて「それはフロイド-19だ」とリプライしたのだ。それが非常に無神経であり人種差別だという批判が高まり、クロスフィットの多くのユーザーが「もう行かない」とソーシャルメディアで抗議した。その結果、リーボックはクロスフィットとの提携を取りやめ、グラスマンはCEOを退任することになった。
人種差別をする白人のすべてが生粋の白人優越主義者ではない。これまで白人とばかり接してきたので、差別だと気づかずに差別的な言動を取っている人もいる。また、自分とは異なる人とどう付き合えばいいのかわからず、戸惑ったり、恐れたりしている人もいる。そういう人たちが、「このままではいけない」と思い、図書館で本を借りたり、本を購入したりして勉強をし始めている。アマゾンでも、6月18日現在のベストセラーの1位と2位はこれから発売されるトランプ暴露本で、3位から6位まではイブラム・X・ケンディの著作2作を含む人種差別に関する本だ。
「抗議デモなど無駄だ」と思っている人がいるかもしれない。だが、5月末にミネアポリスで始まって全米に広まった抗議デモの影響で、出版業界だけでもこれだけの変化が起こっている。読書は人の考え方を変えてくれるので、ベストセラーのリストが変われば国民の考え方も変わっていく。人種差別を促すような大統領への批判はさらに高まり、アメリカの将来も変わっていくだろう。