EVENT | 2020/06/08

テラハ自殺問題が大きな契機に。SNS誹謗中傷の特定と民事手続きはどうなる?【連載】FINDERSビジネス法律相談所(23)

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(今回のテーマ)Q. 「テラスハウス」...

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SNSによる誹謗中傷は法で制御できるのか?

「違法行為を防ぐ方法としては、規制の強化や厳罰化といった手法が一般的です。ただ、匿名性があり発信者が特定されにくい状況だと、「バレない」という心理状態となり、単に厳罰化するだけでは実効性はありません。そこで検討されているのが、発信者開示請求のハードルを下げること、つまり、加害者を特定しやすい制度設計なのです。

具体的には、プロバイダ責任制限法4条1項の要件の再検討、負担の軽い発信者情報開示手続き、開示対象たるIPの範囲見直し、さらには匿名訴訟制度など、加害者を特定して責任追及しやすくするさまざまな制度についての意見が出され、検討されています。

「発信者情報開示のハードルを下げたり、匿名性をなくしたりする方向では誹謗中傷は減らない」「悪いことをする人間は、匿名性があってもなくてもどこでも悪いことをする」などとして、開示のハードルを下げるだけではSNS上の誹謗中傷自体は減らないといった意見もあるようです。

たしかに、それだけで完全に誹謗中傷が撲滅されるわけではないかもしれません。ですが、川崎希さんの被疑者のように、「どうせバレない」という思いから違法な投稿をする人は、一定数存在しているのも確かです。そうなると、開示のハードルが下がることによって誹謗中傷の数自体を減少させることにも繋がるように思います。少なくとも、誹謗中傷をされた被害者の事後的な権利救済としては大きな前進であることは間違いありません。

国家権力に有利になる?

表現行為を規制の方向での話が持ち上がると、かならずといっていいほど「表現行為の萎縮に繋がる」「国家権力が強大化する」といった意見が出ます。たしかに、法改正の内容は、国家権力が都合よく恣意的に国民の政治的言論を萎縮させるようなものにならないよう、国民は監視する必要があるとは思います。

ただ、本件の改正で検討されているのは、あくまで他人を誹謗中傷するような違法な表現を対象とするものですから、そうした誹謗中傷の発信者情報開示のハードルを下げるような内容にとどまる限りは、国家権力が強大化するとまではいえないように思います。

インターネットやSNSの光と影

インターネットやSNSというツールによって、わたしたちの生活がひと昔前と比べて格段に便利になっているのは間違いありません。こうした傾向は今後さらに加速しながら続いていくでしょう。

他方で、いつでも誰とでもつながり意見発信ができるという、ひと昔前では考えられなかった状況は、まったく利害関係もない遠い他人を簡単に傷つけたり、最悪は死に追いやったりしてしまうという影の部分も持ち合わせています。

過ちを犯すという人の本質はなかなか変えられない以上、インターネットやSNSという便利なツールの影の部分を手当てしていく法制度やしくみを、私たちは考え続けて行く必要があるでしょう。


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