「自分にとって仕事とは何か」を振り返らずにいられなかった
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―― これらの問題はどの企業にとっても他人事ではないと思うのですが、企業側はどう感じているのでしょうか?
渡辺:企業側もコロナ禍によって大きな経済的ダメージを負ってしまったところは少なくなく、社員の契約終了に踏み切る企業も増えています。会社の感染拡大防止対策が無策すぎて、上層部が「ウチは全員出社で、テレワークなし!」と頑なな姿勢を貫くため、社員個人の考えで会社に呆れて転職した者もいたと聞きました。
また、キャリアが大きく変わってしまう方もいらっしゃいました。例えば営業一筋30年やってきたような方でも、対面で商談ができなくなってしまい、売上が長期的に大幅ダウンしてしまう。「こんな状況でも自分が何とかせねば」と追い込んで心が折れてしまった方もいます。産業医面談にて「休職を挟んでもう一度考え直しませんか?」と申し上げたのですが、最終的には退職を選んでおられました。これは企業側からすると意図しない損失になってしまったと思います。
別のケースでは、本社営業をされていた方が工場勤務に異動になりました。その方は「正直、自分は今まで天狗になって、製造現場に無理なお願いばかり言っていましたが、実際現場に配属されたことでこんなに大変な状況下でも頑張っているんだということがようやく理解できて、良かったと思っています」と話されていたことが印象的でした。
一言でいえば「人それぞれ」ということになってしまいますが、コロナ禍に「自分にとって仕事とは何なのか」を重大な決断を迫られた方はたくさんいらっしゃったと思います。
危機の兆候発見につながる「会話の機会」を増やすべき
―― 会社や上司は、社員のメンタルヘルスを守るため、どのように活動や制度を整えるべきでしょうか?
渡辺:まず上司の方に関しては、とにかく「良い時も悪い時もコミュニケーションを取り続けること」を意識していただきたいと思います。ちょっとした「調子はどう?」以上の、踏み込んだことを聞きにくいのは当然ですが、コミュニケーションを怠ると1週間、2週間があっという間に経過してしまい、その間に急速にメンタル不調に陥ってしまう方もいます。少なくとも午前中に1回、午後1回程度はコミュニケーションを取る方が良いと思います。
その「コミュニケーション」はビデオ通話や電話だけに限らず、ビジネスチャットの文字だけの会話でも同様です。「あれ、彼の返事がいつもより遅いな」「彼女の返事内容がいつもよりネガティブだな」と察知できる見守りスキルが強化された人も多いと思います。朝のミーティングや会議だけでなく、1on1や2on2を積極的に開催するのも効果的です。
―― 最近は「ほうれんそう(報連相)」だけでなく「ザッソウ(雑談・相談)」できる環境づくりが大切だと言われることも多いですね。
渡辺:それも重要ですね。ただ上司からすると、自分の仕事もこなしながら部下全員と1日1回コミュニケーションを取るのは時間が足りないという方も多いと思います。タスク管理ツールを導入することで仕事の進捗を把握しやすくなりますし週1回ないし月に何度か、15分でも定期的に会話をする機会を設定することをおすすめします。
会社としての対策では、「成果物が上がってくるスピードが遅くなった」など、ちょっとでもおかしいと感じた社員がいる場合は、上司からのヒアリングと同時に産業医面談を促すことも重要です。テレワークの場合、仕事のオンオフが難しく、パソコンを開けば一日中いくらでも仕事ができてしまいます。必然的に仕事のことで悩む時間も増えてしまいがちです。結果として、悪くなっていくスピードも速まりますので、取り返しのつかないことになってしまう前に1週間ほどですぐにアプローチすべきです。
―― 最後に、会社や上司が従業員をケアする必要があるのは大前提として、それでも個人で気をつけるべきことは何でしょうか?
渡辺:例えば神保さんが、学生時代から好きだったことはありますか?
―― 今もずっと続いているのは、音楽を聴くことと本を読むことです。
渡辺:そうした趣味が不調になってくるとできなくなってしまうんです。そうなってしまう前に、好きなことの時間をしっかり割くべきです。加えて、皆さんやっぱり仕事が終わってからも仕事のことを考えて続けてしまっているところがあると思います。
―― それはありますね。仕事後すぐに夕飯やお風呂になるので、その間も「明日のタスクは何だったっけか」と考えてしまったり。
渡辺:そうですよね。それを絶対にしないように、終業後はもうパソコンを閉じてしまって下さい。テレワークが身近になった今、オンオフをきっちり分けることが本当に大切です。ついつい働きすぎないよう、自分の管理を徹底しましょう。
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