CULTURE | 2021/04/07

今春さらに勢いを増す国民的芸人・サンドウィッチマン『M-1』優勝から本格ブレイクまで10年かかった理由とは?【連載】テレビの窓から(6)

イラスト:IKUMA

木村隆志
コラムニスト、コンサルタント、テレビ解説者
「忖度なし」のスタンスで各媒体に毎...

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語り継がれるサクセスストーリーに

震災以降、視聴者心理がジワジワと変わり、それまで芸人の大多数を占めていた「前へ前へと出る」「声を張り上げる」などの振る舞いに疑問の声を挙げる声が増えていった。ネット上にはバラエティに大量出演する芸人たちを見て、「うるさい」「疲れる」「内輪ウケ」「古い」などの批判が挙がり、『めちゃイケ』(フジテレビ系)や『とんねるずのみなさんのおかげでした』(フジテレビ系)ら長寿番組の終了は、そんな視聴者心理の象徴かもしれない。

一方、サンドウィッチマンはそんな芸人像に迎合せず、相変わらずひょうひょうとしていて、「前へ前へと出る」「声を張り上げる」という姿はほとんど見せなかった。事実これほど売れっ子になった現在でも、『坂上どうぶつ王国』(フジテレビ系)や『THE突破ファイル』(日本テレビ系)ではMCの坂上忍や内村光良をサポートするレギュラー出演者という一歩引いたポジションを取っている。

さらに、『サンドウィッチマン&芦田愛菜の博士ちゃん』(テレビ朝日系)で芦田や子ども博士たち、『10万円でできるかな』(テレビ朝日系)でKis-My-Ft2を前面に押し出していることも同様。2人のそんな姿を見続けてきた人々が「サンドウィッチマンはいい人」と言い切れるのは当然だろう。

現在はミルクボーイや、ぺこぱなどの活躍もあって、「誰かを傷つけない笑い」が流行しているが、この先駆けとしてサンドウィッチマンの名前を挙げる声が目立つ。しかし、サンドウィッチマンは、ただのいい人ではなく、もともと毒を織り交ぜる幅の広さがあり、決して「誰かを傷つけない笑い」ではない。

たとえば、『バイキング』(フジテレビ系)の「生中継!日本全国地引き網クッキング」で地方の一般人をバサバサと斬っていく毒気たっぷりの痛快さがウケていた。かつて毒舌漫才で知られたビートたけしから評価されているのも、芸人としての毒を忘れない彼らの芸風が大きいのではないか。

以前からサンドウィッチマンを「東の漫才とコントのトップ」と称える声はあったが、現在では「日本の国民的芸人」と言っていいだろう。数十年後、かつて「ヤクザとモンスターにたとえられた売れない芸人による、日本芸能史に残るサクセスストーリー」として語り継がれているかもしれない。


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