父親のすすり泣きが響き渡る法廷
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法廷には、L被告人の父親が情状証人として出廷です。まずは、弁護人から。
弁護人「証人は、被告人のお父様、と。証人と奥様と被告人、ずーーっと3人暮らしであるということですね」
父親「はい」
弁護人「昨年11月に同種の事件を起こしてますけど、その時の保釈金と示談金は誰が出したんですか?」
父親「保釈金は私が。示談金1つ目は確か被告人が出してたんじゃないかと記憶しています」
弁護人「去年12月の裁判でも、証人として出廷されてますよね。どんな話をされましたか?」
父親「監督不足で、どこに行くかをカレンダーに書いて報告させると」
予定を見える場所に書かせて、監督するという方法をとって、実施していたそうです。
弁護人「実際はどんな生活でしたか? 様子とか」
父親「外に出るのはスタジオに行くとか言ってました。レッスン、オペラの発声とかで」
弁護人「それは習い事ですよね。そのお金はどうしてたんですか?」
父親「1時間数百円、300円とかなので、大金じゃないので。小遣い程度に渡すことはあったもので……」
弁護人「多少の援助はしていたと。それで、事件の内容聞いてどう思いましたか?」
と、ここまで細身で華奢な体つきではあるもののハキハキと返答していた証人が、
父親「信じ……信じられな……」
と、か細い肩を小刻みに揺らしながら泣き出したんです。
父親「ううう……」
質疑応答どころじゃないほどのすすり泣き。
弁護人「答えなくて大丈夫ですよ……」
小休止と言うか、全休符。証人が泣き止むのを法廷中が静かに待っている感じです。
裁判官「あの、落ち着いてからでいいですよ」
全休符、さらにフェルマータ。
証人のすすり泣きの声だけが響く法廷で、全員がまんじりともせず証人を見つめ、1分ほど経ったところで質問再開です。
弁護人「今回、2件示談に応じてもらってますよね」
父親「はい」
弁護人「ただ、一人の方にまだお金を払ってないんですよね」
父親「はい、月末に払おうと」
弁護人「ま、失礼ですけど、金銭的に余裕がないと伺っています」
父親「私も音楽家で、妻はパートをふたつ掛け持ちでやって、余裕がない中、なんとか……、はい、すいません」
親子2代で音楽やってたんですね。どの犯罪でもショックは受けるんだろうけど、よりによってコンサート会場の楽屋ドロボーとなると精神的ダメージは一段と大きいんじゃないだろうかと。それは先ほどの涙が物語っているわけですが。
弁護人「体調も悪い中ですけど、面会は行かれたんですか?」
父親「拘置所がコロナの都合で1回しか行けなかったんですけど、あとは手紙ですね。18通。もう音楽はやめなさいと(書いたけど)、でも小さい時から音楽が好きでピアノやってきて(と、返事があった)……。もう一度チャンスがあるなら……なんとか……でも、なんでそんなお金が必要なんだと。ホントに活動したいのであれば自分のお金でやって……」
と、興奮しているのか、話がまとまらず、最後は涙声で聞き取れなくなったところで質問終了です。音楽を続けて欲しいけど、許されるのかという葛藤があるんでしょうね。