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※お詫びと訂正
当初、本記事のタイトルは【テレワークで「午前中何もできなかった」は危機のサイン?産業医が語るテレワーク時のメンタルヘルスケア】としておりましたが、編集部のミスにより【テレワークで「午前中何もできなかった」は危機のサイン?】というタイトルに対応する本文の文章が無いまま採用してしまっていたことから、タイトルを変更いたしました。訂正しお詫び申し上げます。今後このようなことが無いよう、一層注意してまいります。
テレワークは我々の働き方の選択肢を増やしてくれる「良い施策」である一方、気をつけるべき副作用も存在する。メンタルヘルスに不調をきたしてしまう人が少なくない、いわゆる「テレワークうつ」の問題だ。
多くの企業が昨年から今年にかけて「テレワーク導入によって自身がどのように変化をしたか」という趣旨のアンケート調査を実施しているが、どの結果を見ても「ストレスが増えた」「体調や精神的な不調が増えた」といった回答を半数以上の人が答えている。70%を超えている調査も珍しくない。
これまでであれば多少ストレスを感じてもレジャーや飲み会などで発散できる部分もあったが、コロナ変異株の増加やワクチン接種率が低い現在ではまだまだ難しい。そしてテレワークはオフィス出社よりも「あの人がちょっと危ないかもしれない」という兆候を見つけにくい環境にある。全く仕事が手につかなくなってからようやく「実は…」と訴えられることが続いてしまうと会社・従業員双方にとって大きなダメージとなりうる。
今回インタビューする渡辺佐知子氏は、メンタルヘルステクノロジーズ社が手掛ける、企業向けオンライン健康相談サービス「ケアーズLite」のアドバイザーも務めている。まさに「テレワーク環境下でのメンタルヘルス不調」の最前線で活動する同氏に、現在起こっていることや企業・上司・従業員個人が何を気をつけるべきかをうかがった。
渡辺佐知子
精神科専門医・指導医・指定医
金沢医大卒業後、同大学の神経科精神科勤務。同大学女性医療センター外来を担当後、厚生労働省医系技官として、がん対策を中心とした政策立案や医療行政に携わる。ミャンマーでの海外医療ボランティアでは駐在員のメンタルヘルス対応に従事。現在は、クラウドサービスで社員のメンタルの問題を解決するメンタルヘルステクノロジーズが手掛けるサービス「ケアーズLite」などの担当医として国際的で多角的な視点から助言・提言を行っている。
聞き手・構成・文:神保勇揮
面談希望数が去年の1.5倍に増加
渡辺佐知子氏
―― 昨年は日本企業でもテレワーク導入が大きく進んだこともあり、その反動として心身のバランスが崩れてしまう、いわゆる「テレワークうつ」的な状態に陥ってしまう人も少なくないと聞きます。ここ最近で渡辺先生の元に届く相談件数や内容に変化はありましたでしょうか?
渡辺:相談件数は去年の1.5倍ぐらいになっていると感じます。緊急事態宣言が出る度に増えたことを実感しています。今は多くの産業医がオンライン面談にも対応していますが、各企業からの面談希望者が多すぎて全員と面談することが難しい時期もありました。
相談内容は、コロナ禍初期では「自分が感染してしまう、誰かを感染させてしまうのが不安です」といった未知のウイルス感染への恐怖からくる不調のご相談が多かったのですが、長期化するにつれてより具体的かつ深刻な身体的・精神的不調が生じた方が増えました。自殺などの対応も連続発生したため面談時間を短縮し、数を優先して多くの社員と面談せざるを得ないこともありました。
コロナ禍特有のものとしては、「新卒入社または転職で、自己紹介をして上司と一回話したくらいで、職場に慣れる間もなくテレワークに突入」という社員の不調です。具体的な状態としては
・一つ一つの細かい質問ができず、出社の数倍ストレスがかかっている
・作業の流れやテクニカルサポートも少ない中で作業の流れがつかめない
・部署内のコミュニケーションがとれず、入職してから仕事に慣れる間もなく時間だけが過ぎてしまい、「期待値以下の仕事ぶりです」と低い評価をされてしまう
という状況下にあることが多く、早い人で2カ月目くらいから
・寝つきが悪い、眠りが浅く目が覚める
・仕事のことを考えると不安で焦る
・夜中に仕事をしている夢を見てしまう
・明日の朝もまた仕事をするかと思うとしんどい
などと精神的に追い込まれていくようになり、身体不定愁訴(胃が痛い、腹痛、頭痛、頭重感、手足の震え)も出てきてしまうと仕事が全くできなくなってしまいます。産業医面談中に画面から消えて吐いている方もいらっしゃいました。
オフィスに出社していた頃は「困ったことはこの人に聞けばいいよ」と同僚が教えてくれていたのが、今は何をするにもチャットツールで上司とのビデオ会議の予約をしなくてはいけない。雑談用のチャットルームもあるものの、いざ自分が何か書いてみてもいまいち反応がなくて浮いている感じがある、というようなコミュニケーション不足からのストレスが生じていることが多いです。
従来であれば1カ月程度でマスターできるような業務に3カ月以上かかってしまったりする。そうなると上司から「この社員のパフォーマンスが期待値を下回ってしまっている」と人事側へ共有され、人事側がヒアリングすると心身の不調を訴えることが多く、産業医面談へ誘導されるパターンが続いています。
自治体からのテレワーク7割以上という協力要請に対して、企業側は、かなり無理をして対応してくれていますので、産業医側から、入職して日が浅い社員は出社優先するなどのアドバイスをしています。
産業医は「会社との折衝」も受け持つ存在
―― 先程「相談内容がよりヘビーになっている」とおっしゃっていましたが、それは具体的にどういうことなのでしょうか?
渡辺:これまでであれば決定的に悪化してしまう前にケアできたことも多かったのが、さらに進行してしまった状態で面談に来る方が非常に増えているということです。
オフィスに出社していた頃であれば、たまたまエレベーターで会った、お昼を一緒に食べに行ったタイミングなどで誰かが「何かあったのかも」と気付けるタイミングが多かったのが、テレワーク環境下ではよほどそうした「偶然の会話の機会」を意識的に作らなければ話す機会もない、よって気付けず見逃してしまっていることが非常に多いのです。
―― 産業医と面談することは、従業員にとってどのような効果があるのでしょうか?
渡辺:去年、ある企業の社員全員にアンケート回答してもらうことを通じて、産業医面談ができる制度をアピールしてもらったことがありました。アンケートを実施する際に「この会社には産業医がいて、メンタル不調の相談ができるのはもちろん、会社との間に入って働きやすい環境調整をしてくれる人なんです。その産業医に自分から相談をリクエストする権利が全ての従業員にあります」ということを改めて周知してもらいました。企業によっては、ほとんどの社員がそうした制度があることを知らないんです。
周知していただいたうえで、「どんな困りごとでも構いませんので気軽に書いて下さい」とお願いをしました。健康相談でもいいし、テレワーク中になぜか不安な気持ちになるでもいいですし、原因がわからないけれどとにかく胃が痛いです、でもいい。書いていただいた上で「あなたは産業医面談を希望しますか?」と質問したところ、想定の3倍以上の申込みがありました。従来の30分の枠で対応していると数カ月かかってしまうので、悪化度合いが大きい人を優先に、半分の15分の枠にしてとにかく多くの方の話をうかがう。たった15分でも最低限のアドバイスができますし、私からも「この方はフォローアップが必要なので、絶対に来月も面談の時間を下さい」と人事に伝えられます。
また、先程もお話ししましたが「この業務のやり方がわからないけれど誰に聞けば良いのかもわからない。自分でもパフォーマンスが落ちてしまっているとわかっているので助けてほしい」といったことをうかがうケースも多いですし、上司や同僚と気軽にできていたコミュニケーションを産業医が補えるという側面もあるかと感じます。
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